レタス農家とデザインーー6Dの木住野彰悟のプロジェクト

突然かかってきた1本の電話。それは長野県川上村のレタス農家から、名刺とレタスを入れる段ボールをデザインしてほしいという依頼だった。デザイン事務所、6Dの木住野(キシノ)彰悟は、そうきっかけを振り返る。

全国のレタス生産量の約4割を占める長野県川上村。その一農家であるLACUE(ラクエ)が株式会社化したのに伴いデザインを依頼したのだが、当初の木住野は、あまり深く考えていなかったという。単に「かわいらしいデザインを施せばいいのかな」という程度の心づもりだった。

しかし、打ち合わせをし、現地を訪れるなかで、木住野の考えは変わっていった。「農業はこれまであまりデザインが介入してこなかった分野。これから、こういった先進的な農家は増えていくに違いない」。
もちろん、農業にこれまでデザインが介入したことがなかったわけでなく、グッドデザイン賞を見渡しても、また、さまざまなデザイナーのプロジェクトのなかにも、ミカンや米、お茶など、さまざまな作物のパッケージを手がけたり、ブランディングをしたりといった先例がある。

川上村のレタスを広めたい、自社ブランドを立ち上げたいというのではなく、どんな人たちが、どのような環境、考えでレタスを育てているのか。また、辛く厳しいだけでなく、自分たちは日々楽しく畑に出ていることを知ってもらいたい。そんなLACUEのメッセージを、木住野は畑の地図記号をモチーフにしてロゴマーク化した。誰が見ても一目で「農家=畑」と理解できるマークだ。

また、ヴィジュアル・アイデンティティをつくり、それを外部に向けて発信する前に、働く人々の環境を整えるために活用している点が、このプロジェクトのユニークな点だ。現地を訪れた木住野は、まずフラッグを立てることを思いついたという。「社屋なら看板を立てるし、家ならば表札がある。それを畑に置き換えたとき、フラッグが良いのではないかと思った」。名刺や段ボールに加え、現時点で、エプロンや軍手、帽子、Tシャツなどもつくられている。

LACUEは、そもそも農業へ危機感を抱いていたという。コンシューマと直接つながっていく必要性を感じているなかで木住野と出会い、「ヴィジュアル・アイデンティティを構築しましょう」という提案に賛同。今後は、ウェブサイトを立ち上げて直販したり、土を販売したり、さらには産直所やレストランをつくるといったことまで夢を膨らませている。

木住野は「農業をはじめとする一次産業には、まだまだデザイナーの活躍の場があるし、青空のもと仕事をするのは、とにかく楽しい」と語った。LUCUEは一軒の農家を対象としたプロジェクトだが、その背後にはもっと大きな可能性が広がっている。