グッドデザイン賞審査委員長 
深澤直人氏に聞く
「本年度の取り組みと視点」

本日から応募受付がスタートした「グッドデザイン賞 2012」(応募期間は終了)。昨年は震災の影響下であったものの、例年以上に多様な作品が集まった。常にその年々の社会現象や時代の潮流、産業の動向などを反映してきたグッドデザイン賞。今年の取り組みと視点について、審査委員長の深澤直人氏に聞いた。

「美しさと使いやすさーーデザインの本質を問い始める機会として」

ーー今年のグッドデザイン賞開始にあたってのメッセージにおいて、「もの」という概念がなくなってきているなかでのデザインについて語っていらっしゃいます。

今、ハードがなくなるということをすごくシビア、かつネガティブに考える傾向があると感じています。つまり、ハードがなくなると産業もデザインもなくなるのではないかと不安に感じている。産業が疲弊していくなかでデザインは新たなものづくりを牽引していく明るい光みたいに思われていましたが、ものをつくらなくなって、産業とデザインの関わりもわかりにくくなってきた。デザイナーも、ものがないから仕事がないと思いがちです。そういう状況というか、誤解に対して、「そんなことはない、ものづくりのクリエイション自体は変わってない」というメッセージをGマークが出さなければいけないと思ったのです。

ものの存在が消えても、今まで必要とされてきた機能がなくなるわけではなくて、その仕組みと使い勝手のデザインが大切になってきます。

ーーつまり、インターフェースやインタラクションのデザインですね。

よく最中と羊羹の違いに例えて話すのですが、従来は最中のように、あんこも外側もつくるのがデザインだった。けれども、今は羊羹になってきた。側をかぶせるというデザイン概念がなくなってきて、内と外の区別がなくなってきた。つまり、使い方と仕組みとハードは、すべてが同調しているということ。だから、言い換えると、デザイナーの職能はハードの形をつくることだと決めた時点で終わりなんです。

かつて日本はデザインしないことに価値がある国でした。ミニマリズムの典型で、余計なものをどんどん削ぎ落としていくのが、日本の美学だった。これからは、その日本人のセンスを生かす時代なんです。ただ、表に出てくる部分が少ないので、なかなか理解してもらえないかもしれない。だからこそGマークを通して訴えていきたい。

例えば、空間にあるハードが整理されると、そこに綺麗な棚をつくって、綺麗な器を置いて花をいけましょうというような意識が生まれる。このように、かつての日本では、合理的な社会とひじょうにこだわった社会が同調していたと思うのですが、そういう時代が再びやって来るのではないでしょうか。

昨年度グッドデザイン大賞のカーナビゲーションシステムによる情報提供サービス/東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」(本田技研工業株式会社)。

ーーインターフェースといった場合、人とハードとの界面がわからなくなって、より一体化していくと?

それはまさにデザインの本質です。ある器でお茶を飲む場合、その器がかっこいいということではなく、その行為自体の本質を含んだ上でのハードとして存在しなければ意味がない。今まではそこが置き去りにされてきた。だからわざわざインターフェースということを考えなければいけなかったのですが、本来日本人の中には、そういったことを自然と考えるDNAがあるはずなんです。着物を掛けるときはこうするとか、お茶をいただくときの所作はどうだとか、自分がこう動けば、こっちはこう動いて、あっちはこうなる、というようなことを考えられない人間は馬鹿だと言っていた国なんだから。インターフェースなんて昔からあったんです。

ーー今年のGマークでは、デザインの本質を改めて問う、と?

問い始めなければいけない、ということをメッセージとして発信しなければいけない。旧態依然とした、「かっこいいカタチだね」というだけではないということを切り出さないと。デザイナーに対しても、かっこいいスタイリングをする職業だと誤解している人がいまだに多い。そうではなくて本質的なことをやっているのだということを理解してもらうためにも、グッドデザインの審査を通してメッセージを送っていきたいと思います。スタイリッシュなものを求めているのではなくて、本質を追求しているのだと。

ーーそういう想いから、今回の審査にあたって「美しさと使いやすさ」という、デザインの原点ともいうべきキーワードを掲げておられるわけですか。

美しさというのは、形の美しさではなくて、扱いやすさ。“関係のよさ”ということです。あえてこのキーワードを出したのは、「美しさって何?」と言わせたいから。反対に質問させたいわけです。質問されたら、「何だと思いますか?」と逆に質問を返したい。抽象的で概念的だと思いますが、日本人は概念の意味がマッチしていないと合意しませんから。

抽象的な俳句に対して、皆が「おおっ!」と感動するのは、その日本的概念が理解できるから。それはもう美しさなんです。俳句の風景が、その人の頭脳の中にすっと入っていくからこそ美しいと感じられる。インターフェースについても同じことが言えて、「おおっ!」と感じた瞬間に、それが美しさになるんだと思います。感覚的ではあるけれど、それが理解できるのがデザイナーであって、その良さを伝えていくのがグッドデザイン賞です。

デザインの関わる分野がますます多様になるからこそ、グッドデザイン賞が、あえて今、「美しさ」と「使いやすさ」という原点に立ち返る意義は大きいと思っています。

グッドデザイン賞審査委員長 
深澤直人氏

グッドデザイン賞2012の詳細は同賞の公式ホームページまで。
昨年度に引き続き東北茨城における産業と経済の復興支援を目的として、東北6県(青森県、秋田県、岩手県、山形県、宮城県、福島県)および茨城県に本社を置くデザイナーおよび事業者からの応募費用は無料。台湾・韓国での現地審査なども行われる予定です。