プロダクトデザイナー TENT 青木亮作さん 
「私のためにつくってくれた」と言われるものづくり

東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域の授業「インテリアデザイン特論」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーや建築家、クリエイターの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。

プロダクトデザイナー TENT 青木亮作さん 
「私のためにつくってくれた」と言われるものづくり

「みんなのため」ではなく、「たったひとりのため」に徹底的に向き合う。そこまで掘り下げたとき、プロダクトは思いがけず多くの人の心を射抜く。TENTのプロダクトデザイナー 青木亮作さんは、n=1を究極まで突き詰める姿勢を貫いてきた。その出発点は、日常の「なんか嫌だ」という違和感や、動物としての根源的な困りごとにある。クライアントワークも、自主プロジェクトも、その姿勢は変わらない。ひとりに深く刺さるものづくりの思考法について聞いた。

“動物として困っているところ”まで掘っていく

―――青木さんは「自分が欲しいものをつくる」という姿勢でデザインされているとのことですが、自分にとっての最適から、どうやって商品としてスケールしていくのでしょうか。

n=1(ひとりの具体的な誰かのニーズ)を10、100と広げていくという考え方ではなく、n=1をとことん、究極まで突き詰めます。n=1以外を一切見ずに掘り下げる。実は人間のタイプはそれほど多くなくて、似ている人がいっぱいいる。結果、そういう人にとても刺さるんです。広げていくのではなくて、発売後もずっとn=1しか見ていない。そこまで突き詰めると、プロダクトに触れた人が「私のためにつくってくれた」と言ってくれるんです。

例えば「HINGE」は、クリップ付きのペンを装着して、A4のコピー用紙にそのまま書けるという商品です。発売後、ADHD(注意欠如・多動症)の方々から「これで救われた」というメールを数多くいただきました。ADHDの特徴として、情報を一時的に記憶・処理するワーキングメモリが弱い場合があり、「思いついた瞬間にすぐメモを取れること」がとても重要だといいます。HINGEは、開くだけで紙とペンの両方が揃っているため、そのニーズに応えることができたのです。

また、イラストレーターや漫画家の方々からも高い評価を得ました。出先でも「さっと開いて、すぐに描きたい」という衝動を逃さないことが重要であり、ペンと紙が一瞬で使える状態になるHINGEは、その創作のリズムを支える存在になっているとのことです。当初はそのターゲットは意識していなかったんですが、言われてみると確かに理解できる反応だと思いました。

「HINGE」。A4用紙とクリップ付きのペンを装着できるツール。青木さんはインタビュー中にも使用していた。

―――ターゲットを広げるのではなく、ひとりを深く掘っていくとはどういうことでしょうか。

デザインにおいて表層的に「女の子向け」「男の子向け」「何十代向け」などと言いますが、これは色とか表面処理の話がほとんどです。構造のデザインはもっと深いんです。n=1を掘るというのは、自分のファッションが何系とか、音楽は何を聴くとか、映画や漫画の好みとか、そういうものを全部剥いでいくことです。そうしていくと、本当の困りごと、いわば「猿として困っているところ」までたどり着くんです。「動物として困っているところ」とも言えます。

例えば、温泉は人間にとっても猿にとっても気持ちいいじゃないですか。そこまでいくと、僕の気持ちいいがみんなの気持ちいいとつながる。それくらいまで掘るというイメージです。みんなのことは見ないんだけど、「温泉めっちゃ気持ちいいわー」という気持ちは、たぶんみんな同じだろうなと信じられる。だからターゲットも全然設定しないんです。温泉にターゲットも何もないですから。

―――逆に、広く受けを狙ったものは売れないのでしょうか。

ひとりに強く刺されば似た人が絶対いるんです。逆に、割とみんなに受けがいいものは全然売れない。みんな「欲しい」とか平気で嘘をつきますし、SNSで万バズしても売れないものなんていっぱいあります。それよりも、たったひとりにとって切実な、「いいね」なんてコメントする間もなくポチってるものがある。そこに刺さるのは、本当に自分がめっちゃ欲しいとか、友だちがめっちゃ欲しいがってるとか、そっちなんです。

嫌なこと探しが、すべての起点になる

―――“動物として困っているところ”まで掘り下げるために、普段はどんなことをされていますか。

何かつくりたいものないかなって、日頃からぼんやり考えています。仕事とは関係なく、趣味として、嫌なことを探しているというか、課題を探している感じです。先日も、うちの親が老眼鏡を置く場所が欲しいと言っていて、じゃあ何かつくろうって。子どもたちにもいつも「何かない?」と聞いています。今日も皆さんに聞きたいぐらいです、「困っていることないですか?」って。

―――「これをやりたい」ではなく「これが嫌だ」という感覚が起点になっているように感じます。

そうですね。「なんで自分の家には本棚がないのか」といった疑問から考えはじめることが多いです。昔、筆箱をつくったときも同じで、「そういえば筆箱を持ってないのはなんでだっけ?」って。あったら便利なはずなのに買ってないものには、買わない理由がある。それをひたすら探していく。筆箱の場合だと、ハンペンの蓋がパコーンってなっているのが嫌だったのと、布のものがショボっと置いてあるのが嫌だったということに気づいて、その不満を解決するものとしてNuAnsシリーズの「FLIPTRAY」をつくりました。

「FLIPTRAY」(NuAns)。デスクでは使いやすい傾斜をもったペントレイとして存在し、出かける際にはそのままペンケースとして持ち出せる。

青山ブックセンターの「Anywhere Book Case」も同じで、家に本棚を置きたくなかったんです。海外には本を積み上げてタワーのように見せる素敵なものがあるんですが、あれは素敵すぎて嫌で。うちは子どももいるし、洋書や写真集をインテリアとして置くような家じゃない。哲学書も読むけど、ビジネス書も読むし、アラレちゃんもヒロアカも読むわけです。そういうぐちゃっとなったやつを、ぐちゃっとなったまま素敵にしてくれる本棚ってないよねと思ってつくりました。世間のニーズはまったく見てなくて、自分的に嫌だなというのが案外共感してもらえるんです。

「Anywhere Book Case」 (青山ブックセンター)。透明アクリルとステンレスの持ち手が特徴的な、お気に入りの本を持ち運びできる小さな本棚。

―――嫌なことを見つけたら、すぐにつくりはじめるのでしょうか。

つくりはじめるハードルは極力下げたい。別に商品にしなくていいんです。子どもが今欲しいおもちゃをつくって、今完結するならそれでいい。アイデアを出すというより、まず一号機をつくるんです。それを使うと必ず欠点があって、二号機をつくりたくなる。段ボールで一号機をつくりおえて、一旦置いておくと、寝る頃に「あそこ変えられるな」と思いつく。次の日にまた改善版をつくる。「明日あそこ変えればいいんだ」と思いながら寝るのが最高の気分なので、ずっと「何かない?」って探している感じです。

クライアントを敬わない

―――企業からの依頼を受ける場合も、同じようなアプローチで進めるのですか。

極力同じにしています。なぜかうちは、何も決まってない状態で頼まれることが7割ぐらい。ヒントがなさすぎるので、日頃から貯めておいたアイデアを使います。「そういえばこの間猫を撫でていたとき気持ちよかったから、あれをこうすると…」みたいな。依頼が来てから考えるんですけど、日頃から貯めてあるものを出す感覚に近い。それが理想だと思っています。

もちろん具体的なものをつくりたいという依頼もあります。「CHOPLATE」というまな板になる皿がその一例です。あれは最初クライアントから、「樹脂の成形ができるので、VRゴーグルかドローンをつくりたい」と言われたんです。でも工場に行ったらエンジニアもいないし、外装部品しかつくっていない。そうした状況では当初の依頼内容は難しいので、「樹脂だけでできるものがいいのではないか」と提案し、そこからアイデアを展開していきました。クライアントは決めて依頼してくるものの、「御社には別の方向がいいのではないか」と返すことは多いですね。

「CHOPLATE」(河辺商会)。ちょっとだけ切りたいシチュエーションに最適な、まな板になる皿。

―――クライアントに対して、そこまではっきり言えるのはなぜですか。

大企業での経験が大きいですね。インハウスのデザイナーとして働いていた頃は、設計の人の隣に座ったり、工場に行ってコミュニケーションを取ったりと、現場がとても近かったんです。デザイン事務所のなかには「デザインを出して終わり、後は知りません」というところも多いんですが、うちは設計担当ともずっとやり取りするし、工場にも直接出向きます。物事は現場で動いているのであって、デザイナーは基本的には何もしていないのと同じだと考えています。この謙虚さが身についたのは、企業の内部でいろいろと見ていたからだと思います。

だから、依頼する人をむやみに敬わなくなりました。世の中的には「クライアントの言うことを聞け」というような風潮があるじゃないですか。僕はメーカーとしてクライアント側にいたので、発注者があまり考えてないのがわかるんです。「それは本当にやりたいことですか? なんとなく言っているだけなんじゃないですか?」と言える。クライアントの言うことを100パーセント聞くのが正義じゃないということがわかったのは、メーカーにいたからです。

建築出身だから人々が見える

―――大学では建築を学ばれていましたが、その経験も影響していますか。

建築からプロダクトの学科に転向したときに、驚いたのが「スピードシェイプ」という課題です。「速そうな形をつくる」というもので、クルマなどをスケッチする手法を教わるんですが、何をやっているんだろうと思いました。建築はまずコンセプトを立てるし、動線計画を考えるじゃないですか。使い勝手を考えて、理屈を立ててやっていくうちにいい空間ができていく。そこから転向したので、すごく違和感があった。今もその感覚はあるんですが、同じように感じているプロダクトデザイナーは少ないかもしれないですね。

―――プロダクトデザインと建築の違いはなんでしょうか。

いちばんの違いとして、建築は周辺環境やそこに集う人々を起点に設計するのに対して、かつてのプロダクトデザインでは、置かれる場所や使用環境を十分に考慮せず、いわばホワイトキューブの中の彫刻のように「美しいかどうか」だけを基準に形が検討される傾向がありました。アップルの登場以降は変わりましたが、そういう時代があった。

僕が目指すところは、やっぱり周辺環境を前提にすること。「ここに置くものだから」「こんな人がこういう気持ちで使うものだから」というのが最優先です。プロダクトは使う人が素敵になるためのサポートするもので、使う人や使われる場所のためのものなんです。この考え方は建築出身だからなのかなと思います。

「TENTのTEMPO」。製品に触れてもらいながら、その開発にいたるストーリーやプロセスなどを直接説明する店舗。

―――長いキャリアのなかで、ご自身の価値観は変化してきましたか。

これまではずっと自分が直接図面を引く、試作する、つくるということをやってきたんですが、TENTも人が増えて、外の企業との関わりが広がるなかで、デザインディレクター的な立ち位置でいることが増えてきました。以前はデザインディレクターなんていらないと思っていたんです。でも、最近はやはり必要だと思うようになりました。

アイデアを出すとか図面を描く以前に、そもそも作業工程やスケジュールが間違っていることがある。いいものをつくるためにどこにどれだけ時間が必要かを知らない人が多いんです。多くの人は、いいものは天才がひらめいてできると思っているけど、長くやっていると一定の時間があればすごいアイデアが出るというのは保証できるし、その方法も知っている。だから自分がディレクターとして関わっている企業には、「この体制では求めるものは生まれないから仕組みから変えましょう」「人員配置をもうちょっと変えましょう」といった提案をするようになりました。

ただ、図面を引いたり、物をつくったりする以外にも役に立てるんだなと思いながら、やっぱり「なんかつくりてえな」と思っています。今はちっちゃくてしょうもないものをつくりたいです。

受注ではなく、自分起点のプロジェクトを持つ

―――これからデザイナーを目指す学生や若いデザイナーにメッセージをいただけないでしょうか。

テクノロジーがすごく進歩して、プロジェクトオーナーのひとり勝ちの時代がやってくるので、受注型・受託型は目指さなくていいと思っています。AIに仕事を奪われると言っている人は、仕事を依頼されたい人なんです。やりたいことがあるなら、AIを使う側になれるじゃないですか。“やりたい”の起点になる人はいつの時代も強くて、テクノロジーはそれをサポートするだけなので、デザイナーを目指す学生たちは、“やりたい”の起点側を目指したほうが絶対いいと思っています。

具体的に言うと、プロジェクトを複数走らせる人になるといい。その複数の中のひとつでもふたつでも自分起点のものがあると、精神衛生上とてもいいし、それができる時代なので。自分起点のものは本当にしょうもないものでいいんです。

―――青木さん自身も、会社員時代からそうされていたんですか。

企業で働いていたときも、自分でつくりたいものを別でやっていました。「キーキーパー」と「BOOK on BOOK」が会社員時代にやっていたものです。常に何かしら自分でやりたいものを抱えてないと、会社の仕事が進まないからイライラしちゃって。自分次第で何とでもなるものを持っていると心が晴れるじゃないですか。

「自分が欲しいものをつくる」と、「他の人が欲しいものをつくる」のふたつを混ぜたほうが、心の健康にはいいんですよ。自分ばっかりだとプレッシャーが逆に高まっちゃうので、たまにはお手伝い的なことをやると気持ちいい。頼まれごとと自分ごとを、複数持つという感じですね。(取材・文・写真/東京都立大学 インダストリアルアート学域 上田芽依、宇野颯花、木村和貴、高村奈津子、谷井柚月、土屋志野、西村晟吾、山田明香莉)

青木亮作/1979年名古屋市生まれ。オリンパスイメージング株式会社、ソニー株式会社で録音機器やカメラ、PCおよび周辺機器のプロダクトデザインをはじめ商品戦略や企画を行う。2011年治田将之とクリエイティブユニット TENT を結成。
https://tent1000.com