クリエイティブディレクター藤原大さん最後のコレクション
2011年秋冬ISSEY MIYAKE展示会レポート

3月5日にパリで行われた2011年秋冬の ISSEY MIYAKEのショーは、5年にわたって同ブランドのメンズ、ウィメンズを指揮してきた藤原 大さんがクリエイティブディレクターとして関わる最後のコレクションとなりました。

▲展示会場入口に積まれた、細長い紙テープを三角形に折り畳んだもの。「1本のテープとその折り技」という造形のインスピレーションテーマを簡潔に伝えるツールとなりました。

藤原さんによる今回のラストコレクションのテーマは、「Rondo(ロンド )#2」です。ロンドとは、主題となる旋律がいくつかの異なる旋律を挟んで繰り返される音楽形式を指します。1本のテープを繰り返し折り畳みながらさまざまな服のフォルムを探るという今シーズのデザイン手法を言い当てた、実にうまい表現です。


▲パリで行われたショーの冒頭、デザインチームのスタッフがランウェイに上がり、白い紙テープを折ったり、畳んだり、ひだをつけたりして、このようなプロトタイプを作成しました。

アイテムごとに折り方や布幅を変えることで、1本のテープはさまざまなドレスやスカート、ジャケットなどに変化します。展示会場の入口にはそんなテープワークの手法を即席で体験できる紙テープが置かれ、折り畳むことで表れる複雑かつ精巧な形の変化に思わず引き込まれます。

ヘリンボーン柄の再解釈やピクセル画のように処理された千鳥格子などをあしらったパターンも印象的です。それらを、エッシャーの絵に見られる繰り返し模様のように扱うことで、プリントや織の上に不思議な表情が浮かび上がります。「最小限の素材でいろいろな表現ができることを見せたかった」。そんな思いが見事に昇華されたコレクションです。

宇宙物理学や流体力学など、衣服に対する知的なアプローチとその探求でもって、ブランドのDNAを進化させてきた藤原さん。クリエイティブディレクター就任時より「5年間」という期限を課し、次世代への橋渡し役を公言してきたことを考えれば、今回の退任は規定路線なのでしょう。しかし、テキスタイルに対する知見をベースに創造に溢れた作品の数多く残してきた彼のコレクションがこれで最後というのは、やはり寂しいですね。

今後半年間はアドバイザー的な役割で新生デザインチームをサポートすることがすでに発表されています。「その後」については現時点で口をつぐむ藤原さんですが、頭の中ではきっと、次なるアイデアの旋律が“ロンド”のごとくグルグルと鳴り響いていることでしょう。

▲ピクセル化された千鳥格子のパターンは、ジャケットなどのほか、バッグなどのアクセサリー類にも展開。

ISSEY MIYAKE AUTUMN WINTER 2011

(以下、リリースからの抜粋)
今回のテーマは「Rondo #2」。
ただ1本のテープという最小限の素材を起点にバリエーションをつくり出した。
テープワークによる服づくりを通して、シンプリシティー(簡潔さ)を求めたコレクションです。
また、エッシャーからもインスパイアを受け、独自につくったチューリップ、千鳥格子、ヘリンボーンの3つの要素の柄がプリントや織に展開されています。