東京国立博物館から、法隆寺夢殿に入る。「未来の博物館」

12月11日(日)まで開催されていた東京国立博物館の特別企画「未来の博物館」は、1日平均だけで入場者数1,800人を超える人気のある展覧会となった。その理由を第1会場の展示から読み解く。

「空間をこえた出会い」を体験する

東京国立博物館本館の重厚な大階段の下を抜けると、目の前に奈良県斑鳩にある法隆寺夢殿が現れる。幅約13mの3面スクリーンに映し出された長く広い参道を通り、実写8K映像である夢殿の正面に近づく。

同博物館とNHKが8K技術と3Dスキャナー、フォトグラメトリーを使って開発した文化財のデジタルアーカイブ化は本誌「AXIS211号」(2021年6月号)62ページの「本物の価値をさらに高めるXR体験、8K文化財プロジェクト」で紹介しているが、今回の「未来の博物館」ではその技術をつかって、より「見せる」ことが進化している。

法隆寺夢殿の本尊・国宝救世観音菩薩立像は、謎の多い仏像と言われてきた。ずっと秘仏として封印されてきており、つくられた年がいつなのかもはっきりしていなかった。それを開けさせたのは明治時代のアーネスト・フェロノサと岡倉天心だ。仏像は470mもある布で巻かれていて、開けたときには古代からの埃とともに微笑む仏が姿を現したという。それが今回、超高解像度の3DCGで、あますところなく露わになっている。


仏像は聖徳太子の実物大の大きさと言われ、身長が180cmほど。それに台座があり、また実際に見るときはかなり距離があるため、顔を間近に見ることはできない。著者は、今回この映像を見て初めて、宝冠に散りばめられた玉が、ラビスラジュリのような青い瑠璃色だということを知った。

法隆寺以外の「時間をこえた出会い」の展示

展覧会では、救世観音菩薩立像のほか、2つのコンテンツを体験することができる。


次の展示室に展開する、実物大に映し出された美容家のIKKOと、横9.6m、縦2.7mのLEDディスプレイ上の国宝洛中洛外図屏風(舟木本)。他に料理研究家・土井義晴、歴史学者・磯田道史らが、岩佐又兵衛が描く400年前の京都の街中へナビゲートする。絵の中に没入してしまい見飽きることがない。


最後の展示室はデジタル・ハンズオン・ギャラリーとなっている。江戸時代の能面(小面)や遮光器土偶、重要文化財の甲冑「樫鳥糸肩赤威胴丸」の3点があり、コントローラーを使って能面の裏側や、土偶の内側、甲冑の織り方の細部に至るまで、自由に鑑賞することができる。

▲救世観音像全体の8KCG

デジタル技術によって、今まで見られなかったものが見られるようになり、それで満足かというとそうはいかないのが不思議なところだ。逆にどうしても本物が見たくなる。

デジタル技術がさらに進み、スマートフォンやiPadでも簡単に美術品のディテールを見ることができるようになると、返って博物館やギャラリーに本物を見に行く人が増えるのではないだろうか。そんな予測も未来の博物館の姿を示唆するひとつと言えよう。(文/AXIS 辻村亮子)End