富士フイルムCLAYスタジオの新たな試み。
高機能材料を体験できる
「CLAY material LAB」を初開催

富士フイルム デザインセンターでは2月5日から10日にかけて、東京都港区のCLAYスタジオ内で「CLAY material LAB」と題したイベントを初めて開催しました。

これは、富士フイルムの高機能材料とデザインを融合させた多様なプロトタイプを発信する場で、次世代につながる新たな表現の可能性を探求するもの。初開催となった今回は、「アドバンスド マーキング」をテーマに、同社が独自開発した「構造色インクジェット技術」と「高輝度メタリックインクジェット技術」を用いたプロトタイプを発表。同社ソリューションデザイングループの河本匠真さんと小杉山岳土さんが、それぞれの技術を来場者に詳しく解説しました。

蝶の羽の輝きを再現

同社のソリューションデザイングループは、15の事業部と16の研究所を持つ同社のさまざまな技術や素材から、まだ見ぬ新たな価値をデザインする部門。今回、初開催された「CLAY material LAB」は、同グループの河本・小杉山の両氏の発案によるプロジェクトで、同社が独自開発した高機能材料や素材をデザインと融合させ、さまざまなプロトタイプを制作し発信する場とすることで、まだ見ぬ表現や新たな可能性を模索するものです。

CLAYスタジオ内のコンテナ倉庫を「アートギャラリー」に仕立て、招待者のみの完全予約制で2月5日から6日間にわたって開催され、アーティストやプロダクトデザイナー、建材メーカーの担当者などが訪れました。

CLAY material LABの会場は、富士フイルムデザインセンターのCLAYスタジオにあるコンテナを改造した場所で行われた。通常は倉庫として利用しているコンテナを「ギャラリー」に仕立てている。©️YAMAMOTO KEITA Photographic Record

展示でまず目を引くのは、「構造色インクジェット技術」を用いた5つのプロトタイプ。「構造色」とは、光の波長程度の微細な構造によって生じる発色現象で、物質自体に色がなくても反射される光の干渉によって「色があるように見える」現象。例えば、中南米原産で神秘的な青色が特徴のモルフォ蝶の羽は特定の色を持っているわけではなく、鱗粉(りんぷん)の微細な積層構造が青色の波長だけを強く反射することで、人間の目には独特の青色として認識されます。ほかにも身近なものでは、タマムシの外殻やシャボン玉の膜なども、構造色によるものです。

展示された「構造色インクジェット技術」のプロトタイプのうち、「FLOAT」と題した作品。構造色の保有する光学特性を活かし光の透過とモアレを制御することで、通常の色では表現できない視覚効果が起きている。©️YAMAMOTO KEITA Photographic Record

河本さんは「富士フイルムでは、この構造色をインクジェット印刷によって再現する技術を独自に開発しました。多くの技術者が長年研究を重ねてきたこの技術を、どのようなかたちで社会に実装させられるかを、さまざまな業界・業種の方に直接ご覧いただきながら体験できる機会として、CLAY material LABという場を設け、プロトタイプを展示しました」と話します。

今回展示された5つのプロトタイプのうち、「LAYER」は、マラカイト(孔雀石)柄を構造色インクジェット技術で印刷した3層のレイヤーで表現した作品。それぞれの層が特定の色(波長)の光を反射し、それ以外の光は透過するため、通常の印刷物ではあり得ない、モルフォ蝶の羽のような色の奥行きを感じさせるとともに、立体感があり、見る角度によって見え方が全く異なります。

展示された「構造色インクジェット技術」のプロトタイプのうち、「LAYER」と題した作品。マラカイト(孔雀石)柄を構造色インクジェット技術で印刷し、3層のレイヤーを特殊な技術で歪みなく圧着して表現した。通常の印刷物ではあり得ない、深い奥行きが感じられる。©️YAMAMOTO KEITA Photographic Record

河本さんは、「背景の色によっても見え方は全く異なりますし、複数の出力物を重ねると、光による加法混色も表現できます。図柄はデジタルデータなので、当然、任意の画像を構造色化したり版の拡大・縮小も可能。箔やホログラムを指定する感覚で、構造色をさまざまなデザインに取り入れられます」と説明します。

PETフィルムに印刷できるこの技術は、すでにシチズンの腕時計の文字盤や、ヒールレスシューズなど奇抜なデザインで世界的に注目される舘鼻則孝氏のアートピースにも採用されました。今回のイベント期間中にも、多くのクリエイターをはじめ、建材メーカーの担当者らがプロダクトやインテリアへの採用を検討していたといいます。

独自技術で「金属をインク化」

このほかにも、展示では富士フイルムの研究者が独自に開発した「高輝度メタリックインクジェット技術」のプロトタイプも来場者の目を引いていました。

「ごく簡単に言えば、金属をインク化して出力できるようにした技術です。箔などによる均一的な光沢とは異なり、光沢を感じないほど少量のインクを載せたごく薄い光沢感から、しっかりと輝きを生み出す濃厚なメタリック部分まで、継ぎ目なくなめらかに光沢を表現できるところに、この技術の核心があります」。ソリューションデザイングループのデザイナーで、入社直後から約4年にわたってこの技術に携わってきた小杉山さんはそう話します。

富士フイルムが独自に開発した「高輝度メタリックインクジェット技術」のプロトタイプ。「RUGGED_NEGA」「RUGGED_POSI」と名付けられた作品は、メタリックインクの打滴量をコントロールすることによって、従来の印刷物にはない凹凸表現を実現している。©️YAMAMOTO KEITA Photographic Record

「RUGGED_NEGA」「RUGGED_POSI」と題した2点のプロトタイプは、この「高輝度メタリックインクジェット技術」によって印刷表現された山岳風景写真。メタリックインクの打滴量を適切に制御することで、従来の印刷物にはない凹凸表現を実現したといいます。深みを感じさせる影の表現や、山肌に当たる光の移ろいなど、色ではなく「光沢の強弱」によって表現された山並みは、「unknown expression」と表記されるように、従来の印刷物には決してない独特なかがやきと表現性の高さ、そして奥深さを感じさせます。

「インク内の金属粒子をUV光を当てることによって水平・平滑に配向させる技術は、弊社が培ってきたフィルムを均一に膜化する技術を応用しています。世界初のテクノロジーで、通常の大判インクジェットプリンターでも利用できるため、多様な分野で表現の領域を大幅に広げられると考えています」(小杉山)

「高輝度メタリックインクジェット技術」は、いわば「金属をインク化して出力できるようにした技術」(小杉山)。色ではなく「光沢の強弱」によって被写体やモチーフを表現することができ、箔などを用いた表現とは根本的に異なる。©️YAMAMOTO KEITA Photographic Record

こうした展示に加えて、ふたりが「ブリコラージュ」と呼ぶ、実際に手を動かしながらものづくりをしたりデザインを考えたりする手法を体験できるコーナーも設けられ、組み合わせや光の当たり方によって大きく変化するふたつの技術を、多様なアーティストやクリエイターらが体験。新たなプロジェクトへの採用を検討する担当者や企画の打診も多くあったそうです。

新たな「画材」として

ふたりは「ソリューションデザイングループとしてもまったく新たな試みということもあり、今回は『vol.0』と銘打って実験的に開催しましたが、自分たちが携わっている技術だけではなく、富士フイルムが持つ多様な技術や素材を、広く発信していく場になればと考えています。自分たちは『画材』を開発していることに似た感覚があって、商材としてだけではなく、アートや文化の領域でもアーティストやクリエイターなどとともに、新たな表現方法を発掘していければ」と話しました。

「CLAY material LAB」を開催した富士フイルム デザインセンター ソリューションデザイングループの河本匠真(写真左)と小杉山岳土。 同グループでは、12の事業部と11の研究所を持つ富士フイルムのさまざまな技術や素材から、まだ見ぬ新たな価値をデザインによって生み出している。©️YAMAMOTO KEITA Photographic Record