SXSWの落穂拾い。
自動車自販機からVR上映、AIによる衛星画像解析まで

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)関連の話題の最終回は、会場周辺やセッション内で出会った興味深い話題を紹介しておきたい。

まず、会場近くに巨大なクルマの自動販売機を設置して人々を驚かせた「カーバナ」は、アメリカの中古車販売に革新をもたらしたユーズドカー・セラーだ。

百戦錬磨の相手との交渉の末に、完璧ではないクルマをつかまされる恐れがあるこれまでの中古車販売システムを、明快で優れたユーザー体験を与えられるものに変えようとする同社が考えついたのは、カー・ベンディング・マシン(自動車自販機)。もちろん、展示されていた水色の装置はダミーであり、それでクルマが買えるわけではない。右下隅のバーを掴んでゆさぶるとプロモーション用のミニカーが出てくる仕組みだ。

しかし、このプロモーションによって、人々は、クルマがなぜこのように簡単に買うことができないのか?という疑問を持ち始める。カーバナの実店舗では、ここまで簡単ではないにせよ、自販機でクルマを買う感覚に近い体験を味わえるようになっている。

同社は、もともとオンラインでクルマを販売し、全米各地の個人宅に直接届けるというサービスを行っていた。Webサイトのデザインにも工夫を凝らし、扱うすべての車両のエクステリアとインテリアを自社の専用スタジオで高解像度VR撮影して公開するなど、実車を見ずに買うことのマイナス面を極力払拭する努力を続けてきた。そして、購入車受け取りのための実店舗網を整備するにあたり、シンボル的に用意したのが、カーバナ流のカー・ベンディング・マシンだった。

それは店舗に併設されたガラス張りの全自動ガレージであり、すでにオンラインでの契約を済ませている顧客が店舗に出向くと大きなコインを渡される。それをガレージの操作卓に投入すると、該当するクルマがロボットコンベアシステムによって正面ドアのところまで移動されてくるのだ。

顧客の立場からいえば、自宅まで配車してもらうほうが明らかに楽であり時間を無駄にしない。しかし、「自販機で愛車を買った」という体験は他では味わえず、SNSに投稿する格好の出来事ともなる。カーバナにとっては、投資しても各戸への配車の手間や人件費を考えれば十分に元が取れ、しかもこれ自体が広告塔としての役割を果たすということだろう。ユーザー体験のデザインとしても、とても優れた事例だと感じた。

こうしたクルマ社会を象徴するようなビジネスとは対極的なレンタサイクル事業も、特にオースチンのような観光都市では盛んに行われている。そこに投入されたのが、中国発のモバイルレンタサイクルサービスである「モバイク」だ。

同サービスでは、これまで既存のシティサイクルをシンボルカラーのシルバーとオレンジに塗り分けて中国国内で運用していたが、機材の入れ替えや海外進出を機に完全新設計のモデルを開発。SXSWの会期の途中から会場周辺でも目にするようになったので、おそらく、プロモーション効果の高いイベントに何とか間に合わせてサービスを開始した模様だ。

前後片持ち式でシャフトドライブという先進的かつシンプルなグッドデザインの車両でありながら、モバイク事情に詳しい知人のデザイナーによると日産1万台規模で量産しているため、1台あたりのコストはかなり低く抑えられており、利用料金も30分ごとに1ドルと安価に利用できる。特別なバイクステーション設備などは不要で、車体についたQRコードを専用アプリで読み取ることでアンロックされる仕組みだ。

同社はすでに上海を世界最大の自転車シェアリング都市にしており、その勢いで世界を席巻していく可能性がある。

再び会場内に戻って、SXSWは映画の祭典でもあるため、各映画会社は新作の試写やプロモーションに余念がない。特にエジプトのミイラの復活を題材にした「ザ マミー」シリーズの最新作はトム・クルーズを主演に迎え、ミイラの棺を運搬中のヘリコプターが墜落するという設定の、無重力状態での演技が目玉となっている。

その無重力感覚を味わってもらうために、配給元のユニバーサルピクチャーズは、ひとりサイズのモーションVR機構を備えたコクーンを並べた特別スペースを用意。予約制で毎回満員となる人気ぶりを誇った。

SXSWではあくまでもプロモーション的なメイキング映像のVR上映にとどまったが、その完成度から考えると、このようなコクーンを並べてVRゴーグルで本編映画を鑑賞するような、VRムービシアターのような展開も十分あり得そうだった。

最後は、テクノロジーのダークサイドにもつながる話題だが、セッションのひとつに「スカイ・ノウ」という、AI技術を衛星画像解析に応用して、さまざまな調査分析結果を提供する企業のものがあった。

ニュースなどでも、特定国の軍備やミサイル発射の準備状況などの衛星写真解析結果が採り上げられることがあるので、読者の皆さんにも馴染みのある技術と思うが、AIとの組み合わせによって、地上にあるほとんどのものは種類別に自動認識できるレベルにまできていることが理解できた。例えば、駐車場に並ぶ自動車なども、さすがにモデル名までは特定できないものの、乗用車とトラックの区別などは自動判別されるうえ、ほとんど背景の地表色と区別がつかないような画像から、それらの台数までもが正確にカウントされている。

当然ながらプライバシー関連の懸念が出てくる部分でもあり、いつの時代にも技術自体は中立だが、それを使う人間の思惑次第でさまざまな問題を引き起こし得るものであることを改めて印象付けた。

このように清濁併せ呑むSXSWだが、来年はどのような進化を遂げるのか、そして日本企業の出展がどれだけ増えるのか、刮目して見守りたい。End