本誌143号こぼれ話
「見えない物をつくる職業」NOSIGNERさんインタビュー

「Tr Sq Rh」

▲「Tr Sq Rh」

AXIS誌143号「インフォメーション」に掲載している「AWA」は、デザイナーのNOSIGNER(ノザイナー)氏と徳島県木竹工業協同組合連合会による新たな家具シリーズ。この製品紹介のため、ライターの今村玲子氏がNOSIGNER氏にインタビューを行ったのですが、紙幅の都合で、コメントまで掲載できませんでした。お考えがよくわかるインタビューなので、この場で紹介します。

Q)「AWA」のプロジェクトは3年前から、どういった経緯で始まりましたか。

徳島との関わりは、NOSIGNERとして活動を始める以前、大学院生の頃に始まりました。徳島の木工家具コンペで職人さんたちと知り合い、仲良くなったのがきっかけです。まだ学生で、何の実績もなかった僕に「デザインアドバイザーとして産地を助けてほしい」と依頼していただいたことには本当に感謝しています。

実は、彼らは僕の最初のクライアント。僕に家具のことを教えてくれた場所でもあります。僕も徳島のプロジェクトをとても大切にしています。

Q)プロジェクトはどのようにやりとりされているのですか? また、徳島県木竹工業協同組合連合会の参加企業数や国の助成の有無など、教えてください。

プロジェクトは、僕が定期的に徳島に足を運ぶことで進めています。家具工場を回り、プロトタイプを見ながら検討を重ねていきます。時には自分でベルトサンダーを握って削ることもあります。

組合の企業は現在のところ5社。ブランド開発事業の補助金を利用しています。今年度(平成21年度)で事業は終了するため、今後は有志で進めていくことになるかもしれません。

「Squares jewelry case」

Q)ブランドのコンセプトを教えてください。各作品は数学がテーマですか?

このブランドに参加している企業だけでなく、徳島の木工産業そのものを知っていただけるようなブランディングにするため、AWAという「徳島」そのものを表すネーミングでブランドを立ち上げました。

それぞれのデザインは、幾何学がテーマになっています。徳島は「箱物」と言われる引き出し付き家具をつくる技術が盛んなので、木工で幾何学形状をつくるのは得意分野です。また、一時のシーズンで終わるものではなく、継続的に売れる商品づくりをするため、幾何学を頼りにタイムレスなデザインをつくろうと試みています。

Q)シリーズは何点ありますか。また、どこで販売しているのでしょうか。

現時点では、「Imaginary」「Cartesia」「Unit」「Squares jewelry case」「Squares placemat」「SUMI」「Tr Sq Rh」の7商品があります。

DesignTideでの展示が最初の大きな発表だったので、まだ販売している場所が少なく、一部のネットショップおよび弊社(NOSIGNER)で販売をしています。

「Unit」

▲「Unit」

Q)プロジェクトはこれからも続くのですか?

もちろん、続けていくつもりです。

Q)NOSIGNERさんがこのプロジェクトに参加されて感じたことを教えてください。

大量生産を背景に、手工業の産地がどれだけ疲弊しているかをこの目で見てきました。この問題は、日本の地場産業に限らず、世界中で起きていることです。彼ら職人の手がなくなることは、そのまま文化がなくなることと等しい。大量生産、大量消費の仕組みが僕らの生活にとって身の丈にあったものではないのかもしれません。

また逆に、彼ら手工芸の職人たちも、今までの仕組みにとらわれていては先細る一方なので、目標とする場所を変える意思を持たなくては前に進むことはできません。徳島の職人さんの間でも、今回のような新しいことをするのに対して難色を示す方もいました。ただ印象的だったのは、若手の方よりも60代以上のベテランの職人さんたちに積極的な方が多かったこと。変わっていくのには力がいるので、若い職人さんたちにも熱が伝わってくれるといいですね。

Q)ありがとうございました。

NOSIGNER/「見えない物をつくる職業」という意味を持つNOSIGNER(ノザイナー)として匿名で活動する、領域を持たないデザイナー。空間、プロダクト、アートディレクションなどのさまざまなデザイン分野で世界的な評価を得ている。