ドバイ・デザイン・ウィーク、レポート1

世界65の都市で開催されているというデザイン・ウィーク。ドバイでも初めてのデザイン・ウィークが、10月26日から31日まで開かれ、経済成長が目覚ましい都市での実施とあって、世界のメディアから関心が集まった。その様子を数回にわたってお伝えしたい。

▲ デザイナー、企業、ショップ、消費者が集まるデザイン街区、ドバイデザインディストリクトの意義を語ったトーク

▲ 2015年春に入居が始まったドバイ・デザイン・ディストリクトの建物。ドバイ・デザイン・ディストリクトの構想は2013年、ドバイのムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム首長によって始まり、ビジネスゾーン、コミュニティゾーン、ホスピタリティゾーンの3つの街区からなる。その第一段階となるビジネスゾーンの建物の一部がデザイン・ウィークの会場。11棟、延べ床面積は約186,000㎡のスペースに企業、デザイン建築事務所、リテールが入る。すでにルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオールも入居していた


ドバイにはメディアシティー、インターネットシティー、インダストリアルシティーとしてさまざまな顔がある。それぞれ放送出版事業、通信事業、製造業の成長を後押しするために政府が特区を設け、その分野の企業誘致、会社設立を優遇する施策を取ってきたからだ。こうした分野に加えて、ドバイ政府が今、力を入れているのが創造型産業、デザインシティーとしての顔を持たせること。ドバイをデザイナー、メーカー、リテール、ユーザーが集まる拠点にしたいという思惑がある。デザインが生活のあらゆる分野に関わる現代、創造型産業がもたらす経済効果は大きいからだろう。

もともとドバイは地理的に恵まれたポジションにある。公式ウェブサイトによればドバイ国際空港への就航都市は260。世界のハブと言われているロンドン・ヒースロー空港の就航都市数185をはるかに上回り、デザインが産業として成り立つうえで、人とものが集まる格好の条件が整っている。

▲ ドバイ・デザイン・ウィークのディレクター、シリル・ザミット氏


そのうえで「ヨルダン、クウェート、サウジアラビアのデザイナーたちは、自国で発表しても欧米の人たちの目に触れることがあまりないのかもしれない。でも、ドバイで発表すればより多くの人に見てもらうことができます。中東地域のデザインシーンを紹介することにドバイという地でデザイン・ウィークを行うことの意味があると思います。単に65番目のデザイン・ウィークではないのです」とドバイ・デザイン・ウィークのディレクター、シリル・ザミット氏は説明する。

同時に「ドバイのみならずアラブ首長国全体において、デザインに対する期待は高いのです。しかしながら、アラブ圏でこれまでデザインと言えば、ファッションデザインを指してきました。家具のデザインという概念はまだ薄く、デザイン・ウィークで発表された街中のオブジェクトのようなものは、アートとどう違うの?という声もたくさんあります。教育していくこともデザイン・ウィークの重要な一面です」と言う。

19世紀末にデザインという言葉が生まれる以前、欧米では家具や室内装飾を「デコラティブアート(装飾芸術)」と呼んでいたのだから、本来、アートとデザインは分かちがたいと言っても間違いではないだろう。そこから広義の意味でのデザインをどのように浸透させ、実践していくかが、今どこの地域でも問われている。(文/長谷川香苗)

▲ ドバイのデザイナー、アルジュード・ルータフによるインスタレーション「ヤルーフ」。伝統的な漁で使われる引き網のつくり方を生かし、ナイロンロープでアラブ的な幾何学模様を表現。海辺に設置すると強烈な日差しをいくらか遮ってくれる