にっぽんの客船　タイムトリップ (INAX BOOKLEt)
（制作・株式会社INAX　1,590円）

「タイムトリップ」というタイトルのとおり、本書をめくっていると、世界一周旅行に出る「あるぜんちな丸」（1939年7月就航）を目前にしたようなワクワクした気持ちになってくる。

速力も馬力も当時、日本一。
“超”がつくほどの豪華客船だから、すべての設備が最新であり最先端。
もてなしやサービスも最上級。

そんな当時の高揚感が文章と凝ったブックデザインから伝わってくる。

客室や公室（パブリックスペースとは言わない）の内装設計を、村野藤吾をはじめとした当時随一の建築家が手がけていたことにも驚かされる。「現代日本様式の意匠を凝らした空間」と謳っているとおり、漆蒔絵を施した間接照明だったり、大理石を巻いた柱だったり、天井は銀箔や漆で装飾されていたり……。当時の貴重なモノクロ写真もふんだんに掲載されており、細部まで目を凝らして見たくなる凝った内装デザインだ。

「あるぜんちな丸」以外にも「ぶらじる丸」「橘丸」などが紹介されており、客船のデザインとしても、当時のモダンなインテリアデザインとしても、またホスピタリティという観点からも、さまざまに楽しめる内容の濃い一冊だ。

＜目次＞
にっぽんの客船　タイムトリップ

ようこそ、あるぜんちな丸へ！

船のおもてなし

ようこそ、橘丸へ！

さまざまな航路

鼎談　客船の時代
　　　あるぜんちな丸への道程

薄命の佳人・あるぜんちな丸

客船を彩った建築家たち　
　船内装飾を牽引　中村順平
　自在なる創造　　村野藤吾
　先駆者の軌跡　　本野精吾
　造形文化の証　　松田軍平
　クルーズ客船の設計　岡部憲明