旅を五感で楽しむ鉄道デザインの魅力のすべてがここに
「水戸岡鋭治の大鉄道時代展」東京・六本木のAXISビルでスタート

今夏、福岡のJR博多シティで開かれ好評を博した「水戸岡鋭治の大鉄道時代展」の巡回展が、いよいよ明日8日(土)から、AXISギャラリーおよびシンポジアの2つの会場を使って開催される。東京で大規模な企画展を行うのは実に十数年振りと語る水戸岡さん。展覧会は、そんな車両デザインの第一人者が四半世紀にわたって取り組んできた公共デザインの数々を余すことなく紹介する。

▲水戸岡さんが主宰するドーンデザイン研究所の1コマ。扉の向こうで次世代の車両デザインが構想されている。

膨大な数のイラストや実物の車両座席、鉄道模型などが並ぶ「水戸岡鋭治の大鉄道時代展」。会場に足を踏み入れると、鉄道ファンならずとも見ているだけでワクワクさせられる水戸岡ワールドが、瞬時に目に飛び込んでくる。車両や駅舎、駅員スタッフの制服などが描かれた100枚をゆうに超えるイラストパネルは、精緻な描写やカラフルな色使いなども含めて見応え十分。かつてイラストレーターとして活動していた時期もある水戸岡さんの真骨頂だろう。

「イラストは今でもすべて僕自身が描いている。それを知って驚く人もいるんじゃないかな」と水戸岡さん。展示されたパネルの中には、世界一の豪華列車をつくるという思いとともに2013年の運行を目指してプロジェクトが進む「クルーズトレイン」のコンセプトを描いたものなどもある。九州という土地の地域文化や質をふんだんに取り込んだ豊かな鉄道サービスからは、「日本独自の文化や素材を盛り込んで、質の高いものを提供したい」という心意気が伝わってくるかのようだ。

▲デザインコンセプトやプロセスを伝えるさまざまなイラストパネルを設営中の様子。車両が誕生するまでの思いや過程を水戸岡さん自ら解説する映像もあわせて紹介される。

水戸岡さんがデザインを手がけたさまざまな車両シートを一堂に見比べ、その座り心地を体感できるのも本展の特徴だろう。親子で並んで座ることを想定した「あそBOY」の親子シートはもちろん、ゴブラン織りの生地を用いた「つばめ800系」の腰掛けなど、色、素材、形にこだわったオリジナルデザインの数々。見ているだけで、旅情への思いが掻き立てられるのではないだろうか。

「作品点数から考えると会場が少し窮屈な印象を受けるかもしれない。でもその結果、車両空間にいるような感覚で展示作品と向き合ってもらえるのではないでしょうか」。車両シート以外にも会場には多数の椅子が並べられている。それらもすべて触ったり、座ったりすることが可能。「見るだけではなく、存分にデザインを味わってほしい。疲れたら椅子に座って休憩をしてもらってもいいようにと思い、たくさん並べています」。そんな来場者への気遣いからは、常に利用者の立場や目線で満足度の追求を目指してきた水戸岡さんの仕事ぶりがうかがえる。

▲東京・六本木にいながらにして九州などを走る車両体験が。ブラックレザーの新幹線800系の腰掛けを筆頭に、「あそBOY」の親子シートなど、さまざまな車両の座席感覚が楽しめる。

福岡展の開催を前に水戸岡さんは本展について次のような抱負を述べている。「公共デザインに関心を持ってもらえるようなものにしたい」と。実際、福岡展の会場は、会期が夏休み中だったこともあり親子連れの姿が目立った。おそらく子供たちにとっては、鉄道を含む公共デザインの楽しさに触れる大きなきっかけとなったのではないだろうか。「この展覧会を見て、将来車両デザイナーを目指す子供がひとりでも多く誕生してくれれば」と水戸岡さん。さらに、「今回の展覧会は、プロではないけれど、デザインが好きだったり、関心のある人たちに向けて、彼らが楽しめるようなものにしたいという思いから始まっています。デザインの展覧会というととかく敷居の高い構成になりがち。そういう常識を少しでも壊したかった」。

▲会場設営に立ち会う水戸岡さん(写真右)。グループ展の参加も含め、AXISビル内で展覧会を行うのは今回が5回目という。

AXISビルでの巡回展では当然、デザイン関係者の来訪も予想される。目の肥えたプロのデザイナーに本展の内容がどう映るのかも興味深いところだろう。水戸岡さんは、「まずは、展覧会を通してデザインの旅をするかのようにリラックスして楽しんでもらいたい。同時に、鉄道のデザインでここまで社会を豊かにできるということを感じてもらえれば」と話す。この言葉は、デザイナーという職種の潜在能力の高さを信じて疑わない水戸岡さんが、世のデザイナーに贈るメッセージなのかもしれない。年齢や職責を問わず、ひとりでも多くの人たちに見て、楽しんでもらいとい思いをのせて“出発“する展覧会は、今月23日(土)まで。お見逃しなく!  また、15日(土)と19日(水)の両日には、水戸岡さん自ら展示作品について解説するギャラリートークも開催される。

「水戸岡鋭治の大鉄道時代展 鉄道をデザインする」
主催:水戸岡鋭治+ドーンデザイン研究所、九州旅客鉄道株式会社、JR博多シティ
協賛:(株)ケイ・エス・ケイ、(株)ジェイアール九州エージェンシー
期間:2011年10月8日(土) ~ 23日(日)
時間:11:00~19:00(入場は18:30まで、最終日のみ16:30までとなります)
会場AXISギャラリー(AXISビル4F)、シンポジア(AXISビルB1F)
入場料:無料