本質的な価値を探り、社会につなげるデザイナー小関隆一
その魅力はシンプルななかに際立つ造形美

「Bottled」Ambientec(2012)。ボトルの形をした調光型のコードレスのポータブルLED照明。Photo by Hiroshi Iwasaki

小関隆一は、大学でインテリアデザインを学び、プロダクトデザイナーの喜多俊之に13年間従事。2011年に自身の事務所RKDSを設立し、プロダクト、グラフィック、スペースのほか、アートディレクション、クリエイティブディレクション、ブランディングと手がける分野は多岐にわたる。今年はミラノデザインウィークで家具を展示する一方、日本のポータブル照明メーカーAmbientec(アンビエンテック)からも新たに「Still」を発表。シンプルでありながら、造形美が際立つ作品で知られる小関に、デザインに対する考えを聞いた。

「Oculus」(2018)。白い円筒形の塊から、放たれる光の形をくり抜くというコンセプトで制作した照明。2018年のストックホルムファニチャーフェアに出品し、ベストパフォーマンス賞を受賞。©︎RKDS

出発点はインテリアデザインへの興味

小関は東京で生まれ育った。高校生のときに将来を考えるなかで美大の存在を知る。雑誌や本で調べるうちにアートよりもデザイン、デザインのなかでも特にインテリアに魅力を感じ、1994年に多摩美術大学インテリアデザイン専修に入学。

在学中に、杉本貴志率いるスーパーポテトでのアルバイト経験を通じ、最前線をゆく彼らの仕事に刺激を受けた。やがてインテリアデザインや空間デザインの中で扱う国内外の家具に興味を抱くようになり、大学の卒業制作では「床面を変容させた家具」をテーマにおいた。その制作最中に自らと近しいコンセプトでデザインされた、喜多俊之が手がけた大型のソファ「Saruyama」を知る機会があり、その発想力とデザインに心をつかまれた。

「KTDK」(2011)。2011年のDESIGNTIDE TOKYOへ出品した、木製の折り畳み収納家具兼パーティション。

大学卒業後、大阪にある喜多俊之のIDKデザイン研究所(現・喜多俊之デザイン研究所)に入所。プロダクトに限らず、グラフィックやパッケージ、スペースデザイン、見本市会場のアートディレクション、ブランディングといった国内外のプロジェクトに幅広く携わり経験を積む。

2011年に独立し、東京に自身の事務所RKDSを設立。ちょうど募集を行っていたDESIGNTIDE TOKYOへ応募し、出展への機会を得る。「初めて作品を自主制作したことはもちろん、そのときの人の関わりが今につながっています。自分のデザイン活動はDESIGNTIDE TOKYOを起点に動き出した気がします」と小関は振り返る。

「Bottled」Ambientec(2012)。当時出回り始めたポータブル照明のスタンダードになるものを目指して開発に取り組んだ。Photo by Kazutaka Fujimoto

転機となったAmbientecとの出会い

2011年独立当初のもうひとつの転機は、同時期にインテリアライフスタイルに出品していたAmbientecとの出会いだ。同社では、水中撮影機材の製造販売のなかで築いた技術と経験をもとに、初めてのポータブル照明をつくる企画が持ち上がっていた。外部デザイナーとして小関に白羽の矢が立ち、製品開発がスタート。2012年に「Bottled」が生まれた。

「すでに開発が進んでいたLEDモジュールの使用を条件に、コードレスなのでテーブルの中央に置けることを知ってもらうためにさまざまな仕掛けをしています。目線を遮らないサイズ感、周囲のインテリアと調和しやすい素材、ハンドルやグリップの必要性とパーツ点数の最小化、アフォーダンスのある操作性などから導き出すことで、必然的にボトルのフォルムに近いものになりました」と小関は誕生の経緯を話す。

これを2014年のミラノデザインウィークに出品したところ、ミラノのデザインギャラリー、ロッサナ・オルランディの目に留まり、のちにギャラリーで取り扱われるようになる。小関にとっては独立後、初めて世界への扉が開いた出来事となった。

「Xtal」シリーズ Ambientec(2015~)。テーブルの各席にひとつずつ置いて楽しめるグラス型の照明を開発。上下に向けて設置したLEDと、職人の手作業によるカットガラスによって、放射状に美しい光が放たれる。Photo by Hiroshi Iwasaki

企業の事業を支え、育てていく

小関はプロダクトをデザインする際に、そのプロダクトが企業の事業を支え、育てていく存在になることを念頭に置いているという。奈良県に拠点を構える国内屈指の樹脂製品の老舗メーカーのライクイットとの協働においては同ブランドのアイコンになったキッチン用品「米研ぎにも使えるザルとボウル」の開発に携わり、世界各地のデザイン賞を受賞すると同時に、ユーザーからの高い評価も獲得し、企業の事業発展にも寄与している。

「米研ぎにも使えるザルとボウル」ライクイット(2018~)。縦スリットを入れることで水切れを実現。すでに確立されたものと思われていたザルのデザインに新しい視点をもたらした。複雑な金型設計や米研ぎに適した樹脂設計はメーカーの技術と経験があってこそ。iFデザイン賞、レッドドットデザイン賞、グッドデザイン賞ほか多数受賞。Photo by Giichi Kondo

自主制作の作品を継続的に発表

小関は自主制作の作品も継続的に発表している。その際はクライアントワークではできないような、実験的で大胆な発想を取り入れることもある。

2018年のストックホルムファニチャーフェアのために照明「Oculus」を制作し、初めて海外出品した。コロナ禍を経て、2022年からはミラノデザインウィークのAlcova(アルコバ)で毎年、作品を発表している。Alcovaは歴史的建造物や工場跡地などを舞台に最新のデザインを展示するプラットフォームで、そこで毎回、多様な人との出会いがあり、小関にとってビジネスの契機にもなっているという。例えば、2023年に発表したデスクランプ「Diag」は、ミラノのニルファー・ギャラリーを主宰するニーナ・ヤッシャーとの出会いもあり、後にフロアランプとしてニルファー・エディションに加わる機会を得た。

「Diag Floor Lamp」Nilifar(2024)。細いラインが空間に斜めに描かれる、重量のあるベースの構造体が本体を支えるフロアランプ。ベース可動部を動かすことで用途や空間に合わせて高さ調節が可能。©︎RKDS

これまでミラノデザインウィークでは、照明を出品することが多かったが、今年は「Deconstructed Minimalism(脱構築されたミニマリズム)」というタイトルで、木製の家具シリーズを発表。なかでも注目を浴びたのは、面構造でつくられたスツール「Wall Structured Stacking Stool」だ。

「世の中に格好いいスツールはたくさんありますが、それでもいつか挑戦してみたいと思っていたアイテムです。明快なデザインを行いたいと思う一方、ミラノデザインウィークのような場では埋もれてしまう懸念があり、特徴を失うとオリジナリティにも欠けてしまう。自分が勝負できるポイントは何なのだろう、ルーツやビジョンはどこにあるのだろうとひたすら向き合うなかで『脱構築されたミニマリズム』という言葉に行き着きました。シンプルかつミニマムでありながらも、ミニマムと認識できる境目、せめぎ合いのようなところはどこなのかを探りながらデザインをしました」と、小関は作品に込めた思いを語る。

「Wall Structured Stacking Stool」(2025)。面材の組み合わせで構成されたスタッキングスツール。極めてシンプルななかに、豊かなディティールを盛り込んだ。スタッキング時にはより彫刻的な姿となる。Photo by Shunsuke Watanabe

小関の造形美の魅力

多くの日本人デザイナーが経験する、海外の展覧会に出品した際に「日本的」と指摘されることについて、意見を聞いた。「僕の場合は、シンプルだけれど、細部までデザインが行き届いていると言っていただくことが多いです。自分ではそれほど意識しなくても、自然と作品に日本的な要素を認知してもらえるのは、日本人としての武器だと僕は考えています。結果として現れる造形の影響は大きい。だからこそ、加えるにしても減らすにしても、全体から細部まで、造形にも向かい合っています」。

確かに小関のデザインは、ディテールの中に光る造形力も魅力であり、それが深い味わいと目を引く存在感につながっている。

「Frame Structured Armchair」「2 Eaves Overhanging Lamp」(2025)。大胆に配置された面材に目が留まるが、実はフレーム構造となっている椅子。面材同士はいっさい接合されていない。チェアやスツールと合わせてデザインされた照明(右)も展示された。Photo by Shunsuke Watanabe

デザインとは価値そのものを形にすること

クライアントワークや自主制作など、いずれのプロジェクトにおいても小関のデザインに向き合う姿勢は大きく変わらないという。そのデザインとは何かという問いに対して、自身の考えを語る。

「デザインすることを付加価値と捉える人もいますが、僕はデザインとは価値を付加することではなく、価値そのものを形にすることだと考えています。本質的な価値を探り見出し、組み立て、社会にどうつなげていくかを考えて具現化する、それがデザイナーの役割だと思っています」。

「Still」Ambientec(2025)。ポータブル照明のロングセラー「Xtal」シリーズに連なる新作。積層されたクリスタルガラスとカラーガラスのコンビネーションが艶やかで静かな光彩のグラデーションをもたらす。Photo by Hiroshi Iwasaki

プロダクトデザイナーの喜多俊之の事務所に在籍していたことから、プロダクトデザインの印象が強い小関だが、もともと大学ではインテリアデザインを学び、喜多の事務所でもスペースのプロジェクトに携わることが多かった。空間デザインにも大いに興味があり、今後手がけてみたい分野のひとつだという。

ロングセラーの「Bottled」と「Xtal」シリーズを扱うAmbientecの直営ギャラリーがこの5月に東京・六本木のAXISビル2階にオープンした。小関の製品を実際に見たい方はぜひ足を運んでほしい。End

小関隆一(こぜき・りゅういち)/デザイナー。1973年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、I.D.K.デザイン研究所に在籍し喜多俊之に師事。2011年RKDS設立。総合的なアートディレクションからグラフィック、プロダクト、スペース、インテリアなどの多岐にわたる分野のデザインを手がけ、プロジェクトの本質的な魅力を引き出し、発信する活動を行う。iFデザイン賞、レッドドット・デザイン賞、ジャーマンデザインアワードなど受賞歴多数。