芦沢啓治☓トラフ建築設計事務所☓ノームアーキテクツ☓カリモクによる展覧会
テーマは「空間から家具を考える」

▲約4,000坪のカリモク工場内にある試作室には、最新の加工機械と精鋭の職人たちが集う
Photo: Masaki Ogawa

東京・文京区のギャラリー「デザイン小石川」が、建物解体のため7月末をもって現在の場所での運営を終える。今後の運営については未定とのことだが、デザインと建築に焦点を当てた拠点として、意欲的な企画展が多数行われてきた場所だけに、今後も新しい動きにつながることを期待したい。

さて、その最後の展覧会がまもなく7月19日からはじまる。芦沢啓治トラフ建築設計事務所、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とするノームアーキテクツ(Norm Architects)、そして木製家具メーカーのカリモクによる、「architect meets karimoku(アーキテクト・ミーツ・カリモク)」展だ。

建築家「家具は空間のためにデザインされるべきではないか」

かつてル・コルビュジエやアルヴァ・アアルトが、自ら設計した建築にふさわしい家具をデザインしたように、「家具は空間のためにデザインされるべきではないか」。そんな自問のもと、3組の建築家が集合住宅の改修やオフィス空間の設計など実際の物件のなかでカリモクと協働した。

主催のひとりである建築家の芦沢啓治は、カリモクとの協働について説明する。「建築家は物件ごとに手品師のようにまったく新しい空間をつくろうとしているわけではなく、いくつもの物件を通じて自分の建築の方向性を洗練させていくところがある。そう考えると、家具メーカーと長く付き合っていけば、彼らと一緒につくった家具を、次回以降の物件でリファインしていくことだってできるわけです。その可能性を探りたい」。

▲自身の試作を検討する芦沢啓治
Photo: Masaki Ogawa

また、フィンランドでアルヴァ・アアルトの建築を視察してきたばかりという鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)も、「実際、アアルトは、新製品開発のためというよりは、物件ベースで家具を考えている。一度開発した型を生かして色のバリエーションを展開したり、同じようなディテールを繰り返し使ううちに、オーダーメイドとは違う、その建築家の独自のスタンダードをつくっていったのだと思います」と説明する。建築家の視点から、「空間」との関係性で家具を見直してみたい、というわけだ。

▲鈴野も今回出展する3アイテムの試作を確認

カリモク「新しい家具の可能性を見出したい」

一方、カリモクは日本最大の木製家具メーカーである。1940年に愛知県刈谷市に創業し、ミシンの作業台や楽器の木部品などの製造にはじまり、輸出家具を手がけるようになった。そこで培った高精度の技術と素材のノウハウを生かし、1962年には自社の国産家具ブランドを立ち上げた。そんなカリモクが今回の協働に期待するのは、単発での新作家具の開発ではなく、建築家と共に「空間」から発想するものづくりのなかで、自社の技術や新たなビジネスの可能性を探ることだ。

▲愛知県知多郡東浦町にあるカリモク工場。

カリモクの加藤 洋副社長は、「僕たちは既成品の家具をつくっているけれど、同時に、究極のものづくりとして、お客様1人ひとりと向き合って、ふさわしいものを届けられる体制をつくりたいと考えていたところだったんです。そのためには製品だけでなく、それが置かれる環境など、もっと色々なことに思いを馳せていかなければならない。だから、建築家による空間からの視点というのは、僕らにとっても重要なのです」と語る。

「僕らも毎日工場で色々と考えてはいますが、そこで見落としていたことに、彼らは新しい価値を見出してくれる。特に今回は3組の建築家の見立てがすごいな、と感じました」。


カリモクの加藤 洋副社長(左)

建築家と家具メーカーの対話に注目

建築家たちとカリモクの拠点は、東京、コペンハーゲン、愛知と離れているため、基本的なやり取りはメールやスカイプを通じて行われた。しかし、数回にわたって行われたワークショップでは建築家たちが工場に集まり、カリモクのメンバーと共に試作を囲み、イメージや使用感の確認、塗装の色や金具の位置といったディテールについて丁寧に議論した。その様子はまさに一意専心。お互いの経験や知見をリスペクトし合っているから、「できない」とは決して言わないし、課題があれば一緒に考える。

芦沢は、「メーカーとの付き合いが長くなると、彼らがどういうつくり方をして、どういうクオリティで仕上げてくるかがわかるようになります。だからアイデアのやりとりが机上の空論にならない。常に前に進んでいく」と言う。

本展では、建築家と家具メーカーによる本気の対話から生まれた、家具のプロトタイプが10アイテム以上お目見えする。昇降デスクや木製の回転椅子、木の板をつなぎ合わせただけのようなストイックなテーブルなど、「空間」を出発点としたアイデアは驚くようなものばかり。もちろん、カリモクだからこそ可能な高い精度の構造や仕上げにも注目だ。ぜひ会場で、実物を目の当たりにしてほしい。End

▲本展のイメージビジュアルは、ノームアーキテクツの建築家であり共同ファウンダーのヨナス・ビエール‐ポールセンがカリモク工場で撮影したもの
Photo: Jonas Bjerre-Poulsen

architect meets karimoku(アーキテクト・ミーツ・カリモク)

会期
7月19日(木)~7月29日(日) 11:00-19:00
会場
DESIGN小石川
東京都文京区小石川2-5-7 佐佐木ビルB棟2F
詳細
http://designkoishikawa.com/exhibition/architect-meets-karimoku-jp/