
「SUKU」(2025)。福井の工芸宿のために、閃は照明器具などを制作。空間設計はZeltの柴山修平が手がけた。
閃(SEN)は2023年に結成された、福井県越前市を拠点に活動するクリエイティブチームである。メンバーは上田樹一、大西弘晃、高田陸央、深治遼也の4名で、全員同い年の20代。各自が別の仕事をもちながら、閃として展示会への参加やクライアントワークなどに取り組んでいる。今年は11月9日に福井県越前市今立にオープンした、越前和紙を体感できる工芸宿「SUKU」のためのプロダクト開発に携わった。産地に根ざして活動する彼らに、伝統工芸への向き合い方や想いについて話を聞いた。

「ギャラ椀」深治遼也(2024)。和のイメージに偏りすぎない、独自の形状を追求した。越前漆器の木地師とのプロジェクトで、作品名は報酬の代わりにこのお椀を譲り受けたことに由来している。制作:ろくろ舎
福井での出会いからチーム結成へ
閃のメンバーは、生まれ育った地域も、現在の職業も多様である。福井県出身の深治遼也は、鯖江市の漆器メーカーに勤務している。愛知県出身の上田樹一と神奈川県出身の大西弘晃は高校の同級生で、福井市にニワトリワークスという工房を立ち上げ、家具を製作・販売している。三重県出身の高田陸央は、東京で企業内デザイナーとして従事する。
そんな彼らは、いずれも福井で出会った。当時大学生だった深治と高田は、福井で開催されるものづくりのオープンファクトリーイベントRENEW(リニュー)にインターンとして参加したことをきっかけに知り合った。高田が大学卒業後も福井へ足を運ぶなかで、ニワトリワークスの活動を発見し、大西と上田の工房を訪ね、意気投合。2023年、チーム結成に至った。

「Transflect」上田樹一(2025)。アルミ板に薄い和紙を貼り込み、和紙の柔らかな光の反射や透過性と、アルミの鈍い光沢や強度を融合させた照明器具。和紙制作:卯立の工芸館
伝統工芸の盛んな越前市を拠点に
福井は、和紙、打刃物、箪笥、漆器、焼物など、長い歴史をもつ多彩な伝統工芸の産地として知られ、近年は若い世代を中心とした移住者が増加傾向にある。福井の伝統工芸の魅力が広まり、工房への就職や、まちづくりの担い手として移住するケースが少しずつ増えているという。2015年スタートのRENEWが工房見学を催して発信していることも、移住者増加の後押しとなっているだろう。
福井県出身の深治は、様変わりした故郷について語る。「伝統工芸が盛んなのは、鯖江市や越前市。僕は福井市出身だったので、その面白さを知らずに東京の大学に行って、数年振りに戻ったら、活気にあふれていて、全く別のまちを訪れた感覚になりました」。


閃の活動拠点の「越前ハウス」。1階はアトリエ、2階には福井の素材やそれらを使った作品が多数並ぶ。
高田は東京、そのほかのメンバーは福井に暮らし、越前市にある「越前ハウス」を閃の活動拠点としている。そこは、2021年度のFUKUI TRAD(伝統工芸士たちとの日常的な交流を通して、現代のライフスタイルに合うように福井の伝統工芸品をアップデートし、新たなプロダクトを開発するプロジェクト)において、クリエイティブチーム「圓(en)」の佐々木集、西岡将太郎、森 洸大が拠点として始動させた場所だ。プロジェクト終了後、越前市と越前市観光協会の協力のもと、閃のメンバーがこれを受け継いだ。アトリエとアーカイブの機能を設け、福井県内外をつなぐコミュニティ拠点として運用している。
ニワトリワークスの大西と上田は、これまで福井市の山間部の工房で家具制作に取り組んでいたが、閃のメンバーと会って初めて越前市に足を踏み入れて驚いたという。「世界が一気に広がりました。今は見るもの、触れるもの、すべてが面白くて宝の山のようです」と大西は話す。上田も、越前市の環境について述べる。「僕らが閃として活動を始めたときには、すでに先人のみなさんの尽力のおかげで、県外から来た人もおおらかに受け入れる土壌が育まれていました。おかげで街の方々も僕らを温かく受け入れてくれて、職人さんともいい関係性を築くことができています」。

「Time-Crafted」高田陸央(2024)。自然のなかで何千年もの時間をかけて形成された石のような模様とテクスチャーを和紙で表現した。和紙制作:長田製紙所、Photo by Tatsuma yamakawa

「Time-Crafted」高田陸央(2024)
「The spark is in the neighborhood.(閃きは、いつも近所にある)」
彼らはウェブサイトに、「The spark is in the neighborhood.(閃きは、いつも近所にある)」という言葉を掲げている。自分たちが活動する土地一帯を「neighborhood(近所)」と捉え、そこで出会う「職人(ご近所さん)」と共創し、身近な環境にある素材を用いて制作する。
展示会やSNSなどで作品を紹介する際には、制作協力者として「職人(ご近所さん)」の名前を明記している。高田は、その理由を説明する。「これまで和紙を用いた商品や空間のプロジェクトを見てきたなかで、職人さんの名前があまり表に出ていないと感じていました。僕たちは日頃から支えてもらっている職人さんを深く尊敬していて、感謝の気持ちを表すためにも名前を記載しています」。

「MAKIKO」大西弘晃(2024)。越前和紙と木材できたシェルフで、背面の支柱に和紙が巻き付くことで扉が開閉する。越前和紙の美しい質感が引き立つ設計を考えた。和紙提供 : 清水紙工

「local landers : pod」上田樹一(2024)。刺繍枠に着想を得て、内枠と外枠で和紙を挟み込む構造でできた家具。和紙制作: やなせ和紙
デザインイベントに意欲的に作品を出展
福井の伝統工芸の魅力と自分たちの取り組みを広く発信するため、積極的に展示会へ作品を出展している。今年はDESIGNART TOKYO 2025(UNDER 30に選出)、alter. 2025, Tokyo、DESIGNTIDE TOKYO Marketと、東京のデザインイベントに立て続けに出展した。
こうした展示会への参加を通じて新しい出会いが生まれ、人の輪が広がり、仕事の依頼も舞い込むようになった。11月にオープンした越前市の工芸宿「SUKU」のプロジェクトでの家具制作もそのひとつで、閃にとって初めてのクライアントワークとなった。「SUKU」の2棟目も進行中であり、こちらは家具を含めた空間設計まで携わるとのことで完成が楽しみだ。

「FUKUYO」大西弘晃(2025)。越前瓦を柱材の上に乗せたスツール。上下の瓦を銅線で絞めることで構造が成り立つ。瓦製作:越前セラミカ
さまざまな課題を抱える産地への思い
彼らが関わる伝統工芸はとても魅力あるものだが、一方では福井を含めて、各産地で職人の高齢化や後継者不足、資源の減少といった一筋縄では解決できない課題を抱えている。そのなかで閃のメンバーはどのようにものづくりに向き合い、取り組んでいるのか。上田、大西、高田は、「まずは自分たち自身がものづくりを楽しむことを大切にしている」と言う。
「日々の生活で見たり触れたりするものから受ける驚きや感動、刺激を原動力に作品を制作しています。僕らのその楽しいとか、面白いといった感情がにじみ出たら、作品はより魅力的になるはずです。それによって作品を見た人が興味を抱いて、伝統工芸に関心をもつ人が増えたら嬉しいですね」と大西は語る。
幼少期から地元の伝統工芸を見て育った深治は、3人の想いに重ねるように意見を述べる。「僕自身の活動テーマは『産地の持続』であり、そのなかでも特に『材料・道具・人』という3つの課題に注目しています。これらの課題は真摯に取り組むべき重要なテーマですが、多くの職人は製造に専念しているため、産地全体の俯瞰的な視点をもちにくい状況があると感じています。そこで、僕らのような外部の立場だからこそもてる視点を生かし、貢献できないかと考えています。個人の活動としても、和紙の原料植物の栽培を手伝ったり、工房の記録・アーカイブづくりに関わったり、人を雇うほどではないものの、必要な場に手を貸すなど、『産地の猫の手』として自分ができることは積極的に取り組むように心がけています」。

「枕木オブジェクト」深治遼也(2025)。紙漉きの道具「枕木」をモチーフにした照明器具。時代の変化とともに使われなくなった道具に光を当て、生活道具として使えるものに転換した。
「越前ハウス」は、閃のメンバーが創作活動を行う拠点であるだけでなく、今年からは東京など県外のクリエイターを招き、地域の素材に触れる体験型イベントを実施するなど、伝統工芸の魅力を広く発信する場として開放し始めた。また彼らは、「SUKU」のプロジェクトをきっかけに、作品の制作や展示に加えて販売を視野に入れたものづくりにも着手し始めている。
閃の強みは、産地に活動拠点をおいて、地域に密着して活動していることである。伝統工芸のものづくりは、一時的な活動に終わらせるのではなく、継続的な取り組みが不可欠であるからだ。そして、楽しみながら創作に向かう彼らの姿勢や取り組みは、産地の未来を明るく導く力となっていくだろう。ぜひ福井を訪れ、彼らの活動や現地の息づかいを直接肌で感じてほしい。![]()

閃(SEN・せん)/2024年に結成。福井県越前市を拠点に活動する4名のクリエイティブチーム。産地の素材や技術の成り立ちと向き合い、創作によって新しい解釈を生み出すことをミッションとしている。
(左から)
大西弘晃(おおにし・ひろあき)/1998年神奈川県生まれ。ニワトリワークス合同会社代表。良くも悪くもライブ感のある制作スタイルで活動中。(@hiroakionishi0024)
上田樹一(うえだ・きいち)/1999年愛知県生まれ。福井県福井市の山間部を拠点に、家具・什器のデザイン・製作を専門とする会社ニワトリワークスを経営。 仕事の傍ら、木、金属、樹脂など、多様な素材を自由に操り、素材の垣根を越えた技術を習得しながら、手作業による制作技術を磨いている。(@k11c11)
高田陸央(たかた・りくお)/1998 年三重県生まれ。2021年金沢美術工芸大学デザイン科卒業。東京でインハウスデザイナーとして働きながら福井を拠点に活動。生活するなかで、出会った伝統的な職人の技術や文化にインスピレーションを得た作品を中心に制作を続けている。(@rikuo_takata)
深治遼也(ふかじ・りょうや)/1999年福井県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。2021年よりRENEWの運営に携わる。現在は漆器メーカーで働きつつ、複数の産地を横断して工芸の工房・人たちに関わる。産地が続いていくために、猫の手になりたいと考えている。(@fu_kajifu)












