「ホスピタルとデザイン展」はスウェーデンの病院で
日本人デザイナーが手がけたアートプロジェクト

▲赤羽美和さん。大学卒業後にサントリーやサン・アドで広告制作のキャリアを積んだ後、スウェーデン国立芸術工芸デザイン大学でテキスタイルデザインを学んだ。

スウェーデンでは1930年代から公共建築をつくるときに全体予算の1%をアートにあてることが法律で定められている。近年はその「1%ルール」に加えてさまざまな芸術文化助成の推進もあり、公共建築におけるアートやデザインの導入プロジェクトが増えているそうだ。アクシスギャラリー・シンポジアで昨日スタートした「ホスピタルとデザイン展」(7月25日まで)はその事例のひとつとして、ストックホルムの病院で日本人デザイナーが手がけたアートプロジェクトを紹介している。

ジャムセッションのような対話型ワークショップ「JAM」

2013年、セント・ヨーラン病院は緊急治療部病棟のガラスのパーテーションや廊下の壁などに用いるための「パターン(模様)」のデザインを募るというコンペを開催した。約200点の応募があったなかで、グラフィックデザイナーの赤羽美和による、ワークショップを活用してパターンをつくるという案が採用された。

▲コンペの審査にはアートコンサルタントやストックホルム県のアートプロジェクト担当者も加わった(展開会場の映像より、アートプロジェクトマネージャーのトールン・スコーランドのインタビュー)。

ストックホルムではテキスタイルデザインを学んでいた赤羽。「テキスタイルの勉強をするうちに、パターンを描いて布をつくる、という以外のところに興味が出てきたんです。布をつくったら誰かがそれを服にしたりインテリアにして広がっていくけれど、パターンをつくる段階で人と人とを結びつけることができないかと。それがドローイングワークショップの考え方につながっています」。

赤羽が考案したワークショップ「JAM」のポイントは、文字通り即興的に演奏するジャムセッションのように、ドローイングを通じて参加者同士が“対話”することだ。セント・ヨーラン病院のプロジェクトでは、2013年10月の2日間に計3回のセッションを行い、各回に病院職員が8人ずつ参加した。スタンプやシールを使って丸、三角、四角だけを描画し、それをボキャブラリーとしながら視覚的な対話を進めていく。この間、言葉を発することは基本禁止だ。「描いたものを互いに見せ合いながら、言葉ではないコミュニケーションを図っていきます」と赤羽は説明する。

ウォーミングアップでは、二人一組で正方形の小さな用紙にドローイングを練習。目を閉じて描いたり、利き手と逆の手で描くなど、制限された自由度から生まれる発想を尊重する。場が暖まったら、最後に参加者全員で大きな紙の上に描画して完成だ。「参加者は普段同じ職場で働くスタッフ同士。いつもとは違うコミュニケーションや作業を体験してもらうことがワークショップのポイントです」(赤羽)。

▲ドローイングワークショップの成果。

▲使用するツールはシールやスタンプ、クレヨンといった身近なものばかり。

でき上がったドローイングはいわばパターンの素(もと)。これを赤羽が持ち帰り、一部を切り取ったりコラージュして基本となるパターンの型をデザインする。シルクスクリーンで1枚の版だけをつくり、それを回転させたり重版させながらパターンを展開していく。

これも「テキスタイルデザインを学んでいたときに考えた方法」だと言う。「たった1枚の版でもリピートしたり、ランダムに重ねることで、思いがけない絵柄が生まれます。私たちの生活も日々同じことを繰り返しているように見えるけれど、完全に一緒ということはないのです。かけがえのない毎日を過ごしていることを大切にしたい。そんなメッセージも込めたプロジェクトです」(赤羽)。

“寅さん”のようにワークショップ行脚をしたい

赤羽がつくったパターンは、病院のガラス壁や廊下、階段の踊り場などに展開された。素材も形もアウトプットはさまざまだが、医療機器とも調和して空間の統一感を生み出し、すっかり病院の「顔」としてスタッフや患者らに親しまれているようだ。

▲現地の病院で実際に飾られているものを再現したパネル。スウェーデンの四季をモチーフにした色を展開する。

▲現地で使われているパーテーションと同じパターンを再現した会場のガラス壁。

今年4月には京都府福知山市の京都ルネス病院でも、「JAM」ワークショップが開催された。「スウェーデンと日本、お国柄の違いのようなものが出るのかなと思いましたが、今回も賑やかで楽しい場となりました。参加者の皆さんは積極的に参加してくださいました」と赤羽。「行く先々ででき上がるパターンが変わっていくので、私自身も興味深い。“寅さん”のように引き続き行脚していけたらいいなと思います」と抱負を語った。

▲京都ルネス病院でのワークショップの成果。「テープの使い方が印象的だったので、その痕跡を残したいと思いました」(赤羽)。

▲パターンを使い、大塚オーミ陶業が京都ルネス病院のために製作した陶板。

会場のアクシスギャラリー・シンポジアでは、セント・ヨーラン病院で採用されたパターンの再現パネルや、京都ルネス病院で掲示されているものと同じ陶板を展示している。病院を支えるたくさんの人々による共同作業や対話の場面が伝わってくるような、楽しいアート作品に仕上がっている。End

ホスピタルとデザイン展

会期
2017年7月19日(水)〜25日(火)11:00〜20:00(最終日は18:00まで)
会場
アクシスギャラリー・シンポジア(東京都港区六本木5-17-1 AXISビルB1F)
詳細
https://hwithd.tumblr.com/info

関連トークセッション

7月22日(土)、23日(日)には、「医療に対してクリエイティブな発想ができること」をテーマに、医療関係者、デザイナー、アーティストらによるトークセッションを開催します。

モデレーター:川上典李子(デザインジャーナリスト)
グラフィックレコーダー:清水淳子(Tokyo Graphic Recorder)
参加費:各回1,000円
定員:各回50名
会場:アクシスギャラリー(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F)
詳細:https://hwithd.tumblr.com/talk
申込:Peatixより事前購入 http://hwithdtalk.peatix.com/
※展覧会会場でもお申し込みを承ります。
※トークはすべて事前予約制。
※席に余裕がある場合は当日受付にて購入可能。

TALK1:7月22日(土)13:00〜
公共空間のコミュニケーションデザイン
登壇者:葛西 薫(アートディレクター)、池田光宏(アーティスト、長岡造形大学准教授)、赤羽美和(グラフィックデザイナー)

TALK2:7月22日(土)15:00〜
デザインと医療をつなぐもの「ホスピタルギャラリーbe」の試み
登壇者:板東孝明(グラフィックデザイナー、武蔵野美術大学教授)、香川 征(徳島大学病院 元病院長、徳島大学前学長)

TALK3:7月22日(土)17:00〜
食べることを考える
登壇者:岩間朝子(アーティスト、料理家)

TALK4:7月23日(日)13:00〜
医療の場におけるテクノロジー&デザインの可能性
登壇者:田口淳一(東京ミッドタウンクリニック院長、先端医療研究所所長)、田川欣哉(デザインエンジニア、Takram代表)

TALK5:7月23日(日)15:00〜
医とテキスタイルデザイン1
登壇者:松崎 勉(ハーマンミラージャパン株式会社代表取締役)、神山まど香(Maharam)

TALK6:7月23日(日)17:00〜
医とテキスタイルデザイン2
登壇者:ヌーシャ・デ・ギア(クヴァドラ社 副社長/ブランディング&コミュニケーション)、皆川 明(ミナペルホネン デザイナー)