京都のアパレルブランド「KATO`(カトー)」に見る
モノのアジを出すために必要なこと

1つのモノを永きに渡り朽ち果てるまで使い込んでもらうというのは、モノとして大変幸せなことである。しかし、この現代において、朽ちることに耐え得るモノを目にすることが少なくなったように思う。この時代、モノはその機能を常にアップデートできるようになり、容易に「新しさ」を維持できるようになった。それは朽ちることの否定、抗いのようにも見える。

そんな中、朽ちることが1つの個性(味)となるようなモノづくりを行っているところがある。京都を拠点とするアパレルブランド「KATO`」「AAA」を擁するTEAMKIT(チームキット)とその代表である加藤 博氏である。彼らのつくりだすモノとは普段着の服。1990年代に加藤氏が立ち上げたこのブランド、基本となるのは「ジーンズ」であり「ジーンズに合う服」づくり。そして彼らは自らのつくる服を“道具”と呼ぶ。

ジーンズは、サラ(新)では、格好悪い。はき込み、使い込んで何度も洗われてその個性が表出する。ここではいかに新しさを保つかではなく、いかに朽ちるかが重要となる。そのためにモノとしての基本的な性能(朽ちることに耐えうる材を用いること)とそれを使い続けたいというモノとしての魅力を持ち合わせなくてはいけない。彼らの思いは、そのようなジーンズの在り様と重なる。

故にここでのモノづくりは、その素材(生地)づくりから始まる。綿、糸、布地、それらに時間をかけることは最初の仕上がりとしての見た目には大きく変化を生み出すものではない。しかし、長く使っていくうちにそのモノの傷みやヨレがみすぼらしくなるのではなく、「味/アジ」となるために綿を選び、それを紡ぎ、布にする織機にまで意識する。でき上がり状態だけでなく長きにわたり使ってもらうための工夫を惜しまない。そしてそれはデニムパンツのみならず消耗品のようなTシャツにまで徹底される。その味の素となるのは、素材にある“ゆとり”であると加藤氏は言う。

新しい素材を1つ1つ入念に確かめる加藤氏。

実際に彼のプロダクトに使用される布地は、今ではあまり使用されない旧式のシャトル織機を用いてつくられるものもある。現代の布地の製法は、効率化を優先させシャトル(織機の杼(ひ))を使わず、糸だけを飛ばしてしてつくられるために糸と糸の間が詰まり過ぎ、布地も断裁しやすいように硬くあげられる。加藤氏のところで使用される織機は旧式のため手間も時間もかかるが、シャトルを使用することにより糸間に程よい隙が生じ、糸の持つ素材感を壊すこと無く布地をつくることが可能だという(どの機械でもよいというものでもないそうだ)。服としての仕上がりはどちらも同じに見えるが、着込み、使い込んでいくことによる風合いは全く別のものとなる。ただ、モノとしてのでき上がりは同じように見えても、手間隙がかかっている分、価格は高いものになってしまう。

見た目が同じでも違う。そのわかりにくいことにエネルギーを注ぐのは、ひとえに自分たちのプロダクトを最後まで楽しんでもらうためである。そのために最初の仕上がり以上に、どのように「朽ちさせる(味を出す)」かまでを意識する。年をとらないようにするのではなく、どのよう年を重ねていくのかまで思いを馳せ、新しいモノをつくるのである。

さまざまな生地と縫製、パタンの組み合わせを確かめるためにつくられたサンプルたち。このうち加藤氏の納得のいくものが、世に送り出される。

われわれの扱う自転車同様、服飾の世界もさまざまな業種の人々がつながり1つのものを生み出している。綿づくりから紡績、織、染織、縫製、多くの人が関わり初めて加藤氏の考えるモノづくりが実現されることを彼は良く理解している。しかし、新しいものを効率よくつくることが良しとされるこの時代において、使い込んでもらった状態まで意識した丁寧なモノづくりが苦戦しているのも事実である。故に、良いモノづくりに関わる人々がその職を続けていけることを切に願っている。服は伝統工芸ではないからこそ、自分たちの力で良いモノづくりを残していけるよう進化していくのである。

今日も加藤氏とTEAMKITは日々彼らの信じるモノづくりに勤しんでいる。

加藤 博/京都府出身。自身の名前をブランド名にしたブランド「KATO`」のデザイナーであり(株)チームキット代表取締役。これまで、さまざまな国内、海外のアパレルの企画開発に携わる。フランスの「ET.VOUS」のメンズライン開設時のデザイナーとして活躍した後、アドリアーノ・ゴールドシュミット氏との仕事やRRLの日本企画商品開発、「Lagra」の生地開発など、世界のデニムシーンでさまざまな役割を果たしてきた。

KATO` -TOOL PROJECT BY KATO`-/KATO`の服は五感で感じる服である。形、生地、縫製、洗い、すべての要素が重なり、それらははき込むほどに持ち主と同化し変化してゆく。それは、偶然ではなく、KATO`の最も得意とする仕掛け(トリック)が随所に施されているからである。KATO`に袖を通した瞬間に感じるはずである……その着心地、その面白さ。
http://kato-aaa.jp/

この連載では京都に拠点を置く自転車メーカー、VIGOREの皆さんに、自らだけでなく、周辺で真摯にモノづくりに励む方々の取り組みや想いについてレポートしていただきます。

VIGORE(ビゴーレ)/もともと刀鍛冶であった片岡家がその鉄加工の血脈を活かして自転車づくりを始めたブランド。1930年から始まった片岡商会(後の片岡自転車店)当初から常に大流に惑わされることなく自転車を通したモノづくりと向き合ってきた。 VIGOREのブランドでは、ロードレース競技からトライアスロン競技用レーサーバイク、またダウンヒル競技用ダブルサスペンションマウンテンバイクなどの競技車両の開発を進めるとともにそのノウハウを活かして市街地用の車両を販売。2000年からは、自転車のフィッティングから自分だけの1台を感覚的に注文できる「スマートオーダー」を開始し、専門的な知識を有さないユーザーに対しても、オリジナルバイクに乗る楽しみと所有できる悦びを提供している。