ドバイ・デザイン・ウィーク、レポート3

10月26日~31日までドバイで第1回目となるデザイン・ウィークが開催された。その様子をレポートする3回目。

▲ 木の枠組みにチューブ状のクッションを編み込んだ「Braided chair」。三つ編みはドバイの女性なら誰でも子どものとき、一度は結ったことのあるヘアスタイルで、見るとノスタルジックになるという。ドバイのデザイナー、ラティファ・サイードは家具やデザインを通してある種のノスタルジーを醸し出したいという。約470,000円


アラブ首長国(UAE)および中東地域のデザイナーたちの多くは、欧米の駐在員家族のために設立された米国系、カナダ系大学でデザインを学んでいるのが現状だ。こうした教育機関で学ぶことで、自ずと国際的な感覚を持ち合わせることになる。また現在、レーザーカットや3Dプリンティングのためのツールは、他の地域のデザイナーと同じように手に入る。加えてインターネットやソーシャルメディアによって、どこにいても世界のデザイン動向に平等に触れることができ、アラブ圏だからといった地域差は生まれない。

そうしたなか、ドバイを含めたUAEを拠点に活動するデザイナーには、世界が均質化に向かう今だからこそ、自分たちのアイデンティティを追及する姿勢が感じられる。それはこれまでの遊牧生活を懐かしむという意味ではない。砂漠の民ゆえの定住することのない暮らしでは、固定する家具を持つことはなく、行く先々の素材でその時々に必要なものをつくることが一般的だった。そうした風土を取り込みながら、定住生活を基本とする欧米諸国でも受け入れられるプロダクトをつくること。今のUAEのデザイナーたちは、ハイブリディティが可能な第一世代のデザイナーといえるだろう。

▲ カリッド・シャファール。2012年にはドバイに自身の家具や製品を発表するショールーム「KASA」を設け、ブラジルのカンパーナ兄弟やイタリアのカルテル社とコラボレーションを行うなど、ドバイデザイン界を牽引するデザイナー


例えば、1980年ドバイ生まれのカリッド・シャファールは、ロンドンのセント・マーチンズ美術大学で家具デザインを学んだ後、ニュージーランドの木工技術センターで木工家具づくりを学んだ。彼が大切にしているのは風土。UAEの人々にとってヤシの木は外に出ればいつもあるだけでなく、ヤシの葉は日よけとして家の建材に、器として暮らしの道具に使われてきた身近な存在。

シャファールも他の人同様にヤシの木にまつわる言い伝えを幾度となく聞いて育ち、中東で必ず見かける菓子、ドライナツメヤシ(デーツ)が好きだという。彼の代表作であるヤシの木の幹のイメージを重ねたスツールは、こうした背景から生まれたという。

▲ カリッド・シャファールは、ヤシの木の幹に想を得たデザインをスツールだけでなく、コートハンガー、フラミンゴをイメージした引き出しにも展開


アヤ・アル・ビタールはサウジアラビアで生まれ育った家具デザイナー。ニューヨークのパーソンズ・スクール・オブ・デザインで学んだ後、活動の拠点をドバイに移し、2014年9月にデザイナーとして始動。

ドバイと同じように遊牧生活の歴史が長かったサウジアラビアでも家での暮らしは床座が中心で、「Wisada」と呼ばれるアラブ版“座布団”はどの家庭にもあるアイテムだそうだ。その習慣を生かしつつ、西洋の暮らしでも使いたくなるような家具に落とし込むために、素材にこだわり、寝転んでもたれかかることができる形状にした。2015年春に発表したところ好評で、すでに冬物ラインが登場している。


▲「Wisada」。床座の暮らしが今でも一般的なアラブ首長国では、フォーマルな場でも床に座って客人をもてなすことが多い。あぐらをかく男性用、行儀よく座る女性用など、規律の厳しい中東地域に配慮したバージョンを製作

▲ 西洋でも今やリラックスするときは椅子ではなく、脚を崩して床に座るもの。日本の座布団より体をもたれやすくするために立体的に工夫され、見た目以上に使いやすい


ドバイは人工的すぎて住む場所ではない、という批判的な声もあるなか、失敗を恐れないダイナミックな街としてドバイに移り住むデザイナーもいる。35歳のクロアチアのデザイナー、ヴィクトル・ウゼニヤはロンドンのノーマン・フォスター建築事務所に在籍中、この地の建築プロジェクトに関わったことから魅了されたという。

2013年に独立した際、ドバイに移り住み、これからますますデザイン系事務所やリテールが入居するであろうデザイン街区にオフィスを設けた。彼のように大手建築・デザイン事務所でドバイのプロジェクトを経験し、そのときのネットワークで仕事を得るデザイナーも増えている。


▲ デザイン・ウィーク期間中、ヴィクトル・ウゼニヤが発表したマーブルのロッキングスツール「Little Rocker」。800kgの大理石をCNCマシンで厚み1.5cm、45kgにまで削り出した


このようにコスモポリタンな街に、多くの若いデザイナーが期待を寄せているのは確かだ。ただ、素材の調達、生産してくれるメーカー探しは簡単ではないという。しかし、ドバイ・デザイン・ウィークにはカルテルやクヴァドラといった欧米の大手家具ブランドも参加している。欧米、アラブ、いずれの社会でも立ち居振る舞いを心得ているデザイナーたちなのだから、今後欧米ブランドとの仕事の道が開ける可能性もあると感じた。(文/長谷川香苗)