「FabLife」著者の田中浩也
『ファブライフを実現するための3つのリデザイン』とは

みなさんこんにちは、FabLabJapan/FabLab Kamakuraの田中浩也です。最近、私は初めての単著『FabLife デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』を出版しました。この本は、私が「(デジタル)・パーソナル・ファブリケーション」と出会った経緯や、世界のファブラボを巡る旅、そして3~4年にわたる実践の体験を個人的な視点から綴ったものです。おかげさまで、発売1カ月で重版となることが決まりました。ありがとうございます。

執筆中、常に感じ続けてきたことがあります。それは、「ファブ」は、ひとりひとりがそれぞれ違った視点、違った切り口で、語り、取り組むことのできる、まるで「多面体」のような何ものかであるなぁ、ということでした。個人的な視点のみでこのムーブメントの全貌を語ることの不可能性(限界や困難)を、常に抱えていたというのが正直な気持ちです。そんなときに頂いたのが今回の連載企画のお話です。FabLabJapanメンバーのエピソードを次々につないでいくことを通じて、「FabLife」を、複数形の「FabLives」へと開くことができたら。視点を広げて増やし、深めて豊かにしていくことができたら。そう思っています。これからどうかよろしくお願いいたします。

とはいいつつ、私自身のファブライフは出版後も途切れることなく日々進行しています。私は今、「慶応大学SFCソーシャルファブリケーションセンター(SFC*SFC)」「自宅」「ファブラボ鎌倉」の3カ所で「ものをつくる」生活を続けています。今回は、それぞれの場所で最近起きた小さなプロジェクトを紹介してみたいと思います。

1. 慶応大学SFCソーシャルファブリケーションセンター開設

慶応大学SFCソーシャルファブリケーションセンター(SFC*SFC)の外壁に展示した「レーザーカッター端材アート」

慶応大学SFCソーシャルファブリケーションセンター(SFC*SFC)は、今年の4月にオープンしたばかりの共同研究室です。白い壁のモダンな建物だったので、何かちょっとした飾り付けをして、祝ってみたいと考えました。そこで、昨年1年間で溜まりに溜まったレーザーカッターの端材(材料の切り取られた余りの部分)を再利用してみることにしました。レーザーカッターという機械は、その加工の仕組み上、材料の周囲4辺をフレームのように必ず残してしまいます。しかし、その残った端材が幾何学的で規則正しく、なんだかとても奇麗なのです。「あぁ、あのとき、あの人がつくった、あの作品のための材料だったんだなぁ」と、アルバムを見るような懐かしさが、記憶とともにこみあげてくる効果もあります。そのため、捨てるのが惜しくて、周りの反対を押し切って残していたのでした。今回はその端材を4色に塗り分け、モダンアートのパネルのように並べてみました。なんだかグラフィックの作品のように見えてきませんか?

2. 自宅でのドメスティック・ファブリケーション

一方、私の自宅では、3次元プリンタと3次元スキャナや、自由樹脂、Sugruなどをつかって、壊れたものの修繕や、道具を自分に合わせて、より使いやすくする「微改造」を日常的に行うようになりました。これを「超局所的なものづくり」と呼んでいます。

「もの」には、からだや住まいと接触する、いちばん小さく、しかし最もデリケートな部分が存在します。その接触部分を「丁寧に適合」させる行為を、自分自身でできるようにしておくことが大事だと考えています。販売される「もの」そのもののデザインを行い、完成度を高めるのがデザイナーであったとしても、一方で、「もの」が置かれる場所や、それが使われる状況、使う人との「最終的な調整」は、むしろユーザー側に引き渡されていると思うからです。つまり、ユーザーの側にも、デザイン行為が発生するのです。それは維持やメンテナンスの文化にもつながってくるでしょう。

3. ファブラボ鎌倉ーー「蔵部」でのアンティーク・リペア

最後に、ファブラボ鎌倉での出来事です。ファブラボ鎌倉では、マネージャーの渡辺ゆうかさんを中心として、金曜日夜に(不定期ですが)「蔵部」という名の小さな会合を開いています。いろいろな世代、ジャンルのクリエイターが交替でレクチャーをする形式です。先日は、大沢 匠さんによる「日本文化と箱」の講義をみんなでワイワイと聞かせていただきました。参加者はそれぞれの家からお気に入りの「箱」を持ち寄って、議論をしていました。そこに、常連の斉藤 亨さんが持ち込んだのが、なんと、木製の自転車用箱型ランプでした。昭和アンティークです!

ぜひ明かりがついた状態を見てみたいということになり、ファブラボメンバー数人で、電源部分をハックしたり試行錯誤すること約30分弱。やっと電気が通ったその箱からは、ぼんやりとした優しい光が溢れたのでした。その瞬間、ファブラボには小さな歓声が。

私の実践しているファブライフは、結局、使いながらつくることであったり、既存のものをうまくやりくりすることであったり、組み合わせを変えて再編集してみるような行為です。それを、3次元プリンタやレーザーカッターといった、現代の技術環境を上手に絡めながら、当たり前の日々の中にゆっくり取り入れていこうとしています。遊びなのか、学びなのか、仕事なのかわからない、あるいはそれらが混ざり合った、混沌とした中間の領域のなかから、これからのヒントが見つかりそうな気がするのです。夏はまた、ニュージーランドはじめ、世界のファブラボをいくつか見てこようと思っていますが、これまでよりもさらに、人々の「生活」や「くらし」に密着したファブの観察ができるかなと考えています。(文/田中浩也、FabLab Japan)

この連載はFabLab Japanのメンバーの皆さんに、リレー方式で、FabLabとその周辺の話題についてレポートしていただきます。