切り紙をヒントに凍結面をグリップし、転倒事故を防ぐ靴のソール

かつて筆者も暮らしたことがあるボストンでは、冬季に凍結した歩道で歩行者が足を滑らせる転倒事故が少なからず発生していた。寒冷地では、どこでも起こりがちなこうしたアクシデントを防ぐために、地元のマサチューセッツ工科大学の研究チームが開発したのが、日本の切り紙にヒントを得た構造を持つソール(靴底)である。

ここでは、仮にキリガミソールと呼ぶことにするが、これは、立って静止している状態ではフラットだが、歩き出すと突起が現れて路面をグリップしやすくなる構造を持つ。それは、ちょうど無数の「ヘ」の字型の切り込みを入れた紙をしならせると角が現れるのと同じで、隠れていた突起が、ソールが曲がることによって現れるのだ。

研究チームは、さまざまな突起の形状を試した結果、飛び出た部分が凹面となるように調整されたものが最もグリップ力を高めることを発見し、キリガミソールではない場合と比べて摩擦を20~35%も増やすことに成功したという。一般的なスパイク付きの靴と比べたときのメリットは、歩行時のソールの曲げ具合によって突起の出方を調整できる点にあり、早く歩こうとすれば強く蹴り出そうとして必然的に曲がり方も大きくなるため、突起の突出量も増えてグリップ力が高まる。

キリガミソールの素材としては、用途に応じて樹脂や金属が考えられ、最終的に靴自体のソールとして組み込むことも、既存の靴に後付けするようなアタッチメントをつくることも可能とのことだ。

もともと凍結路面を想定して開発されたソールだが、それ以外にも研究チームは水や油で滑りやすくなっている水産物市場や機械工場などへの応用を考えており、現在も改良が続けられている。End