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隈 研吾+三浦 展 著「三低主義」


『三低主義』
隈 研吾+三浦 展 著(NTT出版 1,575円 )

これまで建築作品のほかにも、『10宅論』『反オブジェクト』『負ける建築』といった著書を通じて現代の社会と建築の在り方に問いを投げかけてきた建築家の隈 研吾氏。いっぽう共著の三浦 展氏は『下流社会』『シンプル族』『情報病』といったキーワードを設定し、消費文化から時代を鋭く読み解いてきた論客です。

そんなふたりの対談を収めたのがこの本。終始リラックスした雰囲気に包まれながらも、まるで大学の講義の数カ月分に匹敵する、たいへんに濃い内容。まずは、三浦氏が得意とするアメリカ消費社会について、レッチワース、レヴィットタウン、シーサイドなどの建築やコミュニティの実例を織り交ぜて語られていきます。役立つ注釈も充実しているので、“ネタ本”としても貴重では。ブックデザインは、有山達也氏のアリヤマデザインストアが担当。

なお、タイトルとなっている「三低」とは、ご存知、三高(=高身長・高収入・高学歴)に代わって、現代日本男性のモテる条件(=低リスク・低依存・低姿勢)として使われ出した言葉がきっかけだとか。

低層(建築)、低姿勢(かわいい)、低炭素(環境への負荷が少ない)、低コスト(安い)……「低い」という意味が肯定的に使われるご時世。その背景には「進歩の終わり」という、大きな社会意識の変化が見え隠れするようです。

※なお、本書の刊行記念として、3月15日(月)19時より、三浦 展氏のトークイベント(インタビュアー:馬場正尊氏)が青山ブックセンター本店(カルチャーサロン青山)で開催されます。

以下、目次より、

第1章 三低の都市、建築って?
■進歩の終わりの時代■20世紀と都市の死と生■モール化する世界には耐えられない■男根的建築を超えて■いるだけで楽しい町■コルビュジエの深層心理■都市のファスト風土化■お笑い感覚を取り戻せ■シンドラー自邸の「三低」な魅力■都市に混じりっ気がなくなってきた■「三低」の美学■どこまでが人工的か■アレグザンダーですら……

第2章 移動と建築
■中古マンションをリノベして中古品だけで揃える■隈研吾の原風景■モダンはもっと陰翳に富んでいる■旅行しない建築学生■移動がネガティブな意味に変質している■普通の民家や商店のほうが面白い■「三高」で「三低」な宮脇檀■郊外住宅地の限界■昼の都市から夜の都市へ■持家私有主義と公共住宅■建築が新しい雇用を生むには

第3章 借りる建築、借りる都市
■コーポラティブ賃貸住宅みたいなものがあるといい■古いものを活かす■東京の風土、バナキュラーとは?■私有とか私生活にこもるのではないライフスタイル■50年前は近代的なものがいいと思ったのに、今では全然違う■死ぬための街、弱い人が幸せに暮らせる街■隈研吾の賃貸住宅計画■記憶喪失型まちこわし■郊外化が若者に与えた影響■脱ぎ捨てられる建築■時間をシェアする住み方

“…ヴェネチアはそもそもが極めてアメリカ的なものへの究極のアンチテーゼで、クルマがまったくない世界だったのに、ああいう空港をつくることによって一種のテーマパークに見え始めちゃった。そういえば、ディズニーのテーマパークはヴェネチアを一番参考に作られてるわけだから、一歩間違えただけで、その世界一反アメリカ的な街がテーマパークそのものに堕っこっちゃうんだよね。…”(第1章「モール化する世界には耐えられない」より、隈 研吾氏の発言から)