ドバイ・デザイン・ウィーク 2
「デザイン街区と初のデザイン大学」

建国から45年と若い、アラブ首長国連邦を構成する7つの首長国の1つ、ドバイ。成熟した都市とは異なり、今まさに街づくりが進んでいるという活力が、そこここから感じられる。政府はデザインを核にしたコミュニティの形成に力を入れる。未来を描くうえで、イノベーションを起こすことのできるデザインこそが、街づくりのキーになると捉えているからだ。

ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム副大統領の構想の下、2013年にはデザイン街区「ドバイ・デザイン・ディストリクト(d3)」の整備に着手。クリエイターやクリエイティブ産業はもちろんのこと、リテールやカフェなども誘致し、新たなデザインコミュニティの形成を推し進めている。富裕層やオピニオンリーダーに向けたフェア「デザイン・デイズ・ドバイ」は、デザインリテラシーの向上が目的だ。

▲ ドバイ・デザイン・ディストリクト(d3)


d3にはすでに11棟からなる複合施設が完成し、シャネル、クリスチャン・ディオール、プーマ、アルテミデといったグローバルブランドがオフィスを開業。中東の建築設計事務所やデザインスタジオ、地元メディア、ドバイ・スポーツ・カウンシルといった政府機関も入居する。こうしたオフィスワーカーの生活を充実させるべく、病院や日本食を含めた飲食店のオープンも控えている。今後は11棟を取り囲むようにホテル、居住棟も建設するという。

世界の約8割の地域から飛行機で約7時間の飛行距離にあるという地理的な利便性を生かし、世界のデザイン拠点となることをドバイは目論んでいる。それは「デザインマイアミ」の開催をきっかけに世界中のギャラリストやコレクターが集い、一躍脚光を浴びるようになった「マイアミ・デザイン・ディストリクト」を連想させる。

しかし、マイアミに比べて、消費よりもクリエイションそのものに力点を置いているのがドバイだ。2016年中にザハ・ハディド、フォスター・アンド・パートナーズ、サンティアゴ・カラトラバといった建築設計事務所の中東拠点がd3に入居すると発表したことで、いっそうその印象は強まった。

▲ 芸術系4年制大学となるドバイ・インスティテュート・オブ・デザイン・アンド・イノベーション(DIDI)は、プロダクトデザイン、戦略的デザインマネージメント、視覚芸術、メディアデザイン、ファッションデザイン学科からなり、校舎はフォスター・アンド・パートナーズが設計。初年度550人の入学を見込む。


今後、地域社会との関わりを考えるうえで重要なのは、教育機関の存在だろう。ドバイで初となる4年制のデザイン芸術大学、ドバイ・インスティテュート・オブ・デザイン・アンド・イノベーション(以下、DIDI)の開校がドバイ・デザイン・ウィークの開催初日に発表された。

競争力のあるグローバルなクリエイターの育成を目指すDIDIは、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)とパーソンズ・スクール・オブ・デザインがカリキュラムづくりを担うなど連携し、2018年秋から入学を開始。MIT建築計画学部の学部長ハシム・サルキスは、「あらゆる分野で変化のスピードが速い時代だからこそ、カリキュラムはあえて固定せず、変化に先んじて改訂していく」とコメントしている。

▲ DIDI開校に向けた教育者たちのメッセージ。https://www.youtube.com/watch?v=i-C2S-30_u0


また、両校との連携により、研究・エンジニアリングとデザインを横断し、アイデアの創出から実用的なものへとスピーディに発展させていけるのも特徴となりそうだ。最新のファブリケーション設備に加えて、ドバイにいながら、世界トップレベルの指導者たちから学ぶことができる。

ドバイ・デザイン・ウィークの学生展示「グローバル・グラッド・ショー」を10代の若者たちに見てもらいたいと、デザイン・ウィークのディレクターであるシリル・ザミットは地元の高校生に呼びかけた。若者たちがデザインに関心を持ち、やがてDIDIのグローバルな教育者たちと出会う。d3を中心とするデザインコミュニティの今後は、2018年以降のDIDIの若者たちにかかっていると言えるそうだ。(文/長谷川香苗)

▲ DIDIは投資会社ドバイ・ホールディングス傘下のデベロッパーである
テコムグループとドバイ政府のクリエイティブ・クラスター機関が設立する。