REPORT
7時間前
「真面目にふざけろ」が裏テーマというけれど、もはや表テーマかもしれない……。毎回ユニークなテーマ(お題)を設定し、それに対してデザイナーたちがピッチ(プレゼン)を繰り広げる「NEURON(ニューロン)」。その第5回が2025年5月14日に東京・新橋のライブハウス「ZEAL TEATER TOKYO」で開催された。自らの趣味を好き放題?に語るデザイナーたちのパワーとともに、あまりにも濃い〜イベントとなった。1回のレポートにおさまらないため、前後編の2回に分けてお届けする。
今回のテーマは「趣味とデザイン」。趣味はその人の個性や価値観を象徴するものでもある、というのは言い過ぎではないはず。デザイナーにとっての趣味は、日々のクリエイティブな活動に対して、直接的・間接的に何らかの影響を与えているのではないか。
今回のNEURONでは、登壇者たちが自身の趣味について語ることで、今までにない視点や発想を参加者全員と共有するとともに、新たな刺激とインスピレーションを得る場にしたい、と考えられた。
従来のNEURONは“仕事がらみ”のテーマだったため、どうしても遠慮や躊躇があった。しかし、今回は自らの趣味の話。タガが外れた?登壇者たちが思う存分、好き放題に自らの趣味を語る場となった。
120名超の人々が集結した満員の会場。NEURONの恒例で、まずは全員で乾杯だ。
関野吉晴さん。イベントの2日前まで西表島で旧石器時代の生活を送っていた。
ゲストスピーカー 関野吉晴さん
冒険という趣味がいつしか仕事に?
ゲストスピーカーは冒険家で医師、文化人類学者、武蔵野美術大学名誉教授の関野吉晴さん。大学時代に趣味で冒険をはじめ、それがいつしか仕事になった。20代のころはアマゾンに通い詰めたが、それは純粋に興味があり面白かったから。そのうち写真や文章が売れるようになり、徐々に冒険が仕事になっていった。人類の足跡を辿る「グレートジャーニー」はあまりにも有名である。実はイベントの2日前まで西表島に滞在し、近代的な道具を一切つかわない旧石器時代の生活を送っていたそうだ。
余談だが、関野さんは武蔵野美術大学の教授時代(文化人類学)、ゼミの一環としてキャンパス内で豚の丸焼きをしていたとのこと。会場には教え子で丸焼きに参加したというデザイナーが何人もいた。
サンゲツ 床材ユニット商品開発課の天笠珠記さん。
サンゲツ 床材ユニット商品開発課 天笠珠記さん & 吉岡萌黄さん
趣味は「登山」と「ブレイク中のアイドル」?!
ピッチ大会には12の企業デザイン部門が参加。スタートはサンゲツ 床材ユニット商品開発課の天笠珠記さんと吉岡萌黄さん。天笠さんの趣味は登山だ。愛犬とともに山に登ることもある。登山とデザインの共通点は事前準備と情報収集が必要なこと、発見やインスピレーションがあること、集中力や持続力が鍛えられること、そしてなにより達成感があること。山頂でのカップラーメンほど美味いものはないという。
サンゲツ 床材ユニット商品開発課の吉岡萌黄さん。推しへの愛?を語る。
吉岡さんの趣味は、某アイドルグループの応援で、なかでも“推し”は2025年タレントパワーランキング1位にも選ばれている。デビュー前の曲の歌詞からインスピレーションを得た商品「ムーンロード」をデザイン開発したというほどだ。画像をお見せできないのは残念だが、推しの活躍の変遷とともに自身のキャリアの推移を語り、会場を沸かせた。今の夢は推しの主演作品にサンゲツが美術協力し、自らデザインした商品が推しに“踏まれる”こと。この夢を叶えるためにこれからも仕事を頑張る!
日立製作所 デザインセンタの山口大洋さん。
日立製作所 デザインセンタ山口大洋さん
趣味は「自作キーボード」
つづいては日立製作所 デザインセンタの山口大洋さん。趣味はパソコンの自作キーボードだ。自らパーツを選び、組み立て、タイピングの感触や、キーの数や配置、見た目などをカスタマイズしている。その魅力は「理想の打鍵感や機能性を追求できること」「キーボードを通じた自己表現ができること」「コミュニティが活発で仲間できること」。実はその“界隈”はにぎやかになっているらしい。人間工学的にも従来型のキーボードはいかに使いにくいかも力説した。
自作キーボードの制作プロセスはまさにデザインシンキングそのものだと山口さんは語る。課題を認識し、その解決方法を考え、プロトタイプをつくり、使いながら判断していく。この趣味をとおして、「なぜこの形と機能なのかを考える習慣」と「プロトタイピングによって、ユーザーの立場を体験したうえで課題を発見しようとする姿勢」が身についた。楽しいだけではなく、実は仕事にもつながる。そんな趣味の効用を語ってくれた。
ダイハツ工業 デザイン部の上村涼輔さん。
ダイハツ工業 デザイン部 上村涼輔さん & 山宮悠平さん
趣味は「ローカルスーパー巡り」?
ダイハツ工業 デザイン部の上村涼輔さんが紹介したのは「ローヤルさわやか」という福井県で売られている炭酸飲料。これは同デザイン部の山宮悠平さんからもらったものだ。山宮さんの趣味は「ローカルスーパー巡り」。全国展開していないその土地だけのスーパーで、そこでしか手に入らない“ご当地もの”に出会うのが楽しくて仕方ないという。ご当地食材を使ったグルメや、見たことのないパッケージの菓子、未知のブランドの調味料や飲料……。
ダイハツ工業 デザイン部 山宮悠平さん。
栃木県佐野市出身の山宮さんは高校時代、個性とは何かと、自らのアインデンディティに悩んでいた。しかし、大学進学で引っ越した千葉で、どこに行ってもその土地なりの個性があることに気づいたという。以来、さまざまな土地を訪れ、その土地の人や文化に飛び込み、触れ合うようになった。「デザイナーとして、ひとつひとつの地域やコミュニティの個性を大切に、人と地域、人と人の想いをつなぐ架け橋となり、世界を彩っていきたい」とピッチを締め括った。
TOTO 第二デザイングループの矢戸 舞さん。
TOTO 第二デザイングループの矢戸 舞さん
趣味は「“ヤマンバギャル”メーク」と「薬剤戦師オーガマン」
登場とともに会場をざわつかせたのは、TOTO 第二デザイングループの矢戸 舞さん。矢戸さんの趣味は、好きなファッションをすること(ヤマンバギャル)と推し活(薬剤戦師オーガマン)。常に好きなファッションで生活してきた。大学時代は民族衣装に身を包み、その後はロリータファッションも。現在は「うぬ」という名前でテレビをはじめ、人気ヤマンバギャルとして多数のメディアに出演している。メイクのこだわりは簡単に手に入る道具でできること。汎用性を持たせれば、興味を持った人がすぐに真似ができるからだ。
矢戸さんの“推し”である薬剤戦師オーガマンは福岡を拠点とするドラッグストアの株式会社大賀薬局がつくり出したご当地ヒーローだ。決めゼリフは「薬飲んで、寝ろ」。企業のプロモーションというだけでなく、保育園を訪問して正しい手洗いやうがい、歯磨きを教えるなど、地域貢献にも積極的。その人気に刺激されて、他企業もヒーローを生み出し、「ドゲンジャーズ」というヒーロー集団までできた。
オーガマンへの愛?を語りつつ、「ヒーローが人々を元気にするように、私もファッションで周囲の人を元気にしたい」と矢戸さん。決して自己満足ではなく周囲を巻き込み、楽しませながら“好き”を追求する姿勢には感動すら覚えた。ほんとに。
大成建設 設計本部 澤田拓巳さん。
大成建設 設計本部 澤田拓巳さん
趣味は「仮装・コスプレ」
オリジナルの仮装で登場したのは大成建設 設計本部の澤田拓巳さん。そう見てのとおり、澤田さんの趣味は「仮装・コスプレ」である。かつてはカメラマンとしてコスプレを撮る側だったが、いつしか自分も撮られる側になった。仕事以外の時間は寝る間も惜しんで道具や衣装、ウィッグの制作を行い、土日はイベントに参加するという大忙しの日々。2次元のキャラクターと自分自身の特徴を理解しながら、仮装姿をデザインしていく。すべてが手づくりで、納得がいくまで試行錯誤を繰り返す。そのこだわりには圧倒される。
最後はステージ中央で決めポーズ。
「このプロセスは建築にも通じる」と澤田さん。なぜなら、建築は現実世界の制約の中で概念的な空間を生み出しながら、オリジナリティや美しさを追求していくものだから。「これからは技術やマテリアルの発展によって建築で表現できる幅がもっと増えるはず。AIや電子世界だけじゃない、現実での感動レベルを上げていきたい」と決めポーズとともにピッチを締めた。
ここまで濃い〜登壇者の濃い〜話で、会場はお腹いっぱいになっていたが、これがまだまだ続くのだ。
NEURONのホームページはこちら。