韓国流のアップサイクル建築と、進化系プリクラのサービスデザイン

前回から引き続き、韓国ソウルの話題を取り上げることにして、今回は気になる建築と店舗デザインの話をしよう。
 
ひとつ目は、コモングラウンドという商業施設。敷地の中央に大きな池のある建国大学からほど近い場所にあり、その池も、コモングラウンドも、韓流ドラマのロケなどでたびたび使われている。実は2015年オープンなので、決して新しいわけではないが、ウイルス禍もあって、なかなか訪れる機会がなく、今回の訪韓でようやく現地に行くことができた。

約1,600坪の敷地に200個もの大型コンテナを組み合わせて建設されており、コンテナ利用の施設として世界最大級の規模を誇る。誘致されたブランドも、有名どころよりはストリート系の小規模店やオンラインショップの実店舗が多く、新進気鋭のデザイナーの発信拠点といった印象だ。Eコマース隆盛とはいえ、実際に実物を見て買いたいという人も少なからずいるようで、そうした要望にマッチする店揃えになっている。

船に山積みされて運ばれるコンテナゆえに、積層時の強度も十分にあるわけだが、もちろん単に並べただけでは側壁などが邪魔になり、設計の自由度も限られてしまう。そのため、施設内部では、骨格となるフレーム部分だけを利用して空間を確保し、外壁も解体したパーツで構成したり、テイストを合わせた特注部材を使っていると思しき箇所がある。

コンテナは、空間に適度な凹凸が生じるように立体的に配置され、もともとの開閉ドアが持つインダストリアルな雰囲気もうまく活用しながら、モジュール化された造形でも単調にならないような工夫が見られる。また、敷地の中央には多目的に使える広場が設けられており、訪問時には、いかにもインスタ映えしそうな赤いクマのぬいぐるみのインスタレーションが行われていた。

ふたつ目の話題は、そうした若者のインスタ映えへの希求を捉えた最近のトレンドと言える「セルフスタジオ」である。ソウル市内のあちらこちらで目についたセルフスタジオは、文化的な位置づけから言うとプリクラの進化系的な存在だが、3つの点で大きく異なっている。

まず、プリクラは他の施設内のブースとして運用されるが、セルフスタジオは独立した店舗であり、そのデザインもプリクラの派手なカラフルさとは対極にあるスタイリッシュなものだ。次に、プリクラは主にデジタル処理によって写真に「盛る」演出を施すが、セルフスタジオでは、備えつけのドレッサーとアクセサリや小道具によってその場で自らを飾りつけ、それで写真を撮る仕組みである。そして、プリクラのシャッターは自動で切れるが、セルフスタジオの場合には被写体となる自分がタイミングを決められる。

つまり、セルフスタジオは、よりリアル指向で主体的に楽しめるようになっており、プリントされる写真(=モノ)もさることながら、友達や恋人と店に入ってから撮るまでの体験(=コト)を重視したサービスデザインが施されているわけだ。

その料金は、4カット4,000ウォン(約400円)〜6カット5,000ウォン(約500円)といったリーズナブルなところが多いが、なかには撮影時間が15分で写真のセレクトに15分を基準として、ふたりで3万ウォン(約3,000円)〜という店もある。そして、見かけたどの店舗も若者たちで盛況だった。

日本でも韓流ブームに乗って、新大久保エリアにセルフスタジオ的な設備を持つフォトスタジオができたりしているが、韓国のものと比べると路面店ではなくビル内の個室的な設えだったり、営業時間が限られる(現地のセルフスタジオは24時間営業のところが多く、実際に、夜も賑わっている)など、利用スタイルを含めて、似て非なるものという印象を受ける。

いずれにしても、このようなセルフスタジオがソウル市内に数多くつくられるようになったのは、ウイルス禍によって大量に出た空き店舗の物件をリノベーションして転用したためのようだ。これも、観光客の減少を内需の拡大で補うためにデザイン力を利用した好例と言えるだろう。End