東京ビジネスデザインアワード 商品化レポート
石山 & hitoe「ソナエア」
商品化への道のり インタビュー

2017年度の東京ビジネスデザインアワード(TBDA)で優秀賞に選ばれたものの、受賞案での商品化は難しいことがわかり方向転換。最終的に防災や在宅避難をキーワードに「インテリアになる防災グッズ」が開発された。受賞から5年を経ての商品化の実現。デザイナーと企業が対等の立場で、密なコミュニケーションを進めてきたことが成功の秘訣だ。

優秀賞提案からの方向転換

――株式会社石山は大正7年創業で、今年で104年目ですね。

石山幸夫(株式会社石山 代表取締役社長) はい。創業から醤油の醸造や流通のための木製樽を製造していましたが、今から55年ほど前に木製からプラスチック製に移行しました。主に醤油や味噌、漬物などの食品メーカー向けに容器を供給し、「食品パッケージ」を切り口に食と住の文化を豊かにするための商品づくりをしてきました。時代に合わせて素材も変化するなかで、現在は冷蔵冷凍物流向けの発泡スチロールを使った保冷容器が主軸です。

――発泡スチロールは消費者にとっても身近な素材ですが、御社ならではの特徴はどのあたりにありますか。

石山 一言でいえば、商品開発力だと思っています。食品パッケージが大きな柱ですが、発泡スチロールという素材の特性を生かして、近年は食品以外の雑貨や建材などいろいろな商品開発に挑戦しています。例えば、ユニットバスの浴槽や電気給湯器を囲む断熱材、養殖場の海上に浮かべるフロート(浮き)などです。さまざまな産業の見えない部分を支える仕事だと考えています。

――発泡スチロールという素材については環境面での誤解もあるようですが。

石山 例えば、「ダイオキシンが出るから燃やしてはいけない」と聞くことがありますが、炭素と水素でできているのでダイオキシンは出ませんし、一部の自治体では「可燃ごみ」として回収しています。発泡スチロールは、小さな粒を何十倍にも膨らませるので、原料が2%で残りは空気。これほど省資源な素材はないと思います。再資源化も可能で、環境に優しい素材として見直されています。

――hitoeのおふたりは、株式会社石山が提示したテーマのどんなところに興味をもったのでしょう。

榎本大輔(hitoe デザイナー) 僕らにとって発泡スチロールは、緩衝材や梱包材など、表に出るというよりは裏方をサポートする素材というイメージがありました。テーマの文章を読み込んだところ、「(発泡スチロールに何かを)添加できる」という記述にピンときたんです。膨らませる前の樹脂ビーズに添加することで発泡スチロールの機能性や価値をバージョンアップできるという点に興味をもちました。

横山織恵(hitoe デザイナー) 素材そのものをバージョンアップする切り口って何だろうか、何を添加すれば面白いかと考えているうちに、「光る発泡スチロール」というアイデアが出てきたんです。

▲hitoe デザイナー 榎本大輔

▲hitoe デザイナー 横山織恵

――蓄光するパーテーションとして防災の現場で使うという使用シーンも高く評価され、優秀賞を受賞しました。その後、商品化は進んだのでしょうか。

菊地美紗子(株式会社石山 企画開発課 主任) 実を言うと、発泡スチロールを十分に光らせるにはさまざまなハードルがありました。最初は蓄光材をビーズに塗布してみましたが、膨らませるときに流れてしまうので断念。その後もたくさん実験をして塗布の仕方や量などを検討しましたが、コストや強度の面でも難しかったのです。

石山 また、避難所のパーテーションとして使うためには、試作の光量が不十分でした。光る発泡スチロールというのはぜひ実現したかったのですが、最終的な機能や販路、また工数やスピード感のバランスを見た結果、方向転換することにしました。でも、防災というテーマに取り組みたいという気持ちはありました。

▲株式会社石山 代表取締役社長 石山幸夫

▲株式会社石山 企画開発課 主任 菊地美紗子

発泡素材の特性をフルに生かす

――その後、商品開発はどうなったのでしょう。

榎本 石山社長が「とりえず何かをつくろうよ」と言ってくれたので、防災をベースに、会社にある商品ラインアップを組み合わせて何ができるかを考えました。そのなかで、既存商品の「軽イス かる助」が目に止まったんです。

菊地 ゴム紐で腰に取り付けて使うイスです。頻繁にしゃがんだりするときの腰の負担を軽くしてくれるので、釣りやガーデニングなどで活用されています。

横山 発泡スチロールに座れるっていいなと思って、そこからインテリア商材としての発想が生まれました。防災グッズは普段はしまっておくことが多いと思うのですが、常に室内に置いて、インテリアとしても成立するようなもの。都心部では在宅避難が提唱されていると聞いたので、その中身をリサーチしたり、専門家にもヒアリングしました。

▲「軽イス かる助」

――「ソナエア」は、おしゃれなスツールのようです。どのあたりに防災の要素があるのでしょう。

榎本 発泡素材がもっている軽さやクッション性、保冷性、浮く性質などはすべて防災に適していると考えています。石山の皆さんとやり取りをしながら形状をデザインしていきました。例えば、必要最低限の防災アイテムやペットボトルを入れられるよう、18リットル程度の容積を確保しています。内側の蓋は取り外しができるので、停電時に保冷剤を入れれば冷蔵庫の食材を移しておくこともできます。

――100キロを載せても大丈夫なんですね。

石山 採用したのは発泡ポリプロピレンです。発泡スチロール(スチレン)に似ていますが、ポリプロピレンは堅牢なうえ、耐摩耗性や耐薬品性があって、素材自体の強度がある。屋外でもほとんど劣化しないんです。まだ新しい素材で、多くのメーカーが活用方法を模索しているところです。

色や質感の可能性も追求

――色も美しくや独特な質感があります。

榎本 インテリアとして、テクスチャと色は特に大事でした。発泡ポリプロピレンなら発色の自由度が増すということで菊地さんにサンプルをたくさんつくってもらいました。

菊地 発泡ポリプロピレンのビーズが内部まで着色されているので、表面に色を塗布している発泡スチロールと違って、原色に近い色が出るんです。試作を繰り返しながら、hitoeさんのイメージにどんどん近づけていきました。また表面は、工業製品感を軽減するため、マットな質感に加工したいというhitoeさんの要望がありました。そこで金型そのものに加工を施すことで、ザラザラとしたシボ感のあるテクスチャを表現しました。

横山 ベルトの取り付け方や色までこだわったんですよね。

菊地 はい。この素材にどういうパーツであれば取り付けられるか、外見のイメージと求められる機能をすり合わせましたね。

▲インテリアになる防災グッズ「ソナエア」

成功の秘訣は密接なやり取り

――あしかけ5年にわたるプロジェクトですが、ほぼTBDA事務局のサポートなしに、二人三脚で進められたと聞いています。そのコツとは何でしょう。

榎本 デザイナーが勝手にデザインして納めるのではなく、菊地さんたち企画開発室も主体的にデザインのブラッシュアップに関わり、お互いに踏み込んでやり取りできたことでしょうか。

菊地 社内からも「こうしてはどうか」といった意見も上がってくるので、率直にやり取りさせていただきました。こちらの話も親身に聞いてもらい、とても柔軟にすり合わせできたので、ありがたかったです。

横山 さまざまなお客様と取引があるから、要望をもらったらすぐに成形するというプロセスに慣れていらっしゃるような気がします。私たちからの提案に対しても、いつもすぐにフィードバックをいただいて、スピード感がありました。

榎本 アクションが早いし、状況によっては導いてくれましたよね。

――2019年春頃からプロジェクトがスタートし、いよいよ今年7月に販売されます。

榎本 商品としては完成したので、今後はどうやって流通させていけるかですね。

石山 ホームセンターなど量販店の取引先をもっているので、これから流通に力を入れていく段階です。今回、新しい素材、新しい分野に挑戦するきっかけをもらったので、ほかの商材などもうまく組み合わせて、シリーズ感をもって売り込んでいけたらと思います。

――TBDAへの参加を通じて、社内の変化などはありましたか。

菊地 実を言うと、プロジェクトが始まった頃は入社したばかりで、どう進めたらよいかわかりませんでした。実際にやりながら、社内でどう連携すればうまくいくかを学びました。当時、発泡ポリプロピレンという素材は、当社にとって「これが皮切り」みたいなタイミングで、「なんとか形にしたい」という社内の機運もあって進めやすかったです。

石山 「この賞に向かって」という雰囲気を社内全体でつくることができましたね。

――最後に、TBDAに参加した感想を教えてください。

石山 これまでB to Bの事業に特化してきました。TBDAの参加を通してB to C向けの商品をどうやってつくるかということはとても大きな経験になりました。さらにhitoeさんとマッチングできてよかったのは、われわれの特性をよく理解していただいたうえで、柔軟に対応してくれたこと。これからも、お客様に「こんな商品がほしかった」と言ってもらえるように、食と住の文化がよりよくなるような「器」を生み出していきたい。そのための、基本となる考え方を教えてくれたような気がします。

株式会社石山 https://www.ishiyamapack.co.jp/

hitoe http://hito-e.jp/

SONAIR https://www.ishiyamapack.co.jp/sonair/

東京ビジネスデザインアワード https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

(写真:辻井祥太郎)