SIDES CORE/荒尾宗平 インタビュー
チェア「FRAMES_01」とカトラリー「LINK」への想い

大阪を拠点にインテリア、空間デザインを手がけてきた荒尾宗平。2005年、現在の妻である澄子とともに「SIDES CORE」を設立後、プロダクト・空間・建築など、多面的な視点から本質を探究するというコンセプトに基づき、領域なく国内外で活動を展開。ヘアサロンをはじめ、ブライダルレストラン、住宅など空間デザインを数多く手がけている。
 設立6年目を迎える2010年、新たな挑戦として、自らプロダクトデザインプロジェクトを立ち上げ、ミラノサローネサテリテに初出展。チェア「FRAMES_01」とカトラリー「LINK」を発表し、Design Report Award / Special mentionを受賞。その後も「DESIGNTIDE 2010」「PROTOTYPE 4」と、精力的に活動を続けている彼に話を聞いた。

——デザインプロジェクトを始動されたきっかけについて教えてください。

SIDES COREを始める前は、デザイン事務所に勤めていました。前の仕事はインテリアで、お店のデザインがほとんど。そこで現在のパートナー、澄子と出会って一緒にやろうという話になったんです。独立するきっかけとしては、仕事に対する不満というよりも、より広がりのあることをやりたかった。その想いは、屋号にも表れています。SIDES COREという名前には、「側面」と「核」という意味があって、僕たちの考えるモノを見る視点についての想いを込めています。日常の中でモノを見るときに、必ず見えている面と隠れて見えていない面があって、見えているけれど意識にとまらないような面も多様にある。また、見えるという行為とは別に、その物事に欠かせない要素、核となるものがある。それらを抽出し、デザインすることを探求したいと考えています。

——すでにあるモノから、本質的なものを見出そうということですね。独立してからは、インテリアの仕事を多数手がけていらっしゃいますが、6年目を迎えた2010年には、ミラノサローネ、DESIGNTIDEでプロダクトを発表されました。

プロダクトに本格的に挑戦したのは、初めてだったんですが、最初に発表したのは、ミラノサローネでした。また、国内での初お披露目がDESIGNTIDE。これまで空間を手がけてきたのですが、家具やプロダクトを選んだりすることはあっても、なかなか時間と予算の関係で思い切ったことは実現できなかったんです。だけど、じっくりモノをつくってみたいという想いがずっとあって。それと、誰かから依頼を受けてつくってみるのではなく、自分が素直につくってみたもの、その価値観をプレゼンテーションして、どういう評価をしてもらえるのか試してみたかったという気持ちが大きいのです。ミラノで発表した作品は、「FRAMES」とカトラリー「LINK」。シンプルな、ありふれたものでつくるということに重点を置きました。

▲ミラノサローネ2010サテリテでの展示風景 Photos by Takumi Ota

FRAMESは、スチールの帯をひねることによって表裏が連続し、さまざまな表情を見せる家具シリーズとして発表しました。普通、平たい板を直角に折ると、一方向からの力には強いんですけど、別方向には構造的にフラフラなんですね。だけど、板を斜めに曲げることで、ひねりの構造が生まれ、座れるほどの強度になる。組み合て式のこの椅子は4つのフレームに分解できます。また、視覚的にも細く見えたり、太く見えたり連続して変わるので、見る角度によって、印象が変わるのも特徴の1つです。 金属の持つやわらかい印象や繊細さという面を引き出したかったということもあります。

▲「FRAMES_01」(2010) Photo by Takumi Ota

LINKは、フォーク、スプーン、ナイフ、3つの関係性から生まれたカトラリーです。カトラリーというのは、機能はすべてバラバラなのに、同じシリーズとしてデザイン展開されていることも多く、とても不思議なプロダクトなんですよね。同じマークや装飾がついていることで、セットであることが判別されていることも多い。そこに疑問を持って、ひとつひとつの機能や置かれる状況について改めて考え、新しいアプローチができないかなと思ったことから生まれたのが、このLINKです。フォークの曲線面でできた凹凸を、そのままなだらかな丘のようにナイフへとつなげようとすると、どうしてもスプーンの受け皿の部分が斜面になり、柄にねじれが加わる。というふうに、必要な機能とつながりを掛け合わせるとそれぞれの形状が必然的に決まるんです。一見変わったスプーンだけど柄が立体的になったことで手に馴染み使いやすい。もちろん細かな調整は必要ですがまさに“生まれる感じ”です。普通に食卓に置かれているとつながり自体は見えないけれど、つながりから生まれた統一感がある。

▲「LINK」(2010) Photo by Takumi Ota

DESIGNTIDEでは、先の2点に加えて、「Crease」というトレイも発表しました。これは、私たちの身近にある紙が持つ、きれいな表情を抽出して、それに機能を持たせています。例えば、本のページを開くことで生まれるカーブや、紙を折ることで生まれる陰影であったり。そういった普段は目に留まらない、しかし美しい表情に着目しています。また、このトレイがテーブルの上にあることで、そこに別の空間が立ち上がる。その連鎖がおもしろいなと思います。

▲「Crease」(2010)

——どの作品も日常の中からデザインを導き出しているのですね。

そうですね。ゼロからつくり出すというよりは、生まれる、見出すというイメージです。いずれのプロダクトも、障害物をよけながら葉っぱが育っていく木のように、その形状が表れてくる。それは、ふととしたさりげない日常の気づきや疑問から自然と生まれるから。そういった意味で、生活の中での感覚を非常に大切にしています。

——これまでは空間デザインを中心に手がけてこられたわけですが、制作するうえでの意識の違いはありますか?

まず、スケールの違いがいちばん大きいですね。プロダクトでは0.01ミリ単位から考えていくのですが、この感覚は空間デザインにもフィードバックされているように思います。これまでも店舗用の照明や什器を制作したことはありましたが、どちらかというと、インテリアの一部として、プロダクトをキュレーションしていくような感覚でした。もちろん、理想としては、インテリア、プロダクトともに同じくらいエネルギーを注ぎたい気持ちはあるのですが、僕が手がけるインテリアの仕事では、スケジュール上プロダクトにかけられる時間がとても短いことも多くって。今回は、これまでずっと思い続けてきたモノをつくってみたいという気持ちを実現する機会になりました。インテリアデザインは、状況や空間から応えを導き出していく仕事で、ひじょうに場所性が強いものなんです。プロダクトデザインは自分自身のアイデアやイメージをそのままに、場所を探しにいくような感覚で手がけています。モノの良さは、単独でも成り立つというところですね。基本的には、いろんな空間に置かれることを前提につくられているものなので、そのプロダクト自体で1つの物語が完結している。けれど、実はプロダクトも空間や状況とは切り離せない。両方をやっていることでそういった多角的な視点を持って取り組める。挑戦しがいのあるところかなと思っています。

——大阪を拠点に活動することについて、どのように考えていらっしゃいますか?

実は拠点とする場所にこだわりがあるわけではないんです。でも大阪は物価が安いし、食べ物が美味しい、なにより自分や妻の実家があって、暮らしやすいですね。もちろん、東京に比べると仕事が少なかったり、小さな仕事が多かったりもします。だけど、だからこそ、生み出せることもあるんだと考えています。それは大阪だけに限ったことではなく、自分が拠点とする土地で暮らすことで自然と生み出される状況がある。僕が東京にいたら、東京にいるからこそ生まれてくる形もあるだろうし。ミラノで作品を発表していても、「日本らしいデザインだね」と言われることもあったのですが、それは、意識しなくても自然とにじみ出てくるものなのだと思いました。そうやって、暮らしの中からデザインに還元できるように、デザインからも生活に還元していきたいと思っています。(インタビュー・文:多田智美/MUESUM)

SIDES CORE/荒尾宗平と荒尾澄子により2005年に設立。多面的な視点から本質を探究するというコンセプトに基づき、プロダクト、空間、建築など、領域なく国内外で活動中。これまでヘアサロンやブライダルレストラン、住宅などの空間デザインを数多く手がける。2010年ミラノサローネサテリテに初出展しチェア「FRAMES_ 01」とカトラリー「LINK」のプロダクトを発表し、「Design Report Award」にてSpecial mentionを受賞。
www.sides-core.com

多田智美/編集者、editorial studio MUESUM 代表。“出来事の生まれる現場から、ドキュメンテーションまで”をテーマに、アートとデザインにまつわる書籍の企画・編集を手がける。京都造形芸術大学非常勤講師。ULTRA FACTORY、DESIGNEASTの運営にも携わる。
www.muesum.org