モリサワ文字文化フォーラム
「文字とデザイン2010」 エピソード2 


2010年4月10日に大阪で行われた第2回モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザイン2010」。そのレポートの2回目をお届けします。

13:00-14:00 セッション01 「文字×デザイン×発見の瞬間」
北川一成氏×大日本タイポ組合 特別参加:葛西 薫氏

GRAPHヘッドデザイナーの北川一成氏と、大日本タイポ組合の組合員である秀親氏と塚田哲也氏。そこへサン・アドのアートディレクターである葛西 薫氏を迎え、世代を越えてのセッションが始まった。

広告やサインなど、街に溢れるデザインのなかで素晴らしい作品、面白い作品に出会う瞬間にデザイナーは何を感じるのか。作品のインスピレーションはどこから来るのかについてのディスカッション。まず、大日本タイポ組合のふたりがスクリーン上で見せたのは、広告塔がわりのバスのベンチ。文字が組み替えられ、意味がわからなくなってしまっているという写真を通して、文字を部品のように入れ替えて遊ぶ面白さなどを指摘する。

▲大日本タイポ組合の組合員と名乗る秀親氏(写真右)と塚田哲也氏。秀親氏が手にしているのはこの日納品されたばかりという大日本タイポ組合デザインによるモリサワ特製ノートとメモ帳。お土産として参加者に配られた。

同じように、例えば学食のソースのボトルに書かれた「ソース」の文字が、時間を経て欠けたり、消えたりすることで、本来の意味から離れて徐々に変化していく様。「言葉として存在しないものが本来の意味と結びついた瞬間が面白い」と語りながら、地下鉄のホームの写真、メガネ屋さん、ビルの壁面、と紹介は続く。

ビルの壁面にはかつてそこに文字があったであろう痕跡が残っている。文字をつくるときは重心を意識するものだが、壁面の文字も重心を意識して留める位置を考えなければならないはず。残された文字の形跡からはそれが読みとれるということに、ふたりは着目する。

DVD屋さんの看板「D」「V」「D」の文字の置き方のバランスにデザイナーが関与していないであろうことを楽しむのも同様だ。漢和辞典のなかに面白い文字や意味を見つけ、日本語やアルファベットなどの文字を解体して組合せ、再構築することによって、新しい文字の概念を探る大日本タイポ組合の視点、感覚を垣間見る。

そして、北川氏のトークへ。日頃から、「文字ってどういうもん?」と考えるという北川氏。文字や言葉というのは、概念化すること、共通認識をつくるもの。概念化するということはどんどん整理されるということで、感覚的な違いを見ることに蓋をしていることになるともいえると述べる。

▲北川一成氏(写真右)と葛西 薫氏。最近の仕事として北川氏は「成安造形大学のプランディングプロジェクト」を、葛西氏は「六本木商店街振興組合の新CI」などについて語った。

さらに、概念化も重要だが、人それぞれが持っている感覚をどこまで出せるか。厳選された素材を使っていてもその調理法が問題であり、良い素材をたくさん持ち寄れば、良い作品ができるということではないとも指摘。デザイナーが自分独特のもの、直感的、身体的なものをどこまで出せるかが重要であり、概念ばかりに走ると響かないものになると続けた。

北川氏のこの発言を受けた葛西氏は、「あるスペースの中に何かを置くとき、文字や言葉はメンバーとなり、そのメンバーによって位置関係は変わる。そのものの立場になってみて、居心地の良い場所を見つけ、ここにいると気持ち良いんじゃないかと考える」とコメント。

北川氏は概念と直感の狭間にこそ創造の源泉があり、「わかる」と「できる」は違い、アウトプットできなければ、直感に自信を持つことはできないと語った。その後、大日本タイポ組合の作品解説や北川氏の個展の紹介が行われ、午後の最初のセッションは幕を閉じた。

第3回へつづきます。
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「モリサワ文字文化フォーラム」とは……
印刷/WEB/出版/デザイン業界の方々を対象とし、「文字文化」への探究心を新たな世代へ受け継がせる事業の一環として、また業界活性化を目指す事業の一環として設立。幅広い視野のもと、フォーラムなど定期的に活動を行う。