REPORT | プロダクト / 展覧会
6時間前

ミュンヘンIAAモビリティ2025で公開されたメルセデス・ベンツ新型GLC。
2025年9月9日から14日までドイツ・ミュンヘンで、「IAAモビリティ」が開催された。同市での開催は今回で3回目。会期中、メッセミュンヘンと市街地会場は50万人を超える来場者で賑わった。地元ドイツのプレミアムブランドの潮流と、著しい存在感を示した中国ブランドの課題をデザイン視点からリポートする。
メルセデスの新フロントフェイス
メルセデス・ベンツ、BMW、アウディによるバッテリー電気自動車(BEV)のデザイン的方向性は、従来以上に明確だった。
メルセデス・ベンツは、ミッドサイズSUVである新型「GLC」をフル・エレクトリックで発表した。
彼らはそのエクステリアを「ミッドサイズSUVのタイムレスなプロポーションを継承しつつ、徹底的にモダンに仕立てた」と説明する。

メルセデス・ベンツ新型GLCはバッテリー電気自動車(BEV)として発表された。

全長✕全幅✕全高は4840✕1910✕1650mm。後部のラゲッジスペースに加え、フランク(Frunk)と名づけられたフロントフード下荷物用スペースも備える。
「ブランドフェイスを再定義する」として強調されたのはフロントの意匠で、内燃機関時代は機能的要素だったグリルの再解釈を試みている。オプションで選択できるライトアップできるバージョンは、合計942ドットのポリカーボネイト製バックライトにより、解錠時や充電中にピクセルグラフィックのアニメーション表示が可能だ。国・地域の保安基準によるものの、中央のスリー・ポインテッドスターとグリルの外周も点灯する。

往年のメルセデス車のラジエターグリルに範をとった新フロントフェイス。

以下3点は、新フロントフェイスの工程解説。これは2成分の射出成形。

多段階のクロームメッキ・プロセス。

完成部品と、その内部。

市内パビリオンのファサードも新フロントフェイスをかたどったものだった。
インテリアで最初に目に飛び込むのは、ダッシュボード全体に広がる「MBUX ハイパースクリーン」だ。1枚のガラス面で複数のディスプレイを覆うそれは、歴代メルセデス中最大の39.1インチを誇る。

GLCの「MBUX ハイパースクリーン」は39.1インチ。
スカイコントロール・パノラミックルーフは、透明・スモーク・不透明を切り替えることで、自然光の取り込みやプライバシー確保を実現する。さらに162個の星型キャラクターを64個で投影することが可能である。インテリア全体では動物由来素材を使用せず、リサイクル素材や植物由来の繊維を用いたことで、世界で初めて「ザ・ヴィーガン・ソサエティ」の認証を受けている。
クリーンな面構成のBMW
いっぽう、ショー開催地ミュンヘンを本拠とするBMWが発表した新型「iX3」は、新・電動プラットフォーム「ノイエ・クラッセ」を使用したモデルの第1号である。彼らは、複雑な技巧に神経を払ったマニエリスム絵画のようなメルセデス・ベンツとは別のベクトルを示してくれた。BMWグループのデザイン責任者アドリアン・ファン・ホーイドンクのプレゼンテーションの中でたびたび登場したワードは「クリーン」である。
4輪すべてを強調することによる力強いスタンスと張り出したショルダーを採り入れながらも、ボディ全体のサーフェスは極めてクリーンなものである。これは空気抵抗係数(Cd=0.24)の達成にも貢献している。

ノイエ・クラッセ・シリーズの第1弾として発表されたBMW iX3。

4輪の存在感は強調されているものの、キャラクターラインを含む面処理はきわめてクリーンだ。
フロントはメルセデスと同様、歴代車両をモティーフとしている。具体的には1960年代の元祖ノイエ・クラッセを範としたものだ。たが、より未来感が強調されたものといえよう。ライト・シグネチャーによるキドニーグリルが伸びる方向は、従来モデルより縦方向が強調されたものとなっており、デイタイム・ランニングライトの一部も果たす。リアのライトも車両のワイド感を強調している。今回示された新しいデザイン・ランゲージは今後のモデルにも反映される。
新ディスプレイ・コンセプト「パノラミックiDrive」を採用したダッシュボードの目玉は「パノラミック・ビジョン」である。ウィンドスクリーン直下に広がる長いディスプレイで、視線を逸らさずに情報を確認できるとともに、同乗者全員からも見える。いっぽう、17.9インチのセンター・ディスプレイは、ドライバーに向かって17.5°並行四辺形状に傾けられている。これらのデザインも今後展開されるすべてのBMWに応用される予定だ。

新ディスプレイ・コンセプト「パノラミックiDrive」が採用されたダッシュボード。

UI/UXデザインを統括したミヒャエル・ヘルラーがパノラミックiDrive解説する。先に2025年1月のCESでも使用された巨大造作物が活用された。
「触感」も追求したアウディ
対してアウディは、9月2日にミラノで披露した「コンセプトC」をミュンヘン市内会場に持ち込んだ。2024年にチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任したマッシモ・フラシェッラは、ベルトーネを振り出しにフォード/リンカーンに移籍。続いて移籍したジャガー・ランドローバーでは「タイプ00コンセプト」を発表し、衝撃を巻き起こした人物である。今回のコンセプトCのミニマリズム的造形は、同車と共通するものがある。
着想源はアウディの源流であるアウトウニオンによる1936年「タイプCレーシングカー」や2004年の3代目「A6」だ。外装色の「チタニウム」は、精密さ・軽さ・強さを象徴するチタンの輝きにインスパイアされるとともに、温かみのある技術的エレガンスを表現したものという。

アウディ・コンセプトC。市内会場にディスプレイされ、多くの一般来場者の目にふれた。
「ヴァーティカル(縦)フレーム」と名付けられたフロントフェイスも、歴代モデルからインスパイアされている。ショルダーラインは、スポーツカーとしての量感を強調したものと説明されている。電動格納式ハードトップは、実はアウディ史上始めての採用だ。
解説文で繰り返されているワードは「水平」である。後部のスリット、ライトシグネチャーに水平要素を取り入れることにより、よりクリーンな印象を与えることに成功している。

かつてのTTやR8の後継車として、2027年に市販が予定されている。
メルセデスやBMWと異なる訴求は、インテリアでも見ることができる。タッチパネル全盛の今日おいて「物理コントロール」や「触感」が強調されているのだ。アノダイズド・アルミニウム製のスイッチ類には、ブランドが「アウデイ・クリック」と呼ぶメカニカルな操作感をもたせている。真円のステアリングホイールには触覚体験の中核を担わせている。

ハイテック感よりも、操作感や触覚体験が優先されているところが特色。
電子デバイスでステイタス感を強調するメルセデス・ベンツ、クリーンなデザインにシフトし始めたBMW、力感をともなったミニマリズムを模索し始めたアウディ。ドイツ系ブランドは、従来のアグレッシヴ一辺倒から、それぞれの方向性を示し始めた。将来振り返った場合、2025年のIAAがドイツ車デザイン・アイデンティティにとって、ひとつの分水嶺になると確信した。
「横長ライトバー依存」の次は
ところで今回のIAAで目立ったものといえば中国ブランドである。国営放送機構「中国広播電子総台」によると、その数は部品製造企業なども含め116を数えた。全出展社(748)の約1/6を占めていたことになる。
欧州連合による中国製EVへの課税を回避すべく、彼らは域内に生産拠点の確保を進めている。それ以前に、研究開発拠点の拡充にも積極的だ。例として、今回GACが欧州プレミアしたBEV「アイオンUT」は、同社が2021年にミラノに開設したアドバンスト・デザインセンターが大きな役割を果たした。新型「P7」を欧州プレミアしたシャオペンXPENGは、ミュンヘンに開発拠点を予定していることを今回の会場で明らかにした。

中国のBEVブランド、シャオペンが欧州初公開した新型P7。

シャオペン新型P7。同社はフォルクスワーゲン・グループと戦略的提携を締結済みだ。

GAC製が展示したコンパクト・ハッチバックBEV、アイオンUT。
デザインに関していえば、外国人デザイナーの起用も奏功し、格段に洗練されてきたのが確認できる。中国ブランドと分類すべきかは微妙だが、ボルボ・カーズとその親会社である中国の吉利汽車の合弁ブランド、ポールスターも、デザインおよびイメージ戦略に対して積極的だ。彼らは、ボルボと同じスウェーデンのイェーテボリに本社とデザイン開発拠点を置く。今回世界初公開した旗艦モデル「5」は、2020年に発表されたコンセプトカー、プリセプトをベースにしたものだ。総アルミニウム・アーキテクチャー上に造られた全高1420mm 5人乗りのグラン・トゥアラーである。参考までに市内ルートヴィッヒ通りに設けられたパビリオンは「Experience Lab」と名付けられ、会場スタッフは全員白衣着用でゲストを出迎えるという演出が行われていた。

ポールスター5。

ポールスター5。後退はリアビューカメラに依存することを前提としたデザインである。

市内に設けられたパビリオンは「Experience Lab」と名付けられていた。
今回参加したBYDやシャオペンなどはヨーロッパで販売網を着々と整備し、一部の国では早くも好調な販売実績を示している。今回は参加を見送ったが、北京汽車系MGの小型車「ZS」は、イタリアの2025年1-8月登録台数で第9位にランクインしている。しかしながら筆者の視点からすると、彼らはいまだデザイン・ランゲージを完全に確立できていない。たとえば左右いっぱいに広がるポジショニング&テールのライトバー、もしくは限りなく切れ長なヘッドライトといったものに先進感を依存しすぎている。実際多くのヨーロッパ人は、たとえ自動車好きであっても、一部の車種を除きバッジを隠したら、どの中国ブランドか言い当てられないであろう。将来彼らが、ドイツの自動車ブランドのように強固なアイデンティティを確立できるのか、もしくは日本ブランドのように試行錯誤を繰り返さなければならないのか注目していきたい。
ところでメッセのエントランスには、かつてジョルジェット・ジウジアーロがデザインした「デロリアンDMC-12」が展示されていた。ある新電力会社がプロモーションのため、電気自動車仕様に改造したものであったが、足を止めて見入る人が少なくなかった(ちなみに2025年は、生みの親ジョン・ザカリー・デロリアンの生誕100年である)。ニューモデルがひしめく会場で、44年前のデザインがいまだ未来感を放っていることに、複雑な心境を抱いた筆者であった。![]()

新電力会社e-onによってメッセ会場のエントランスにディスプレイされていたデロリアンDMC12。

会場で公開されたコンセプトカー/ニューモデルの中から。MINI JCW「スケッグ」。BMWグループの子会社デザインワークスとオーストラリアのアパレル系ブランド「デウス・エクス・マキナ」によるコンセプトカー。フロントおよびフェンダーの樹脂使いに注目。

フォルクスワーゲン ID.クロスコンセプト。同ブランドにおけるBEVシリーズの新バリエーションで、2026年中に発売予定。

ルノー新型クリオ。ラジエターグリルも新意匠を導入。 エンジンは1.2リッターガソリンと1.8リッター・ハイブリッド、LPG/ガソリン併用仕様という極めて現実的な設定だ。

新型クリオ。ウィンドウ下のラインでダイナミズムを強調した、とメーカーは説明している。

会期中の9月10日、イタルデザインが3Dホログラフィックで発表したEVXプロジェクト。VWが開発したBEV用プラットフォーム「MEB」の使用を想定した2+2 3ドアクーペのスタディである。(photo: Italdesign)












