アートディレクター 葛西 薫さん
「書体は、文字であると同時に言葉なんです」

2017年夏にAXISギャラリー・シンポジアで開催された「ホスピタルとデザイン展」。グラフィックデザイナーの赤羽美和さんが、スウェーデンのセント・ヨーラン病院で行ったアートプロジェクトの取り組みを紹介する展覧会で、多くの人が訪れました。この展覧会のポスターをデザインしたのが、アートディレクターの葛西 薫さん。「仕事で初めてAXISフォントを使った」という葛西さんに、AXISフォントを検討した理由や感想、フォント選びのこだわりなどを聞きました。

居心地のいいデザインを目指して

ーー昨年、「ホスピタルとデザイン展」のグラフィックを手がけられました。この展覧会に関わることになった経緯を教えていただけますか。

デザイナーの赤羽美和さんは元サン・アドで、一緒に仕事をしていました。2010年、彼女が一念発起してテキスタイルデザインを学ぶためにスウェーデンに留学したんですね。その間も多少の交信を続けていて、ストックホルムのホスピタルアートのコンペに通って、ようやくそれが完成したという話は聞いていたんですが、「その活動を今度、展覧会という形で日本でも紹介することになった」と、僕に声をかけてくれたんです。かつての同僚をバックアップしたいと思っただけでなく、なにより病院とアートを結びつけるというプロジェクトの提案そのものがすばらしかったので、「できることは何でも」と参画しました。

▲「ホスピタルとデザイン展」のポスター。

ーーキービジュアルのコンセプトを教えてください。

病院のために赤羽さんが提案したのは、「まる、さんかく、しかく」という基本的な図形を使って、絵心のある人もない人もみんなで自由に絵をつくるというものでした。そこでのワークショップでできた絵を使うことも考えられたけれども、その原点である、「まる、さんかく、しかく」を僕なりになんとなく組み合わせてみるうちに、家と太陽、月みたいなものができた。これが「あったかいホスピタル」に見えてきて、ホスピタリティの語源でもある居心地のよさ、明るくほのぼのとしたイメージにも合致したので、これでいくことにしました。それに、「まる」が太陽にも月にも見えるのでいいなと。入院している人は昼も夜も関係なく病院にいるわけだから。

ーー大きくとった余白も印象的です。

レイアウトが窮屈にならないように、ポスターそのものが居心地の良さを感じるものにしたいなと思いました。赤羽さんが取り組んでいる内容や伝えたいことが真面目で大切な話だからこそ、堅苦しくはできない。だからといってデザインを“遊ぶ”のではなく、オーソドックスに余計なことを感じさせないといった意図がありました。

初めてのAXISフォント

ーーこのキービジュアルとの組み合わせに、なぜAXISフォントを選んだのでしょうか。

和英併記が前提で、パブリックな感じというのでしょうか、そういうイメージにするにはどんなフォントがいいかを考えました。最近、会社で使っているパソコンが変わったのですが、そのなかにAXISフォントが入っていたんです。AXISフォントの存在は知っていたけれど、「けっこうウェイト数があるんだな」とか、初めてじっくり見ました。和文と英文の書体の相性にはいつも苦労させられるんですが、AXISフォントなら同じ太さで揃うし、匂いの同じものが組めるなと思って。何よりパブリックな感じがある。しかも、展覧会をAXISビルでやるわけだから、使わないわけにはいかない(笑)。

ーーパブリックな感じとは?

いい意味で個性が少ないということ。最小限の個性で、一字一字がきれいで見やすく、文字を組んだ時にも読みやすいということではないでしょうか。強いポスターをつくろうとすると、どうしても強いデザインや太い書体を激しく組みがちですが、このポスターはそうではなくて、目に痛くない、身体に気持ちがいいものを目指したかった。そこには、品があって清潔感のあるAXISフォントが合うと思ったんです。

ただ個人的には、「懐の広い字」(枠いっぱいに広がっている文字)は避けるところがあるんですよ。字というのは、一字一字のいいかたちというのがある。でも、無理して上下のラインを揃えて、言葉よりも見た目を大切にしているものがあって、あまり好きではない。AXISフォントは適度に懐が広くて、それでいて文字の原型を守っている感じがある。欧文は小林 章さんのデザインですよね、日本語も英語も知っている方がいい意味で中庸のフォントをつくったのではないかな。だから、本文組みにもディスプレイにも使えるものができたんだろうと思います。

▲アクシスビル地下1階のシンポジアで行われた「ホスピタルとデザイン展」。

文字から言葉が聞こえなくなる

ーー普段のお仕事では、どのようなことに気をつけてフォントを選んでいますか。

書体は、文字であると同時に言葉である、ということをいつも思っています。世の中にどんな書体があってもかまわないけれど、最近は「文字から言葉が聞こえなくなっているな」と感じることが多い。ですから、組まれた言葉が脚色無く、そのとおりにちゃんと表現できる書体を選びます。例えば、「ホスピタルとデザイン」という言葉がそれ以上でもそれ以下でもなく収まる書体や組み方を選ぶ、ということです。文章を読んでいて、書体が気になるのではなく、言っていることがその通りに伝わることがいちばんいいわけだから。

ーーご自身はどんなフォントがお好きですか。

抑揚さえきちんと表現されていれば、細くても太くてもよくて。ゴシックよりは明朝のほうが筆記に近くて、筆を離したり押し付ける感じが表現されているから抑揚がありますよね。なかでも精興社の明朝体は大好きなんです。文章を組むとすばらしくて、小説家たちも「それで組まれたい」と熱望するようなよい書体。僕なんかそれを見ると、あまりの美しさに字が読めなくなっちゃう(笑)。今はモニターの時代で、英文も混在してゴシック化・横組み化していますよね。日本の文字が持っていた性質が失われていくように思います。

言葉(文系)と図形(理系)が共存

ーー葛西さんにとって、字やフォントという側面からみた「会心の作」はありますか。

少し前ですが、「HIROSHIMA APPEALS 2013」(平和希求キャンペーンポスター、第16回亀倉雄策賞受賞)が思い出深いです。筆で絵を描いた後に、タイトルの「HIROSHIMA APPEALS 2013」を活字でちゃんと組んだんです。しかし、ポスターらしくなるけれど、どうも納得できない。書体を選ぼうとしている自分、デザイナーという職業を意識している自分がいる。伝えたいことがその通りに伝わらない。「デザインが邪魔」と感じた。それで、絵を描いた筆で、文字も全部書いたんです。上手い下手を超えて、素朴になろうと思って。

デザインするという意味では、英文のクレジット表記の文字組みはものすごく一生懸命やりました。これを失敗したら台無しになる。「この位置、この大きさしかない」というところまで。クレジットは、表現ではなく、表記の部分です。その部分をきちんとすることが、職業としてのデザイナーの腕を発揮すべきところ。もしかしたらそこが一番の会心というか、苦労したところかもしれません。

▲「HIROSHIMA APPEALS 2013」

ーー最後に手書きについても教えてください。葛西さんにとって文字とは。

昔の人って、皆さん達筆ですよね。お礼状や手紙を見ると、その人の礼儀正しさが言葉遣いや字にも乗り移っている。そういう意味では、書き文字ってその人そのものが出てくるからいいなと思います。僕もそういう大人たちの字に憧れて、昔の人の字を一生懸命真似して練習したものです。

あとは子供の頃、兄が裏文字(鏡文字)を描いて自慢したのが悔しくて、すごく練習しましたね。字を書く時って言葉に縛られるものですが、その時は言葉を忘れて形だけを思い浮かべるんです。裏文字は図形を描いている感覚。だから今でも、ひっくり返していくらでも描けますよ。

そういうわけで、字を言葉として見るときと、図形として見るときの両方があります。文系と理系が共存しているというのか。いつもそういう目で世の中も見ているような気がします。End




葛西 薫(かさいかおる)/1949年札幌生まれ。文華印刷、大谷デザイン研究所を経て、1973年サン・アド入社。サントリーウーロン茶(1982-2010)、ユナイテッドアローズ(1997-)、虎屋(2002-)などの広告制作およびアートディレクションのほか、映画、演劇のポスター、CIサイン計画、装丁など活動は多岐。近作にNHKみんなのうた「泣き虫ピエロ」(2013)の動画、HIROSHIMA APPEALS 2013のポスター、TORAYA CAFÉ・AN STANDのCIパッケージ(2016)、映画「海辺の生と死」(越川道夫監督2017)の宣伝制作などがある。
SUN-AD サン・アド http://www.sun-ad.co.jp
Photos by Junya Igarashi




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