室内空間を移動するAIコンパニオン
ペンギン・イノベート「ラビット」

筆者は、いわゆるAIスピーカーを使って家の中の照明や音楽をコントロールしている。一度慣れると確かに便利であり、ある程度離れたところからでもボイスコマンドを認識する技術には感心する。しかし、それでも時々、コマンドを聞き取ってくれないことがあり、室内に複数のデバイスを配する必要性を幾度となく感じた。

ラビット」と呼ばれる、このAIコンパニオンの発案者も、きっと同じような悩みを抱えていたのではないかと思う。特に、日本家屋よりもサイズの大きな部屋や、仕切りのないロフトのようなスペースで暮らしているなら、必ず遭遇する問題だ。

住人が生活空間の中で移動しながら暮らすなかで、AIスピーカーの役割が照明のオン・オフや音楽再生、そしてインタラクティブな会話にあるなら、いっそそれ自体に照明機能も持たせ、必要に応じて自動的に位置を変えれば良いのでは? ラビットがこのような発想のもとに開発されたことは、想像に難くない。

ラビットは一種のAIロボットだが、開発企業であるペンギン・イノベートは、床面ではなく頭上の空間を、その移動範囲として選択した。エアパスと呼ばれるカーボンファイバー製のレールシステムが、ポリエステル製の外皮を持つラビット本体を支えるとともに給電を行う。

スイッチはなく、部屋に人が入ってきたことを感知すると自動的に点灯し、時間帯や人間の動き、その姿勢から推測される作業内容に応じて、最適のライティングを行う。そのため、内部には2種類の色温度を持つ30基のLEDライトと5基のRGB LEDライトがあり、多様なカラーと明度をつくり出せるようになっている。また、最大輝度は16,000ルーメンが確保され、写真スタジオ照明としても利用できる性能を備える。

さらに、「ヘイ、ラビット」のウェイクワードによるAIとの対話や、頭上からの豊かな音楽再生を行えるように、ステレオスピーカーも内蔵し、4基のパノラミックカメラによる360度の映像撮影機能は、室内の不審な動きを感知する防犯カメラや会議の記録などのほか、ジェスチャーを認識して種々のコントロールにも対応する。

AIコンパニオンであるラビットは、床面から解放されたことで、より人間に寄り添える存在となった。予価4,000ドル+1本(1m)あたり25ドルのエアパスが3〜10本の範囲で必要となるため、決して安価ではないが、SF映画にも登場したことのないようなアイデアのなかに、AIとの暮らしのひとつの姿が確実に示されていると感じた。End