エミレーツ航空が提案する
「窓のない旅客機」。
そのデザインが意味するもの

LCCの台頭によって競争が激化する航空業界で、エミレーツ航空は独自の高級化戦略を打ち出して存在感を高めている。

その最新の成果が、中東地域におけるツーリズムの展示会「アラビアン・トラベル・マーケット2018」で公開された、ボーイング777のファーストクラスの完全個室セクションで、メルセデスベンツの内装デザインに影響を受けたインテリアやNASAの人間工学研究にヒントを得た「ゼロ・グラビティ」のシートポジションなどを備えている。

なかでも、筆者が注目したのは、コンパートメントには実際の窓がないにもかかわらず、光ファイバーを利用してリアルタイムで外の様子が映し出される「バーチャルウィンドゥ」システムだ。

その画質は、実際に透明の窓を通して風景を見る場合と遜色ないとされ、湾曲した機体の断面形状の影響を受けず、圧迫感もない個室の中で、外の景色を楽しむことができる。

それだけでは、単に高級志向のギミックと受け取られかねないが、同エアラインのCEOによれば、将来的にはこの技術を応用して、完全に窓のない旅客機をつくることも考えられるという。もちろん、その場合には航空機メーカーの全面協力が必要となろうが、もし実現すれば旅客機のデザインに革命をもたらす可能性がある。

と言うのは、機体に多数設けられた窓は、構造的な弱点となり得る箇所であり、また、窓をはめ込んだ部分の微妙な凹凸やギャップによって空気抵抗が増す要因ともなっている。空気抵抗に関しては、機体表面のリベットの頭の平滑化が燃費に大きな影響を与えることを考えても、無視できないものと言える。

つまり、窓のない旅客機は、より構造的に強く、軽く、空気抵抗の少ない機体を持つことになり、安全性や燃費の向上が期待できるのだ。現時点ではコストその他の事情から全席に備えることは難しいことは容易に想像できるものの、やがては、足し算ではなく引き算のデザインによって旅客機の姿が変わる日も来るのかもしれない。End