第1回
「共生とは“ともいき”」

Copenhagen Media Center, Photo by Ty Stange

なぜ共生デザインによる日本再生? しかもどうしてデンマーク? 恐らくこの連載タイトルをご覧になられた方の率直な感想だと思う。通常、デンマークでデザインと言えば、イージーチェア No.45のフィン・ユール、CH-24 Yチェアのハンス・J・ウェグナー、そしてルイス・ポールセン PH5のポール・ヘニングセンなどと相場が決まっており、北欧デザインという括りで分類されることになっている。しかし、今回は良い意味で読者の期待を裏切りたいと思う。この連載は、今までの北欧デザイン論や歴史を解説するものではなく、北欧と日本に共通する「共生デザイン」を活かして真面目に日本を再生するための仮説を提示したいと考えている。

では、そもそも「共生デザイン」とは何か? 残念ながら明確な定義はない。また、筆者は「共生」を“きょうせい”ではなく“ともいき”と呼んでいる。「共生(ともいき)デザイン」としたほうがこの言葉の精神を表していると考えるからだ。

では、無謀だが「共生(ともいき)デザイン」を敢えて定義してみると、「自然、地域、人々が相互関係を持ちながら共に生き、心の平静を保ち、人間の霊性的向上に資すべきデザイン」となろうか。極めて禅的な表現になってしまったが、もともと「共生」をともいきと呼んだのは、仏教であり禅であるので仕方がない。この霊性的向上に資することも、筆者が言っているわけではなく、古人がきちんと説明している。つまり庭でも音楽でも絵を描くにしても、その人の霊性的面に利することがあるか否かを考える。

日本の床の間にあるのは西洋の様に感覚面を喜ばす様な飾りものではなく、その中に一種の真理を見出したいと思う。つまり、美を単なる美ではなく、霊性的要素から出たものとして追求しているのである。

いきなり堅苦しい話になってしまったが、結論は現在の混沌とした時代、しかも経済的にも技術的にもアジアの新興国に追い上げられ、やや自信喪失気味の日本人を北欧とのデザイン連携で覚醒させ、再生から新たなる成長軌道に導く為には、根本的なところまで掘り下げた上で、新しい価値理念を確立することが必須であるからだ。次回以降は、もう少し柔らかく、「デンマーク」を切り口に具体的な説明を行いたいと思います。ご期待ください。(文/中島健祐、デンマーク大使館 投資部門 部門長)

中島健祐/通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館インベスト・イン・デンマークに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによるコンサルティング支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開している。デンマーク大使館のホームページはこちら