【創業者インタビュー】タイから世界へ挑む自然派コスメブランド
「THANN(タン)」

厳選された自然植物を原料に、最新の皮膚科学とアロマセラピーの技術に基づき開発されるタイのナチュラルスキンケア、ヘアケア、 ホームスパブランド「THANN(タン)」世界の高級ホテルやスパ&リゾート、さらに全日空の国際線ファーストクラスアメニティにも採用されるなどその製品は国際的にも高い評価を獲得しています。また、2005年には地域の生活文化を生かしたアジアの優れたデザイン製品に贈られるGマーク「ASEANデザインセレクション」部門を受賞。そんなTHANNを、タイを代表するライフスタイルブランドに育てた創立者でマネージングディレクターのトニー・スパトラノンさんに、バンコク市内で話を聞きました。

海外の高級ブランドが軒を連ねるバンコクの高級ショッピングモール「ゲイソーン」。ここに、ショップ、スパ、カフェといったそれぞれ趣の異なるTHANNの3ショップが集います。創業から10年を経て、今や世界に80店舗を構えるまでに成長したブランドは、スキンケアなどの製品同様、店舗のインテリアでも「自然」というテーマを感覚に訴えかけるデザインを特長とし、ロケーションや業態を踏まえてそれぞれに工夫を凝らしています。ブランドとしての共通項と個々に応じたアレンジで空間に彩りを与えるTHANNのショップづくりは、自らブランドのエバンジェリストと語る創立者のスパトラノンさんのオペレーションのもとで展開されています。

▲エンポリアム・デパートメントストア内にあるTHANNのショップでは、日本未展開のアパレル類も充実。左の壁面いっぱいを覆っているのがプロダクトの空き瓶です。店内奥にはスパ施設も完備。

――バンコク市内に現在14店舗を構えるそうですが(2012年3月末現在)、空きボトルや段ボール紙を用いるなど、マテリアルの使い方に特長のあるインテリアデザインが多いですね。

いくつかの理由がありますが、今の指摘について言えば、リユースと環境配慮という2つの点が大きな要因です。世界中のどの店舗にも私たちは「ネイチャー(自然)」という共通イメージを注ぐことをコンセプトにしています。そのベースのうえに、立地条件や業態に合わせたデザインを考えます。

段ボールを切り抜いた葉っぱが壁や天井一面を覆う「THANN Tea Cafe」は、入居する建物の性格がラグジュアリーなファッションビルということもあり、そうした一面をインテリアに反映することを心がけました。ただし、あまりに高級な雰囲気をまとってしまうと店内に入るのに躊躇されてしまうので、バランスを見極めることが重要でした。ラグジュアリーでありながら、入りやすい雰囲気をつくるという。もちろん、照明にLEDを導入するなど安全面にもきちんと配慮しています。

――「THANN Tea Cafe」は2年前のオープンで、カフェを併設した初のショップです。そのために工夫した点は?

食べるものを提供するので、まずは清潔感の演出を重視しました。また、カフェを併設した最初の試みでもあったので、入口からカウンターが覗くなど、遠目からショップの性格が瞬時に理解できるようにすることも必要でした。店内に配置したテーブルにカーブを多用しているのは、(段ボールの)葉っぱが生い茂った空間の雰囲気と呼応させるためです。

▲高級ショッピングモール「ゲイソーン」内にある「THANN Tea Cafe」の店内の様子。段ボール紙でかたどった葉を張り巡らせたインテリアデザインが印象的は表情を見せます。オープンは2年前。オーガニック食材を使った軽食やハーブティーなどが人気。

――飲食分野に進出した理由はなんだったのでしょうか。

タイの高級ショッピングモールの開発を見ていると、海外ブランドに対しては立地面などで好条件が提示される一方、国内ブランドにはそうした恩恵がほとんど与えられません。しかし、飲食施設を併設しているショップであれば、差別化という意味で海外高級ブランドが並ぶフロアにも入り込むことができるだろうと考えました。それによって、良いスペースが確保でき、スキンケア製品などの売上げにも効果が生じ、ブランドイメージも上がる。そうした戦略的な面と、“ライフスタイルをつくる”というブランドの考え方の双方から判断しました。

▲「THANN Tea Cafe」の様子。エントランスは2カ所あり、一方には白馬のオブジェが置かれています。

――店舗のインテリアデザインはすべてスパトラノンさん自ら指揮を執っているとか?

現在、国内外合わせて80店舗ほどのショップがありますが、そのうち外部のデザイナーに依頼したのは3店舗だけ。数年前からはすべて自分で行っています。理由は明白です。ブランドのコンセプトを最も理解する人間がデザインするのがベストだからです。以前に外部のデザイナーを起用した店舗のインテリアを見たあるお客さまから「このショップはTHANNらしくない」という指摘を受けたことが、こうした方針を打ち出す引き金になりました。加えて、自分がやったほうが断然早い(笑)。リテールビジネスにおいてスピードは欠かせませんから。

――今後も引き続き、自らが指揮していく考えですか?

 中心となるのは、私を含めたインハウスのスタッフ。そのためにも、新たな人材の確保は不可欠です。幸い、家具などのプロダクトについてはTHANNのことをよく理解する地元デザイナーと良好な関係があるので安心です。彼らとは他にも家具などの開発を一緒にやっていて、会話がなくても互いの考えが理解できる。私はファブリックを選ぶだけで大丈夫。

――インテリアデザインを学んだ経験は?

 ありません。大学では工学部に籍を置いていましたから。ただ、入学試験では建築学部にも受かっていたんです。

――工学部で学んだ人がどうしてスキンケアやスパなどのブランドを立ち上げたのでしょう。

大学を卒業後、MBAを取得するため5年ほどオーストラリアに留学しました。その頃に現地のフリーマーケットで手づくりの石鹸が人気を集めている光景を見て、面白そうに思えたのです。さらに幸運だったのは、姉と妹が皮膚科学を専門とする医者になっていて、ふたりの知識を借りれば、より優れた製品がつくれるのではないかと思ったんです。それと、小さいときから自然への関心が高かったということ。木を植えたり、動物を飼ったり、自然に親しむ環境が身近にあったというのは大きかったですね。

▲「高級ショッピングモール「サイアム・パラゴン」内に2010年末にオープンした、こちらもカフェ併設のTHANNショップ。巨大なキノコと白馬のオブジェが飾られ、ファンタジーな世界を演出しています。

――飲食分野に進出するなど、ライフスタイルブランドへの布石を着々とうっているように見えますが、今後の計画は?

まず、すでに手がけているビジネスを強化することです。そのうえで、新たに展開できそうなビジネスをゆっくり考えていけたらと思っています。4月からはクリスタルウェアの販売を始める予定です。シャンパンやワイングラス、テーブルウェアなどのプロダクトやインテリアオブジェなどが含まれます。これは1つの展開例ですが、他にも“グッドデザイン・アンド・ハイクオリティ・オブ・ライフ”を謳ったビジネスをいろいろ模索中です。ホームデコレーション分野への進出も可能性があるのではないでしょうか。また、進出して8年目を迎える日本で今年初めてスパ施設をオープンしますので、楽しみにしていてください。

――THANNは創業から10年で24カ国に進出するインターナショナルブランドになりました。これまでの経験から、今後海外に進出したいと考える若いデザイナーに伝えられることがあるとすれば、どのようなことでしょう。

 
自らが“エンジョイ”するということ。同時に、顧客やディストリビューターに対して常に“オネスト(正直)”であるということです。ナチュラルスパと謳ったら、徹底してその姿勢を貫く製品やサービス開発に努め、ファインダイニングというコンセプトのレストランであれば、最良の食材を提供する努力を怠らない。そういった姿勢を保ち続けることで、信頼や新たなチャンスが生まれます。さらに、社会に対して奉仕する姿勢を持つことも大事でしょう。今、キング・モンクット工科大学トンブリ校でインダストリアルデザインの授業を受け持っていますが、これも私なりの社会奉仕なんです。

――今のタイには、若い才能が社会に出て行きやすい下地があると思いますか?

 チャンスは増えているでしょう。人件費なども含め、この国のコストは新進国と比べるとまだそれほど高くない。材料も比較的安価で入手できるし、それを加工するハンドクラフトの技術も長けていますから。また、市内を中心に次々と新しいショッピングモールが建設されていて、運営会社はテナントを埋めるのに必死です。こうした点も、これから起業する人にとっては追い風です。新ブランドを立ち上げようという人にはチャンスが多いと思います。

▲THANNの製品より、人気を集めるシソコレクションのボディ用高保湿クリーム。シンプルなデザインのパッケージも人気の秘密。

問い合わせ:株式会社THANNナチュラル Tel. 03-3746-1177
URLhttp://www.thann-natural.co.jp