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2024.12.27 12:21
公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「グッドデザイン・ニューホープ賞(GOOD DESIGN NEW HOPE AWARD)」は2024年12月7日(土)、最終プレゼンテーション審査に進んだ8組のなかから、最優秀賞に「入院している小学生を対象にしたあそびのスターターキット『アドベンチャーBOX』」を選出した。
2022年度にスタートした同アワードは、次世代のデザイン分野を担う若い才能を支援することを目的としている。「物のデザイン」「場のデザイン」「情報のデザイン」「仕組みのデザイン」の4つのカテゴリに分かれ、今年度は日本全国から過去最多の606件の応募があった。
「想い」をつなぐデザインプロセス
最優秀賞に選出された同作品は、入院している小学生にあそびを届けるスターターキット。「アドベンチャーBOX」のなかには、独自に制作したオリジナルの絵本と工作キットが入っており、「ベッドの上から冒険を始めよう!」を合言葉に、置かれた環境を何かに見立てたり、心の赴くままに想いを表現する創造的なあそびを通じて、闘病体験を前向きな物語に紡ぎ直すきっかけを提供する。
プレゼンターを務めた猪村は、「子どもたちにとってあそびは、自己表現や創造性を育む本質的な活動であり、病気や治療と向き合うなかで『自分らしさ』を取り戻す大切な手段です。同時に、あそびは子どもたちが社会とつながるための共通言語でもあります」と語る。例えば、入院中に限らず、退院後から学校に通えるようになるまでの間においても、孤独を感じてしまう子どもたちも少なくないそうだ。そんなとき、自治体や地域社会が提供するフリースクールなどの制度や仕組みを活用できるように、医療現場を中心にコミュニティを形成し、あそびを媒介とした連携がデザインされている。実際にフィンランドやスウェーデンの子ども病院を回りながら、子どもたちのウェルビーイングに視点を置いた関わり方を学び、日本において実現できていない取り組みに着手している。これは同作品が「物のデザイン」としてだけでなく「仕組みのデザイン」として評価された理由でもある。
「私たちは、デザイナー、医療専門スタッフ、子どもたちやご家族、さまざまな立場の声を丁寧に聞き、そこから生まれる『想い』をつなげることで、子どもたちのための明るい未来を形にしていく役割を担っていると考えます。 こうした多様な視点や専門性を掛け合わせ、みんなでより良い療養環境を社会全体でつくり上げていくことが私たちの取り組みです。また、その共創のプロセスから生まれる新たなデザインのあり方が、今回の受賞で評価していただいたのだと感じています」と続けた。
グッドデザイン・ニューホープ賞の進化とこれから
審査委員長の齋藤精一(クリエイティブディレクター/パノラマティクス主宰)は、「設立3年目となるニューホープ賞は、グッドデザイン賞の応募にはないような若いアイデアを募ろうと始まったものですが、もはや『学生の賞』の域を超えています。先日、グッドデザイン大賞が選出されて総括として浮かび上がってきたのが、『はじめの一歩から ひろがるデザイン』でした。ひとりとその周りにいる人たちが同じ熱量と哲学を持って始めることが、非常に重要だと思っています。皆さんのピュアな熱量とモチベーションは絶対に忘れないでほしいですし、私たち大人こそ、その視点や姿勢を学ばないといけないと思いました。今後も、いま持っている熱量と自分の視点を大切に、芽を伸ばしていってほしいです」と講評を述べている。(文/AXIS 大内康太郎)