火星に居住する時代を想定した、3Dプリント&インフレータブル建築

人類は、やがて火星に居住する時代を迎える。そのときに、どのような住居を設営できるのか? 

NASAが、3Dプリントを活用した建築方法を含めて、そのあり方を考えるデザインチャレンジを開催した。それに応えて、オーストラリアの建築デベロッパーのハッセルと構造技術企業のエッカースレイ・オキャラガンが共同でアイデアを提案した。それは、キューブ型の自動建設ロボットによってつくられるシェルの中に、空気を充填して展開する、組み合わせや機能を自在に変えられるインフレータブルポッドを収めた、二重構造のハビタットである。

建設ロボットは人間の到着に先立って火星に送り込まれ、ハビタット完成後、居住環境が整った時点で生活者が暮らしはじめるという流れが想定されている。

実際のデザインチャレンジは2018年に開催されたもので、上位入賞できなかったハッセルのチームの提案はほとんど知られていない。しかし、2021年に火星着陸に成功したNASAの探査車「パーシビアランス」が現地で二酸化炭素から酸素を生成する実験を行ったり、先日は中国の探査車「祝融号」が液体状態の水を発見するなど、人類が自ら赴いて調査する日の到来も夢物語ではなくなりつつある。そして、3Dプリントによる建物の建設や自律型ロボットの開発も数年前とは比較にならないほど進んだ今だからこそ、ハッセルのアイデアを改めて見直すときが来たように感じられるのだ。

モジュラー構造を持つロボットの個々のユニットは、モノホイール(一輪)で走行する。現在のセンサー&制御技術を適用すれば、モノホイールでも安定した移動が可能である。そして、前後左右に連結することで、より大きな重量物を運搬したり、他の機能ユニットを合体して火星表面の堆積物から3Dプリント用のセメントをつくり出し、実際の積層作業を行えるようになる。

なかでも、回転させることでローラー内に堆積物を集め、逆転させると内容物を保存・運搬用のコンテナユニットに移すことができる機構はユニークだ。信頼性が求められる遠隔地での自動作業のためには、単純で故障しにくいメカニズムが必要であり、実際に機能させるうえで解決すべき課題はあるとしても、単純かつ効果的な基本アイデアと言える。

過酷な火星の環境において、耐久性と快適性を両立させ、状況に応じたフレキシビリティを持たせるために、強固なシェルの中にソフトで組み替え可能な居住空間を建て込むことは理にかなっており、個人的には上位入賞しても不思議ではない提案ではないかと感じた。End