Rebbur プランター
Photos by Kentaro Hattori
中小企業が持つ優れた技術や素材に、デザイナーのアイデアや視点をかけ合わせることで、新しいデザインやビジネスを生み出す「東京ビジネスデザインアワード」(以下、TBDA)。2012年から毎年実施されているこのアワードによって、これまで数多くの中小企業とデザイナーがマッチングしました。本連載では、受賞したアイデアの実現までのプロセスやその想いに迫ります。
今回紹介するのは、2023年度(第12回)に優秀賞を獲得した新素材プロジェクト「Rebbur(リバー)」です。天然ゴムと食品業界で廃棄される未活用材から生まれた、工芸的な表情を持つバイオベースのプロダクトラインは、ゴム製品に対するこれまでのイメージを軽やかに塗り替えています。
お話しいただいたのは、素材開発・製造を手がけた江北ゴム製作所の代表取締役社長である菅原健太さんと、プロダクトデザインとブランディングを担当したsoell代表の土井智喜さんです。
ゴムのイメージを覆す
——受賞作品の「Rebbur」について教えてください。
土井 天然ゴムと食品由来の未活用材をかけ合わせた新素材のプロジェクトです。素材開発と製品展開の両面からアプローチし、「Rebbur」としてブランド化しました。現在は、卵の殻、お茶の端材、海苔の端材を天然ゴムに混ぜ込んだ3種類を開発し、白・緑・黒のカラーバリエーションとして展開しています。
土井智喜(どい・ともき)/soell代表、デザイナー。プロダクトや空間のデザインに加え、企画立案からブランド構築、展示会運営までを幅広く手がける。デザインプロジェクト「NEW NORMAL」の代表として東京・大阪・ミラノなどで展示を行う。桑沢デザイン研究所および昭和女子大学では非常勤講師を務める。
——天然ゴムと食品由来の素材の組み合わせは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
菅原 昨今の環境意識の高まりを受け、ゴムの専門業者として、天然ゴムが持つ土に還る生分解性という特性に改めて光を当てたいと思ったのが最初です。多くのゴム製品は強度や耐久性を高めるために化学物質が加えられていますが、本来天然ゴムはゴムノキの樹液からできる自然素材ですから、時間の経過とともに微生物によって分解されます。なので、持続可能性の高い混合材として最初に着目したのが、年間約25万トンも捨てられている卵の殻でした。卵の殻を使用した天然由来成分97%の環境配慮型ゴムの開発に成功し、この素材を「TKG」と名付けました。
菅原健太(すがはら・けんた)/江北ゴム製作所 代表取締役社長。1976年生まれ。創業者である祖父の代から続くゴム製造業を継承し、2016年より現職。配合設計から製品開発までを一貫して手がけるとともに、新たなものづくりにも積極的に取り組む。信条は「ゴムの力で困りごとを解決」「何でもトライ!」。
――Rebburで使用している材は、どれも未活用材なんですね。
土井 例えばお茶であれば、製茶の過程で取り除かれる硬い茎などの「出物(でもの)」の一部を使っていますし、海苔は規格サイズに切り揃える際に出る端材を活用しています。いずれも通常であれば廃棄されるものを、私たちはそれを加工業者のご協力のもとで譲り受けているんです。
——天然由来にこだわることで、製品の質に影響は出ないのでしょうか。
菅原 色の変化などの経年変化、製品の個体差が発生しますから、それらが人によってはデメリットと受け取られるかもしれません。お茶の端材を使ったものは、最初は鮮やかな緑色をしていますが、着色料を使用していませんので時間が経つにつれて茶色っぽく変化していきます。ただ、こうした移ろいもぜひ楽しみながらご使用いただきたいと思って、素材本来の自然な風合いをあえて残しました。
右から「コースター ノリブラック(海苔の端材)」「スタンド エッグホワイト(卵の殻)」 「プランター ティーグリーン(お茶の端材)」。
——そういった素材の表情を楽しめるアイテムが、このプランターとコースター、ノートパソコンの台座やスマホスタンドとしても使えるスタンドですね。
土井 これらはゴムの特性を生かしたラインナップです。プランターなら、地震などの揺れでもテーブルや棚から滑り落ちにくいですし、万が一倒れても割れることがないので床を傷つける心配もありません。円形の蓋は本体の内溝にはめ込む構造になっていて、土などの中身がこぼれにくく、小さなお子さんやペットのいるご家庭でも安心して使っていただけます。
「Rebbur」の素材はとても柔らかく触り心地もなめらか。かすかに海苔やお茶の香りが残り、これまでのゴムの印象とは異なっている。
技術を生かす、点から面のアイデアへ
——Rebburは、2023年度TBDA(第12回)にて優秀賞を見事受賞されました。どういった点が審査委員に評価されたと感じていますか?
土井 素材そのものの面白さだけでなく、ビジネスデザインの観点から、地域連携の広がりにも可能性を見出していただけたのではないかと思います。Rebburに混ぜている卵の殻は愛知県の食品会社から、茶葉は香川県の製茶業者、海苔は佐賀県の加工業者から提供いただいており、結果的に産地とのつながりが生まれました。今後、扱う素材の種類がさらに増えれば、地域ごとのコラボレーションや課題解決、問題提起にも寄与できるのではと考えています。
——どのようなテーマでデザイナーからの提案を募ったのでしょうか。
菅原 「弊社で独自設計したオリジナルゴムや多彩な加工技術を使って、世の中の困りごとを解決したい」というテーマで募集しました。天然ゴムと卵の殻からつくったTKGのほかに、コロナ禍に開発した抗ウイルスゴム、スライムのように柔らかいゴムのほか、さまざまな種類のゴムを開発してきましたし、専業化が進むゴム業界においてタイヤ以外ならなんでも引き受ける体制と人材があることが弊社の強みですから。
土井 自由度が高いテーマのなかで、自分に何ができるかを考えていたとき、TBDAが行う工場見学に参加しました。江北ゴム製作所でたくさんの素材や技術を実際に拝見してその技術力に驚かされる一方、どの素材や技術を発展させたとしても“点のアイデア”になってしまい、その後の発展性をイメージできなかった。ですから、TKGをつくる技術を応用してさまざまな未活用材を混ぜ込んだ素材開発をするという、“面で広がる展開”を提案したんです。
——江北ゴム製作所の幅広い可能性のなかで、TKGの技術に的を絞ったんですね。
土井 はい。そして実際にマッチングしてからは、いろいろな素材で挑戦しました。ただ、うまくいかなかったもののほうが多かったですね。受賞後、さらに半年以上の時間をかけて、調整していきました。配合前の素材が持つ色味や風合いが成形後に失われるものも多く、加工に適した素材選びや配合比率の調整にかなりの時間がかかりました。何度も改良を重ねて素材の完成度を高めていったんです。
——その後の製品化に向けての動きはいかがでしたか。
菅原 賞を受賞してわずか 2カ月後、ミラノデザインウィークで多くの方々へRebburの試作をお披露目する機会に恵まれたことは、とても幸運なできごとでした。土井さんがデザイナー仲間と実施している「NEW NORMAL」というプロジェクトの展覧会に誘ってくださったんです。混ぜ込む素材は卵の殻やお茶の端材だけでなく、みかんの皮やぶどうの搾りかす、おからなどもありましたが、混ぜ物の“異物感”をなくすために素材の粒子をできるだけ細かくしたり、経年による変色が目立たないように着色料を使っていた段階でしたね。
土井 ミラノで来場いただいた方々は未活用材に対する興味関心が強く、経年変化で色や品質が変わることに対しては、むしろポジティブな特徴として捉えてくれたんです。そうした反応から、製品化に向けた仕上げの方向性を定めるうえで大きなヒントを得ることができました。
右が新しいプランターで、左が半年ほど時間を経たプランター。緑色から茶色に移り変わっていく。
常識に捉われない、逆転の発想
——土井さんにとって、これまでのデザイン活動と違ったチャレンジはありましたか?
土井 Rebburは、江北ゴム製作所だけでは完結しないプロジェクトですから、素材提供をお願いするために他企業や団体と連携したり、活用の可能性を一緒に探したりする必要がありました。製品開発を素材づくりからスタートさせるワンストップのものづくりは、自分にとって初めての試みで、デザイナーとして大きな経験のひとつとなりました。
——菅原さんは、今回の協業をとおして自社のものづくりに対する考え方に変化はありましたか?
菅原 現在進行形で強く感じているのは、これから弊社社内の意識を変えていかなければいけないという課題感です。これまでの製造現場では、製品の色が変わる、形に個体差が出るといった違いは不良品とされてきました。でも、Rebburはむしろそうした変化を味わいとして受け止めるもの。それは価格設定の考え方にもつながっていて、「素材や商品の魅力をどう消費者に届けたいか」という視点で考える必要があることを学んでいるところです。
現在Rebburのプロダクトは、ブランドの公式サイト、江北ゴム製作所の公式サイト、NEW NORMALのサイトで販売。今後は園芸店などへの展開も検討している。
2025年2月には日本最大級の国際見本市「ギフトショー」へ初めて単独で出展。地球環境保護の視点や、持続可能性に貢献している商品に贈られる「ベストサスティナビリティ賞」を受賞した。
——Rebburの今後の展開についても教えてください。
菅原 プロダクトだけでなく、素材そのものの展開も見据えています。例えば、スポーツ施設の人工芝には衝撃を和らげるためにゴムチップが使われていますが、現在主流なのは古タイヤを砕いた素材で、環境負荷が大きいのが実情です。これを土に還るRebbur素材に置き換えていきたい。すると、これまで“劣化”と見なされていた経年変化の特性が、むしろ高い機能性として捉えられるはずですから。Rebburというブランド名はゴムを意味するrubber(ラバー)を逆さから読んだ言葉で、「逆転の発想」という意味を込めています。これまでの価値観に縛られずに、新しい視点から素材開発や製品展開にも意欲的に取り組んでいきたいですね。(文/阿部愛美)
「ギフトショー」をきっかけに、とあるメーカーから天然由来の廃棄物を提供できないかと相談があり、二組はさっそく試作に着手しているという。そうして身軽で柔軟に取り組むRebburは今後もさまざまな展開が期待できる。