nendo代表の佐藤オオキ インタビュー
6年ぶりの国内展覧会への想い

12月13日(火)まで、アクシスビル内の2つのスペースを使って、nendoの個展「50projects _ 25objects+25spaces」が開催中です。展覧会の見どころなどを、代表の佐藤オオキさんに聞きました。

——国内で6年振りとなる展覧会ですが、見どころは?

展示作品は、ここ数年海外で発表してきたものを中心に、自分たちがベストといえるものを揃えました。家具を中心としたプロダクトは海外で製作したハードコアなものが多いですが、着想から完成までの一連のプロセスを記したテキストを添えるなど、デザインの意図をきちんと理解してもらうためのコミュニケーションの部分はかなり気を配っています。

▲海外を中心に発表されてきた25のプロダクトが並ぶ4階のギャラリーの展示風景。

——4階のギャラリーはプロダクト系が中心で、地下スペースでは空間の提案を模型を使って見せています。

すべての作品に共通するのは「実験性が高い」ということです。どれも生みの苦しみの大きかったものばかり。クライアントが存在する仕事では、最初から求められる要件が決まっていますから、ある程度着地点をイメージしながらデザインすることができますが、自主プロジェクトではそうはいきません。素材をいじったり、新しい工法と向き合いながら、1つ1つ可能性を検証して出てきたデザインばかりです。そういう意味では、ゴールのないところから出発し、試行錯誤しながら、運良くカタチに辿り着いたものともいえます。例えば、特殊な素材を使うことなく何か面白いものができないかという発想から生まれたのが、一筆書きのスケッチからそのまま出てきたような椅子「thin black lines」です。一方、脚の細さがわずか15mmの木製椅子「cord-chair」は、職人さんの技術ありきで成立したものづくりで、「thin black lines」の対極にあるといえます。そういうプロセスの幅広さも見てほしい点です。

——美術館やコレクターの手にすでにわたっている作品も少なくありません。

実験を絶えず続けるにはそれなりの費用が必要です。それをぎりぎりとんとんに回せるぐらいに回収できればというのが僕らの製作スタンス。海外の美術館やコレクターが作品を購入してくれることで、こうした費用を捻出できるのは実にありがたい。また、実験の成果は他のフィールドにも転用できるので、僕らのデザイン領域を広げてくれることにも貢献してくれます。アートピースを手がけるにあたって僕らは儲けようという意識は皆無。むしろ、自分たちのトレーニングのためにやっている感じです。

▲B1F会場に並ぶ空間プロジェクトの模型より、ミラノで進行中のデパート「リナシェンテ」の改装計画案。来春のミラノサローネ開催タイミングに合わせてオープンが予定されています。

——オリジナルブランド 「one percent products(ワンパーセント・プロダクツ)」の新作も久しぶりに披露されています。

そうですね、地道にやっています。会場に並ぶのはそのうちの1つ、セラミックの特性を生かしてつくった小皿です。薄くて平滑な面をつくろうとするとどうしても焼きの段階で「ヒキ」という窪みが生じてしまうのですが、今回はそのネガティブな要因を生かしたデザインができないかと考えてつくっています。薄い皿の裏に花の形をした厚みのある高台を設け、皿面にうっすらと花形の表情が出てくる。4階の会場の奥に並んでいます。

▲長野県小諸市の山林に計画されている「ツリーハウス」プロジェクトの模型。施設の片面側に設置される鳥小屋を間近に観察できるものだそうです。会場のどこかに設置されているので、ぜひ探してみてください。

——会場構成にはどのような工夫を施していますか。

特に注意をはらったのは、全体を見渡せると同時にどこまで遮蔽するか、そのバランスです。この二律背反の要件を考えるなかから生まれたアイデアが、ポリカーボネートの板材を積層させたパーティションです。外から俯瞰して見ると壁が立ちはだかって何も見えないのだけれど、壁を回り込むと情報がたくさん露見する。そうした親切と不親切のバランスがほどよく同居しているような空間になっています。地下も同じような構成で、会場を散策するうちに、次々と新しいことが発見されていくような感じです。

▲ 4階会場には、10年の軌跡が示された年表が掲示されています。その最後を飾るのは2012年の展覧会予定。パリやミラノでの発表が目白押しです。

——来年は事務所設立から10周年という記念の年になります。

10年間やってきて感じたのは、ものづくりの本質はどこの国も変わらないということ。最初の頃はそれが本当だろうかと半信半疑でしたが、今はある程度確信を持っていて、ボーダレスに活動することに何の躊躇もなくなりました。そういう状況は今後いっそう加速していくでしょうし、デザイナーのボーダレス化が当たり前という時代はもうすぐそこまで来ています。僕らもその波に乗り遅れず、ついて行けるようにがんばりたい。そうしてデザイン界全体が盛り上がってくれればいいですね。

50projects _ 25objects+25spaces
会期:2011年12月8日(木)~13日(火)
会場AXISギャラリー(AXISビル4F)、シンポジア(AXISビルB1F)
時間:11:00~19:00(最終日は~17:00)
入場料:無料