筆者は『ルンバを作った男 コリン・アングル「共創力」』(小学館)の著者であることからわかるように、現在のロボット掃除機の原型となったルンバを開発して改良を続け、今もそのトップブランドであり続けるアイロボットを尊敬している。その後に登場したロボット掃除機は、(特許に抵触しないようにしつつも)基本的なコンセプトやおおまかな形状、機構の点で多かれ少なかれルンバのフォロワーであり、そこには形が円形でないものも含まれる。
しかし、あえてルンバとは違う路線で勝負しようとする野心的な製品が現れた。それが、社名と同じ製品名を持つマチックだ。メーカーのほうのマチックは元グーグルのふたりのエンジニアによって設立され、その最初の製品としてロボット掃除機のマチックが開発された。まず、ひと目で違うとわかるのが、角丸の四角い筐体とその前端から突き出している吸引&水拭きノズルである。ノズルは一般的な掃除機のようにT字型で上下に動くようになっていて、本体の前進時にゴミを吸い取り、同じく後進時に床を拭くように機能が切り替わる。
また、自律走行の仕組みについても、既存のロボット掃除機が物理的な触覚センサーや赤外線センサー、LiDAR、カメラなど複数のセンシングデバイスを搭載して室内のマッピングや障害物の回避などを行うのに対して、マチックは工業検査やオートメーションに利用されるRBGカメラのみを5基搭載し、四方の様子をリアルタイムで把握してAIが分析することで適切なルートを見極めて吸引や床拭きを行う。
さらに、本体のみで音声認識もでき、ゴミや汚れのある箇所を指差して声で指示することで、ピンポイントのクリーニングもできる。もちろん、プライバシーにも配慮され、映像や音声データは本体内で処理され、外部に送られることはない。
ドッキングステーションは充電のみの対応で、ゴミの吸い出しや給水機能はないものの、例えば本体内の集塵バッグがフルになると、ゴミ箱の近くに移動してユーザーに捨ててもらうのを待つようなインテリジェンスの与え方がユニークである。
2024年3月の出荷開始を予定しているマチックの定価は$1,795(約264,945円)と安くはないが、ロボット掃除機の市場は高級機とエントリー機に二極化しながら、まだ拡大の余地を大きく残している。マチックに対する市場の反応とともに、アイロボットをはじめとする既存のロボット掃除機メーカーがどのような対抗策を打ち出してくるかが楽しみである。