1mm単位での調整で実現した極細フレームのシェルフ
芦沢啓治「SLY BOX」

「成長の道標」

芦沢啓治さんのコンセプトは、スライドレールのようなメカニカルなものを使用せず、シンプルでありながら外観が美しいレールを目指し、抽斗を抜いたときにもオブジェのような表情を持つSHELFというものでした。ポイントはやはりフレーム。外観の細さとレールとしての強度を保ちながら、レール機能を満たすために邪魔となる溶接のビートをいかになくしていくかに挑戦しています。

協力会社とは、図面上であらゆる想像を働かせながら1mm単位で討論し、ゆがみ、垂れ、回転を考慮しつつ固定位置を決め、意匠との折り合いを付けていきました。内部に仕込むロッドでは3mmと4mmのたった1mmの違いでこんなに違うものなのかと実感しました。

さらに悩んだのがフレームの仕上げでした。抽斗の動きに耐えるものでなければいけないのは当然のことながら、意匠をいじめない強度のある仕上げに悩み、だどりついたのがコーティング技術。協力会社の力に助けられました。しかし、強度を重視したため、コーティングの塗膜の0.2mm程度の違いで、抽斗が噛んでしまいスムーズに動かない。頭の中ではわかっていたものの、実際に体験し、数値化することの重要さを教えてくれました。

頭の中で想像したことを実現するためには、そのギャップを埋めるための方法を探し出す力を身につけていなければいけません。新入社員にとって、この最初に立ち向かったSHELFはその力を与えてくれ、私にとって「成長の道標となりました。(文/松山新吾、経営企画統括部 スタッフ)

「SLY BOX」
デザイン:芦沢啓治(芦沢啓治建築設計事務所)
協力会社:(有)イーシー・キッツ、滝沢金属工業(株) ほか
撮影:尾鷲陽介

展示や内装の設計・施工を手がける丹青社が、2009 年から新入社員教育の一環として行っている「SHELF制作研修」。本連載では、研修に参加された丹青社の方々に、それぞれの作品について語っていただきます。また、この研修成果については、20119月27日(火)〜10月5日(水)までアクシスギャラリーで開催された「人づくりプロジェクト SHELF展」において、展示報告されました。