NEWS | 建築
2025.07.15 10:00
宮城県白石市に本社を構えるきちみ製麺は、江戸時代に建築された武家屋敷を利用した白石温麺の食事処「つりがね庵」を2025年3月にオープンした。
きちみ製麺は、創業1897年の白石温麺(うーめん)の老舗メーカーで、伝承400年とされる伝統の味と製法を守りつづけている。しかし、かつては同市内に数十軒あった白石温麺の製麺所は減少の一途をたどり、現在では同社を含む5社を残すのみとなった。
建築家 大島頌太郎が手がけた今回の計画では、温麺の食事処として使用されてきた茅葺き屋根の武家屋敷を全面的に改修。前面道路から玄関へとつながるアプローチと前庭を新たに設計した。
既存の建物は、隣接する売店・事務所棟から続くコンクリート塀の裏手に位置していたため、前面道路からの視認性が低く、外観を損ねていた。そこで、この塀を撤去し、前面道路と建物玄関をつなぐ全長9mの庇付きのアプローチを新設。アプローチの両側には、直径3mmのテンションワイヤー286本を配置した。
このワイヤーは、白石温麺の製造工程で重要な役割を果たす、「ハタ」と呼ばれる乾燥台に干される温麺の整然とした線の美しさからインスピレーションを得た。見る角度によっては隣接する前庭空間との連続性や断絶を生み出し、太陽高度の変動に応じて線状の影を庭と茅葺きの建物に投げかける。
既存建物内の囲炉裏は、茅葺き屋根の燻蒸作業が行えるように、既存の防煙区画を維持しつつ、間取りを再構築。煤汚れが目立ちにくいよう、メンテナンス性に優れた左官材で丁寧に仕上げた。
飲食スペースは、既存建物の骨格を残しながら、土間、囲炉裏の間、縁側、奥の間の4つがひとつの茅葺き屋根の下で連続する空間とした。
土間には、既存の大黒柱を中心に長テーブルを配置。土間の北側にあった厨房を西側にずらすことで、土間空間のヴォリュームを南北方向に最大化し、これまで天井裏に隠れていた力強い既存の梁を露出させた。
また、従業員の休憩室であった奥の間も、新たな客席として活用。既存の床と天井を撤去して、格天井に仕上げることで、武家屋敷としての格式を表現した。床仕上げは土間と同じ那智黒砂利洗い出し仕上げとし、空間の一体感を高めている。
白石温麺専門店「つりがね庵」
- 所在地
- 宮城県白石市本町46(きちみ製麺敷地内)
- 営業時間
- 平日 11:00~14:30(ラストオーダー 14:15)
土日祝日 11:00~15:00(ラストオーダー 14:30) - 定休日
- 第2・第3火曜日、毎週木曜日 ※臨時休業日あり。
- 席数
- 38席
- 詳細
- https://www.tsurigane.com/pages/tsuriganean
クレジット
- 設計
- 大島頌太郎/Shotaro Oshima Design Studio
- 施工
- 阿部工営社
- 造園
- 庭一株式会社
- ロゴ
- 岡本健デザイン事務所
- 照明
- 高砂充希子