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2025.08.19 12:59
その鋭い審美眼で、儚い刹那をレンズ越しに切り取ってきた写真家、チェ・ドジン。現在はデザインスタジオ「SHOWMAKERS(ショーメイカーズ)」のクリエイティブディレクターとして小売業界に新たな可能性を広げ続けている。なぜ今、世界の名だたるブランドが、彼に惹きつけられるのか。そして、家電製品からハイファッションまで、さまざまな業界でポップアップを企画するとき、戦略的思考をどのように転換することが重要なのだろうか? 消費者体験の概念を塗り替えた、10年前のジェントルモンスターのポップアップをはじめ、その後も印象的なプロジェクトを次々に生み出している彼の独自の視点、そしてその先に何があるのかを明らかにすべく、チェのもとを訪ねた。
ジェントルモンスターのルックブックにおいて、チェ・ドジンはメガネを単なる実用的・工学的な道具から、力強いファッションカテゴリーへと大胆に再定義した。従来のアイウェアの常識を覆す前衛的なスタイルが特徴。
ソウルの知られざる街に根ざす、チェ・ドジンのクリエイティブな軌跡
朝鮮王朝時代の寺院のなかにあったとされる伝説の黒い井戸に由来する墨井洞は、目まぐるしく発展するソウルの他区とは対比をなす街だ。ソウル中心部にありながら、時代の急流を拒むような独自の佇まいがあり、特有の緊張感が漂っている。そんな環境に惹かれ、SHOWMAKERSの創設者兼クリエイティブディレクターであるチェ・ドジンは、自身のスタジオをこの地に構えた。「墨井洞が醸し出す、ゆるやかで多層的な時間の流れこそ、新たな視点の創出や美的探究にふさわしい環境なのです」とチェは語る。彼にとって、この街に宿る「未完成」の気配は、制約というよりも、むしろ独創性を育むための豊かな土壌だ。
印刷業が集まる密集地帯に佇む5階建てのコンクリート建築は、その彫刻的なデザインで存在感を放っている。ここは、SHOWMAKERSと、洗練された韓国の発酵料理を提供する場「MUKㅈUNG(ムクジョン)」を擁する拠点だ。黒を好むチェに続いて建物の中へ足を踏み入れると、すぐに印象的な香りが迎えてくれる。それは空間体験を味わうための繊細な前奏のようだ。