SXSWにおけるIBMの存在感とDuoSkinの試み

前回まで3回にわたり、「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2017」でのパナソニックの新たな挑戦について触れてきたが、そのほかにも特筆すべき動きはいろいろとあった。ある国内メディアが、SXSW関連の翻訳記事で「技術革新のお祭り騒ぎは終わった」というようなタイトルを掲げていたが、元の英語記事に当たってみると、原文タイトルは「テクノロジーは、それがつくり出してきた問題に直面している」といった意味の、とても冷静かつ客観的なものだった。

確かにSXSWでは、脳と電子機器を直結するインターフェースの話題を扱ったり、AIの進化によって、犯罪を起こす可能性のあると判断された人物が何もしていないのに逮捕されるような、ファシズム的世界が到来する危険性に言及するセッションもあり、技術と倫理のバランスに問題意識を持つ動きも一部に見られた。だが、それこそがSXSWのダイナミズムを示しているのであり、日本企業がもっと注目すべきこのイベントのことを、すでに終わったコンテンツとなっているかのような邦題で象徴させるべきではない。

世界的に知られたメディアの記事でも、翻訳や日本語版編集の時点で、原題とはニュアンスの異なる煽るようなタイトルが付けられる事例は過去にも少なからず存在し、筆者の別メディアの記事やコラムで警鐘を鳴らしてきたつもりだ。もちろん、日本と他国の言語や文化の違いから元タイトルの直訳では理解しづらい場合もあるため、邦題そのものは否定しない。しかし、翻訳記事には必ず原題も併記させるなどの措置を講じないと、フェイクニュースならぬフェイクタイトルの謗りを受けても不思議ではなくなってきていることを指摘しておきたい。

さて、話を戻して、今回を含めてあと3回、SXSW関連の話題を扱うつもりだが、まず、IBMの動きとMIT系のデザイン/テクノロジー系のデュオスキンの話をしよう。

IBMといえば、過去にはメインフレームからPCまでをカバーするコンピュータ界の巨人として、”Think”すなわち「考える」という単語を企業スローガンとして掲げていた。ところが、SXSWでは”IBM is making.”(IBMは創造している)をキャッチフレーズとし、考えているだけでは不十分で、具体的なサービスやモノをつくって提案するという姿勢を全面に押し出してきた。

奇しくもグーグルが、プレゼンテーションスライドを見ながら議論するだけの会議は無意味で、プロトタイプを前に手を動かすことの重要性を訴えている状況と軌を一にしており、展示内容も、それに即したものだった。

具体的には、来場者にマイクロソフトのVRコンピュータ、ホロレンズを装着させて何もないテーブル上で仮想的な3Dグラフを操作させたり、自社設計の教育向けオープンソースロボットであるTJボット(名前は、IBMの初代CEOで会長だったT.J.ワトソンに由来する)のキットの組み立て方をその場で学んでもらうなど、外に向かって開かれたIBMを体験・体感してもらうことに重点が置かれていた。

もちろん、それらはすべて同社が誇るAIシステムのワトソンと連携しており、AIビジネスへ大きく舵を切ったIBMの今を、全面的にアピールするものでもあった。現CEOで、フォーチュン誌が「ビジネス界で最もパワフルな女性のひとり」と評したジニー・ロメッティー氏が、真っ赤なジャケットに身を包んで視察に訪れたことも、SXSWを重視するIBMの姿勢を象徴するものと言えるだろう。

一方で、MITメディアラボがマイクロソフト・リサーチと共同で研究開発中の「デュオスキン」は、デザイン性の高い貼るタトゥーのような金属箔を、直接、皮膚に貼り付けて、電子機器のスイッチにしたり、ディスプレイ上の情報のコントローラーとして利用するアイデアである。

この分野では、すでにセンサーそのものを皮膚の下に埋め込んで人体と一体化させる研究も存在するが、任意に剥がせるデュオスキンは、より安全かつファッショナブルに電子機器とのインタラクションが行える点で大きく異なっている。

導電性を持つデュオスキンは、発光するジュエリー的なアクセサリーや、電子インクなどを用いたオン・スキンタイプのディスプレイにも応用でき、比較的容易に実現できるのではないかと思えた。End