REPORT | インテリア / ソーシャル / プロダクト
11時間前
デンマーク・コペンハーゲンで2013年に始まったデザインフェスティバル「3daysofdesign Exhibitions」。12回目を迎えた今年は、6月18日(日)から20日(火)の間、コペンハーゲン広域で約470の展示が催され、ミラノデザインウィークに双肩するほどの賑わいを見せた(一部を除き事前登録は不要のため、正確な来場者数は主催者も把握していない)。その様子を抜粋してレポートしたい。
コペンハーゲンらしく、3daysofdesignの会場を自転車でまわる人も多い。Photo by Sam Harrons
ものづくりの歴史と今の姿を誠実に
3daysofdesignは、デザインを介したコミュニティを形成したいというクヴァドラ、モンタナ ファニチャー、エリック・ヨーゲンセン(現フレデリシア ファニチャーは、Modern Originals Crafted To Lastの傘下)、そしてアンカー&コーの4社による自主的なイベントとして、シグネ・ビリダル・テレンティアーニをマネージングディレクターに迎えて始まった。
今年は、市内を8つのエリアに分け、カール・ハンセン&サンやフリッツ・ハンセン、クヴァドラ、アンド トラディション、グビ、HAYといった日本でも認知度の高いデンマークのブランドだけでなく、北欧のブランド、そしてインディペンデントなデザイナーたちによるグループ展示も見られた。ミラノデザインウィークと異なり、ラグジュアリーなファッションブランドやテクノロジー企業は除外されている。没入型やコンセプト重視の演出を仕掛けることなく、自社のものづくりの歴史と今の姿をありのままに見てもらいたいという、誠実な思いの伝わる展示が多かった。そして、それをショールーム然としてではなく、日々の暮らしのなかにデザインが溶け込んだシーンとして見せてくれた気がする。3daysofdesignの今年のテーマであった「Keep It Real」のように、飾り立てることなく、地に足の着いたものが多かった。
歴史と現代社会がつながるフレデリシア ファニチャー
バーバー・オズガビー「Plan woodchair」。Plan chairはもともと2022年にウッド製を念頭にデザインされた。しかし当時は技術面で課題があり、脚をスチール製にして商品化された。その後、椅子の採用を決める建築家からウッド製を望む声が多く上がり、技術的課題を克服して今年発表された。©️Frederica
1911年にデンマークのフレデリシア地方で誕生したフレデリシア ファニチャーは、ボーエ・モーエンセンがデザインした「スパニッシュチェア」をはじめ、1950年代のデンマーク家具の黄金期を切り開いた家具メーカーだ。3フロアにわたる自社のショールームを使い、今もつくり続けるこうしたロングセラーの家具とともに、コペンハーゲンで活動するヒューゴ・パッソスによる「Gomo armchair」や英国のデュオ、バーバー・オズガビーによる「Plan chair」の新作を、今なぜ社会に送り出すのか、その背景を含めて披露した。
ヒューゴ・パッソス「Gomo armchair」。2023年に初めて登場したGomo chairは、座面のデザインは同じまま、リビング、ダイニング、ワークプレイスと多様な場で使えるような脚のバリエーションを揃えた。さらに、パーツを容易に取り外せるようにしたことで、古くなった際の交換が可能になり、長く使えるデザインに仕上がった。Photo by Kanae Hasegawa
アップサイクルした張り地でカバーされたモーエンセンの「ソボーチェア」。©️Fredericia
同社は伝統的なミッドセンチュリーの名作をつくり続けるだけでなく、現代における“適正”について長く考えている。例えば、1950年に発表されたモーエンセンのデザインによる「ソボーチェア」は、製造工程でやむを得ず出る張り地の端切れを、新たな生産サイクルに戻すために再生している。これは、デンマークのデザインスタジオ「シーワークス アトリエ」の協力によって生まれたもので、家具製造時の廃棄物を減らすフレデリシアの取り組みのひとつでもある。端切れから生まれた生地は、フレデリシアの工場があるデンマーク南部スベンボーで仕事に恵まれない女性たちの手によって、新たな椅子の座や背もたれに張られている。端切れ30kg分が、ソボーチェア50脚分の張り地に生まれ変わるという。こうして歴史と現代社会をつなげることが、フレデリシアの注力する取り組みだろう。
暮らしの気配を感じさせるアンド トラディション
OEOスタジオによるアンド トラディションの新作ベッド。©️&Tradition
2010年にコペンハーゲンで創業したアンド トラディションは比較的若いブランドではあるが、中心街に3フロアに及ぶショールームを構えるほど商品数が多く、国内の支持を集めている。その理由がショールームに一歩入るとわかる気がした。近代的なショールームとは異なり、腰壁の上に設けた窓から自然光が差し込む、暮らしの気配を感じさせる住宅のようなシーンを通してプロダクトを展示していたからだ。
インダストリアル・ファシリティがデザインしたシェルフシステム「Romb」を中心にしたライブラリースペース。©️&Tradition
新作では英国のインダストリアル・ファシリティのデザインしたシェルフシステム「Rombe」を発表。アンド トラディションはどちらかというと布地を張ったぬくもりを感じさせるシーティングファニチャーのブランドという印象があったため、エンジニアリングを重視するシステムファニチャーの登場は意外だった。
Rombeは、インダストリアル・ファシリティの得意とする工業製品のような精密なエンジニアリングを、汎用性のあるシステムファニチャーに応用している。変形の菱型のくぼみに任意の位置で棚板を差し込むことで、デスクやシェルフ、収納キャビネットなど、幅広い使い方を可能にする。壁に固定されているものの、壁と棚板の間に隙間ができるようにデザインされていることで、一日を通して変化する自然光を受け止め、まるでシェルフが美しい彫刻のように感じられた。そして本や写真、オブジェが置かれたシェルフは、収納スペースという機能だけでなく、そこで暮らす人が思考を深めたり、思い出にふける場となることを想起させてくれる、すべてにおいて感心させられる展示だった。
床材メーカーのディネセン、国際性に富んだグビ
長さ15mのベイマツの端材を床に敷き詰めたディネセンのショールーム。Photo by Kanae Hasegawa
1898年創立のデンマークのディネセンは、世界各地で建築を手がけるビャルケ・インゲルスの設計事務所やレストラン「ノーマ」にも導入されている床材メーカーだ。3daysofdesignの期間は、製材によって生じるベイマツの端材を活用するための建築学生とのワークショップ成果をショールームで展示した。
アフラ&トビア・スカルパがデザインしたグビ社のゆったりとしたソファは、1970年代に流行ったカンバセーションピットを想起させる。カンバセーションピットとは、床の一部を窪ませて、ソファやテーブルを設えた構造のこと。Photo by Kanae Hasegawa
AMDLサークルがデザインした、グビ社のラタン製チェアコレクション。Photo by Kanae Hasegawa
デンマークといえば、伝統的な家具づくりを継承する職人たちと、現代のデザイナーが協業しながらつくる家具ブランドが多いなか、際立つのはグビだと思う。1967年創業のグビはデンマークのブランドでありながら、視野をグローバルに広げ、当時先進的であった1960年代のイタリアのデザインや、フランスの歴史的デザインの復刻に力を入れている。製造は東欧やインドネシアといった選び抜いた工場に外注。ファブレスという点でも、米国アップル社と似ているかもしれない。
家具づくりに対する妥協のなさ、自然環境や労働環境への徹底した配慮は、すべてウェブサイトでレポートとして公開するといったデンマークらしいブランドだが、商品化するデザインは独創的だ。「創業時から北欧にとらわれることなく、インターナショナルを視野に、デザインに対して独自路線を突き進んできた点に共感する」と、長年にわたってグビから製品を発表しているデンマークのOEOスタジオの共同設立者アンマリー・ブエマンは語る。そのグビは今年、イタリアの巨匠、アフラ&トビア・スカルパ(Afra & Tobia Scarpa)、さらにミケーレ・デルッキが立ち上げたAMDLサークルとともに新作家具を発表した。
デザインは暮らしとともにあることを伝えたい
シャーロット・テイラーによる「Home from Home」。デンマークのカーテンブランドのアルネ・アクセルや、同じくデンマークのブランドRYEのベッド、APOHLIの照明器具など、誰かの普段の暮らしをさらけ出したような展示だった。Photo by Renée Kemps
3Dの建築レンダリングで知られる英国人デザイナーのシャーロット・テイラーがキュレーションした「Home from Home」は、多くの共感を呼んだ展示のひとつ。クリエイターが定期的に滞在するためのレジデンシーとして使われている空間に、知人のデザイナーやアーティストが制作したアイテムと、彼女の所持品を持ち込み、日常の暮らしのシーンを描き出していた。
暮らしとは、ジェスチャーのつながりだということなのだろう。寝室のベッドシートはまくれ上がり、ダイニングテーブルには解きかけの新聞のクイズ欄が広がり、机の上には作業中のPCのスクリーンが開かれたまま、時が止まったかのように置かれていた。行儀よく片づけられた室内ではなく、さまざまな要素が散乱する現実の暮らしを選りすぐりのアイテムで物語っていた。朝から夜まで人の行動は変わるように、それぞれの部屋はたびたびモノが移動したり、人がそこで暮らしている痕跡が感じられた。
3daysofdesignを取り仕切るテレンティアーニは、コペンハーゲン出身であるものの、20年以上、ミラノで暮らし、デンマーク企業のミラノでのPRを担っていたこともあり、ミラノデザインウィークの活況はよく知っている。しかし、新作を発表し、どれだけ数字につなげられるかに軸足が置かれるミラノデザインウィークとは違い、3daysofdesignでは暮らしとともにデザインがあることを感じてもらいたかったのだそうだ。実際、ここに集うメーカーの家具は、観光客のためのホテルのような空間だけでなく、地域の人々が日常的に訪れる教会が学校、レストランといった場所で使われている。
「デザインのエコシステムが築かれていると思います」と、コペンハーゲンのデザイナーのビリッテ・ドゥエ・マドセンは言う。彼女は、3daysofdesignが今年から設けた8つのエリアのマネージャーのひとり。規模が大きくなるなか、出展者が滞りなく展示を実現できるように、会場と出展側との調整役として奔走した。昨年まではデザイナーとして何度も参加してきた彼女は、出展者のロジスティック面などもサポートしたという。
デンマークの照明ブランドA-N-Dでは地元のコーヒーロースタリーsenseiによるコーヒーが振る舞われた。Photo by Stefania Zanetti
コペンハーゲンにショールームを持つブランド以外にも、さまざまな会場を借りて多くのインディペンデントな出展者が参加した3daysofdesignは、感心するほどうまく回っているようだ。出展する企業や個人は、思い思いのかたちで来場者を迎えていた。それは、ブランドとゆかりのあるデザイナーによるトークの場合もあれば、自分たちがお気に入りの地元のコーヒーロースタリーやベーカリーに来てもらって振る舞ったりと、実にさまざまだった。おそらく普段から近所付き合いをするように、飲食店をはじめとする地域の人々と深く関わっているのだろう。そうした関係性が、デザインを介したコミュニティの形成を育み、3daysofdesignを発展させていると感じた。