共創によって拡張されるデザインの可能性

共創によって生み出される可能性

「シブヤフォント」は、2025年度の新作としてフォント11種とグラフィックパターン66種、累計756種のデザインデータとを公式サイトで公開している。今回誕生したフォントとパターンは、渋谷区内の障がい者支援事業所で暮らし・働く人々の描いた文字や絵を素材として、専門学校桑沢デザイン研究所の学生と共創しながら制作された。これらは単なるデータ更新ではなく、共創のプロセスを問い直す機会となっている点がとても興味深い。誰でも利用可能なパブリックデータとして提供され、デジタルクリエイティブやプロダクトデザイン、空間表現など多様な応用が期待されている。

素材の発掘とデザインの原体験

本プロジェクトの制作プロセスは、素材の発掘から始まる。障がい者支援事業所のメンバーが描いた原画は、文字としての機能だけでなく、個々人の内発的な表現や感性が色濃く反映されている。それを学生が読み取りフォント化・パターン化する過程は、単なる転写では済まされない複雑な思考の連続である。学生と事業所のメンバーは、原画に込められた「何を表現したいか」を何度も対話しながら共通理解へと昇華していく。互いのインプットを受け入れ結晶化するためのプロセスこそが、プロダクトとしてのフォントとパターンに唯一無二の個性を与えている。

制作現場で生まれる学びと転換点

2025年度のデザイン制作は、これまでのプロジェクトと比べて大きく変化した点がある。それは、支援事業所側が「自分たちが欲しいデザイン」を明確に表明し、それを学生と共有しながら制作を進めたことである。この主体的な動きにより、原画制作からパターン化までの共同作業は単なる補助的な関係から、対等なクリエイティブ・パートナーシップへと深化した。学生は自身の表現と他者の視点を同時に保持しながら意思決定を行い、支援事業所のメンバーもデザインの過程に主体的に関与することで作品に対する愛着や自信を獲得した。この相互影響のダイナミクスは、デザインプロセスの価値を再定義する重要な転機となっている。

デザインプロセスから社会へ広がる価値

シブヤフォントの取り組みは、プロダクトとしてのフォントやパターンの提供に留まらない。多様な個人が織り成す表現をデザインとして編み直すこのプロジェクトは、社会の中でデザインが担う役割を問い直す実験でもある。昨年10月に行われた発表会では企業関係者から制作プロセスそのものへの評価が寄せられ、多様な視点をつなぐ共創の場となった。完成したデザインデータは、企業商品や空間デザイン、コミュニケーションツールとしても活用可能であり、その売上の一部が支援事業所へ還元される仕組みは、デザインが社会へ還元されるしくみの一例として注目される。こうしたプロセスの重視は、単純なアウトプットの美しさを超えて、デザインが関係性を生成し価値を循環させる手法そのものを示している。End

主催
渋谷区
企画運営
一般社団法人シブヤフォント
協力
専門学校桑沢デザイン研究所・株式会社渋谷サービス公社
連携している
渋谷区内の
障がい者
支援事業所
くるるえびす・ストライドクラブ・TENTONE・はぁとぴあ原宿・福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと・福祉作業所ふれんど・ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花・のぞみ作業所・ワークささはた・ワークセンターひかわ・むつみ工房
審査委員企業
・団体の皆様
(五十音順)
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