モリサワ文字文化フォーラム
「文字とデザイン2010」 エピソード3

▲セッション02に登場した豪華な布陣。左から中村勇吾氏、松本弦人氏、浅葉克己氏。

2010年4月10日に大阪で行われた第2回モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザイン2010」。そのレポートの3回目をお届けします。

14:15-15:15 セッション02 「文字×デザイン×メディアづくり」
中村勇吾氏×松本弦人氏 特別参加:浅葉克己氏

松本弦人氏は、常にメディアとデザインと人の関係を見つづけ、その新しい関係性を見出すなかから作品づくりを行ってきた。一方、中村勇吾氏はインタラクティブデザインの分野で国際的にも高い評価を獲得している。そこに、日本を代表するグラフィックデザイナーの浅葉克己氏が加わり、今後のメディアづくりとデザインについてを語るセッションがスタートした。

▲電子書籍などが注目集める昨今だが、本というメディアフォーマットが面白いと感じている人は少なくないと、松本氏。

iPadなど新しいデバイスが登場するなか、文庫本も1つのデバイスだと捉えている松本氏。2007年にウェブ本がつくれるサイト「BCCKS(ブックス)」を立ち上げ、さらに今年に入って、ONEコインブック「BCCKS文庫」およびその仕組みでのオンデマンド文庫である「天然文庫」をスタートさせる。

「BCCKS」に集まっているコンテンツは面白いものばかりだと言う中村氏に対し、松本氏は「本」というフォーマットが面白いものを集める源泉になっているのではないかと応じた。さらに、「天然文庫というネーミングが良いね」という浅葉氏の指摘については、2010年という年号=ten nenを掛け合わせた表現であることや、“天然な人が集う場所といった思いが込められていることなど、ネーミングの由来を明かした。

松本氏がスタートさせた「BCCKS文庫」には、モリサワ文庫ビューアーというアプリケーションが使われており、近いうちにiPhoneでも閲覧できるようになるとの報告もなされた。

天然文庫のオンデマンド印刷では、オイルを使用しないのでテカらない、仕上がりがオフセット印刷に近いという理由から、モリサワのRISAPRESSというプリンティングシステムが使用されている。中村氏から、新しいデバイスではなく伝統的な文庫本という形態を選んだ理由を尋ねられた松本氏は、「唯一人に馴染んでいると思えるのが、日本にしかないこの文庫本というメディアではないかと思う」と説く。

▲中村勇吾氏(写真右)と浅葉克己氏。この日の中村氏は「突っ込み役」を自認。浅葉氏は「自由な語り部」として、それぞれ場を盛り上げた。

「BCCKS」では1年半をかけ文庫の代表的な文字組みといわれる「岩波組み」を手本に、モリサワの協力のもと読みやすさに徹底的にこだわった文字組みを追求したという。そんな「BCCKS」の今後について、中村氏はある質問を投げかけた。それは、「独特の“らしさ”が出ているものを目指しているのか、それとも無色透明のユニバーサル的なものを目指しているのか」という問い。これに対して松本氏は「特徴ある方向へ向かう必要はあるし、両方ほしい。その狭間のいいバランスを探している」と語っている。

最後に中村氏が、現在開発中というコンピュータ(映像表示デバイスと配信システムを組み合わせた新たなサービス)を紹介。台湾のメーカーと共同で開発しているそれは「とにかくでかくて明るい」のが特徴だという。日常のなかで存在できる映像の置き場所をつくりたいとの思いから始まったプロジェクトは、構想から6年の歳月を経て、ようやく実現化できる環境になったとのこと。発表への期待が膨らむとともに、インテリアの一部として暮らしの中に溶け込んでいくであろう映像の可能性を垣間見たセッションは、こうして幕を閉じた。

第4回へつづきます。
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「モリサワ文字文化フォーラム」とは……
印刷/WEB/出版/デザイン業界の方々を対象とし、「文字文化」への探究心を新たな世代へ受け継がせる事業の一環として、また業界活性化を目指す事業の一環として設立。幅広い視野のもと、フォーラムなど定期的に活動を行う。