第2回モリサワ文字文化フォーラム
「文字とデザイン2010」が開催されました

2010年4月10日(土)、大阪のモリサワ新本社ビル4F 大ホールにおいて、第2回モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザイン2010」と題したトークイベントが行われました。

▲会場の様子です。各セッションの配布資料が、カラフルなクリアフォルダーに、色分けされて用意されていました。

この日の登壇者は、世界的なタイプデザイナーであるマシュー・カーターさんを筆頭に、浅葉克己さん、葛西 薫さん、北川一成さん、松本弦人さん、中村勇吾さんなど実に豪華な顔ぶれ。募集を開始してから瞬時に札止めとなったというのもうなずけます。ただ、会場に来られず悔しい思いをした方のなかには、「Ustream(ユーストリーム)」を使ったライブ配信でしかっりチェックしたという人も案外多かったのでは。文字に対する熱い想いが語られた会場の熱気は、画面を通じても十分に伝わってきたことでしょう。

トークの詳細については、後日リポート記事を執筆する予定のため、ここでは当日の様子をダイジェストで紹介します。

▲午前中のセッション、左にマシュー・カーターさん、右がシマダタモツさん。ふたりのトークは、カーターさんの講演の後に行われました。

10時30分から開始されたイベントは、「タイプ・リバイバルのダイナミズム」と題したマシュー・カーターさんの基調講演からスタートです。途中からは、「純粋なる形象 : ディーター・ラムスの時代—機能主義デザイン再考」展のポスターおよび図録のデザインを手がけたことで知られる大阪在住のアートディレクター、シマダタモツさんが加わり、フォントの監修というかたちで08年に実現したふたりのコラボレーションのやり取りが語られました。ラムス個人のために考えたというオリジナルのタイプフェイスについて、「ストラクチャーがシンプルで、かつ明晰さがあると感じた」と、カーターさんから最初に目にしたときの印象が披露されると、シマダさんはちょっと驚きながらも、満面の笑みを浮かべていました。

▲左から葛西 薫さん、北川一成さん、大日本タイポ組合の塚田哲也さんと秀親さん。

お昼の休憩を挟んで13時から再開された午後の部、ここに登場したのは、大日本タイポ組合のおふたりと現在大阪のdddギャラリーで個展を開催中の北川一成さんです。「文字×デザイン×発見の瞬間」といったテーマにそって語られる軽妙なやり取り。街中で拾い集めたというスナップ写真を見せ合い、なぜ自分たちがこのシーンに魅了されたのかなどについて解説が行われました。スペシャルゲストとして加わった葛西さんの穏やかな語り口の効果もあり、会場からいく度となく笑いが漏れるなど、楽しい時間が過ぎていきます。そのなかで、北川さんが発した「デザイナーという職業だからこそ見えることと、それがかえって邪魔をしてしまうことがある」というコメントが印象に残りました。

▲トーク前の準備中に撮影させていただきました。手前から浅葉克己さん、中村勇吾さん、いちばん奥が松本弦人さん。

15分の休憩を挟んで午後のセッション第2弾は、松本弦人さん×中村勇吾さんです。共に関心を寄せる“メディアづくり”というキーワードを基軸とした約1時間のトーク。そこに浅葉克己氏が加わり、どのような化学反応が起こるのかに期待が集まっていたように思えます。すでに中村さんは入手済みという話題のiPadを筆頭に、文字や映像を見るためのデバイスが拡張するなかで、作品というかたちでのコンテンツ制作に止まらず、それらを流通させる仕組みやサービス(松本さんであれば「bccks」であり、中村さんなら「SCR」といった)にまで高い関心を示すふたり。先端メディアを舞台に、絶えず面白いことを見出し、楽しもうという共通項が感じられたました。

3つのセッションが終了した時点で、時計の針は15時30分を回っていましたが、イベントはまだ終わりません。トリを飾るクロージングセッションが残されていたからです。ここで再びマシュー・カーターさん、浅葉克己さん、葛西 薫さんが登壇。さらに三者の会話をつなぐナビゲーターとして、本誌のアートディレクターである宮崎光弘が加わり、「なぜ自分たちは文字に魅了され続けるのか」? その心理に迫っていきます。

▲浅葉さんが打った白球の行方を注視するカーターさん。浅葉さんのラケットさばきはさすがです。

その前に、楽しい余興が待っていました。「眠気覚まし」と言って、手にラケットを携えた浅葉さんが、白球を次々に観客席に向かって打ち始めたのです。「拾った人には後でサインをします」と聞けば、真剣な表情で球の行方を追い求めるのも当然でしょう。

最後のセッションで語られたのは、3者の出会いも含めた関係について、さらに今回のイベントのためにカーターさんが事前に選んだ短いフレーズをベースに、浅葉さん、葛西さんが手がけたポスター制作のプロジェクト秘話です。制作された美しいポスター作品もさることながら、カーターさんが選んだ言葉に、深い意味を感じ取った人は多かったのではないでしょうか。

▲カーターさんがポスタープロジェクトのために選んだ2つのフレーズ。ちなみに、ハリー・カーターとは、カーターさんの実父です。

このセッションでカーターさんが残した言葉です。

「自分のことを工業デザイナーだと思っています。なぜかといえば、規制の範疇で動いているからです。それは建築家や掃除機をデザインする人も同様でしょう。ある最終目的のために、規制を考慮しながら創造していかなければならないのです。しかし、タイプフェイスに限ってみれば、その規制は実に厳しい。アルファベットはもう完全に決まっていて、凍結されているといってもよいぐらい、いじることさえ不可能です。タイプデザイナーであれば何千年もの間を経て決められたルールのなかで活動を行うということを、なかば宿命として受け入れざるを得ないわけです。しかし一方で、私はデザイナーとして自分固有のアルファベットに対する解釈というものを探し出したいという思いを常に持っており、この2つの緊張関係、困ったけれどちょっと変えてみたいという欲望のなかで揺れ動き続けています。それが私の置かれた創造環境なのです……それでも私は課題にに対して何らかの解決方法を見出すことに魅了されています。また、そのような行為が自分の気質に合っているのだと感じているのです」。

こうして春の週末に行われた充実したイベントが幕を閉じました。誰もが、文字やデザインについて考える濃密な時間であったと感じたことでしょう。

第2回モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザイン2010」
日時:2010年4月10日(土)10:30〜 17:00
場所:モリサワ本社4F 大ホール(大阪府大阪市浪速区敷津東2-6-25)
※本イベントは終了しています。