東京都現代美術館
「Future Beauty 日本ファッションの未来性」展、レポート

東京都現代美術館で80年代から現在までの“日本ファッション”を振り返る展覧会が開催中だ。ロンドン、ミュンヘンを経て、本展が3会場目となる。80年代はじめに川久保 玲、山本耀司らがパリに乗り込み、黒ずくめや穴のあいた服を発表。「黒いぼろ」「黒の衝撃」などと呼ばれて世界のファッション界に大反響を巻き起こした。本展では、そうした黎明期の貴重な作品や映像資料、日本独自の美意識や伝統技術を継承しながら革新を目指した作品、さらに2000年代にデビューした若いブランドまで合計100点を展示。日本ファッションの30年を俯瞰しながら、その「未来性」を問う内容だ。

▲ セクション1「陰影礼賛」より。エスカレーターで会場フロアに上がると、まず来場者の目の前に飛び込んでくるのがコム デ ギャルソンの「黒」

会場は4セクションに分かれている。80年代のコム デ ギャルソン、ヨウジヤマモトらによるモノトーンの服に始まり(セクション1)、セクション2では着物や折り紙に代表される、日本人特有の美意識としての「平面性」を取り上げる。イッセイミヤケの「プリーツ プリーズ」や、ミントデザインズ(勝井北斗+八木奈央)やミナ・ペルホネン(皆川 明)が手がける独創的な柄の服が並び、平面から立体(服)が立ち上がっていくコンセプトやプロセスの面白さを伝える。

▲ セクション2「平面性」より。展示は右から、コム デ ギャルソン、荒川眞一郎、ミントデザインズ

▲プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(三宅一生)
「PLEATS PLEASE:Making Process 2012」1992年/2012年

▲ オー!ヤ?(大矢寛朗)「The Wizard of Jeanz」シリーズより
ポリエステルの布が蜂の巣状に広がるケープとスカート

展示室で監視員が身につけている「紙エプロン」(神田恵介)は、一見なんの価値もなさそうな平面(紙)にファッションとしての価値をもたせることを狙ったコンセプチュアルな作品。神田はこれを実際に流通させ、「黒の衝撃」ならぬ「白の衝撃」と称してビジネスとして成立させたいと考えている。

▲ 紙エプロン(神田恵介)2012年

セクション3「伝統と革新」では服の素材に対するデザイナーたちの姿勢に着目する。素材からの開発は、日本ファッションの特徴の1つと言える。刺し子や友禅といった伝統的な技法だけでなく、化学繊維をはじめとする先端技術や加工技術も柔軟に採り入れている姿が浮かび上がる。

▲ セクション3「伝統と革新」より。ここでは衣服を目線の高さに置き、随所に姿見を設置することで、来場者自身の姿も映し出される

▲刺し子&タトゥ(三宅一生)1970/1971年

▲ドレス、オーバードレス(堀内太郎)2010年春夏
白のポリエステルに和紙をワニ革風に接着。その上にポリエステルとステンレスを交織した素材のドレスを重ねている

そして、東京展に追加されたセクション4「日常にひそむ物語」は2つのサブセクションから構成される。前半は、90年代のアニメや音楽などサブカルチャーの要素を直接的に採り入れながら、個人的な物語や世界観を服によって表現するブランド。彼らのなかには既存のファッション業界の権威主義や慣例に対する疑問を持つ者も少なくない。例えば、一度つくり上げたキャラクターをワンシーズンだけでなく継続的に登場させるなど、購買層とともにファッションを育てていくようなつくり方を志向する。

▲ セクション4「日常にひそむ物語」より。左は、アストロボーイ・バイ・オーヤ(大矢寛朗)による2004年春夏の作品

後半は、2000年代以降にデビューしたブランドを紹介する。東京の一極集中を避けて、熱海で地元のコミュニティを巻き込みながら服づくりをするエタブルオブメニーオーダーズ(新居幸治+新居洋子)や、コレクションのためにアニメーション作家と共同で精緻なビジュアルストーリーをつくり上げるアシードンクラウド(玉井健太郎)といったブランドは、今までにない方向性として注目されている。彼らの服は、ライフスタイルの細分化や多様化が進み、ファッションの「大流行」ということ自体がもはや成り立たない今日において、ブランドの世界観やコンセプトに共感し、それを支持する人とつながることによって成り立っている。このセクションでは、コミュニケーションとしての新たなファッションの有り様が見えてくるはずだ。

▲ エタブルオブメニーオーダーズ(新居幸治+新居洋子)による2012年春夏の作品

▲ アシードンクラウド(玉井健太郎)による作品。周囲に掲示されているのは、アニメーション作家の加藤久仁生によるブランドのためのイラストレーション。登場人物の衣装や風景の一部が衣服に転化され、その世界観を身にまとう

ロンドン、ミュンヘンに続き、東京展の会場構成を担当したのは建築家の藤本壮介。「主役である服を最もいいかたちで見せたいと考え、等身大である服のオーラが展示室全体に引き延ばされるような空間づくりを目指しました。服は大きさがほとんど同じなので単調にならぬよう、セクションごとの抑揚や流れをつくることを心がけた」という。セクション4では、1着1着を展示する台の高さを変えることで、若いデザイナーたちの枠にはまらない実験性をそれぞれ際立たせているのが印象的だった。(文・写真/今村玲子)


「Future Beauty 日本ファッションの未来性」

期 間:2012年7月28日(土)〜 10月8日(月祝)
    10:00 〜 18:00
会 場:東京都現代美術館 企画展示室3F
休 館:月曜(ただし9/17、10/1、8は開館、9/18は休館)
入館料:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 中高生500円



今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらへ