第2回
「農業国ではなく、IT先進国」

Photo by Kristof Kuncewicz

共生デザインの説明をする前に、簡単にデンマークの現状について紹介してみたいと思う。建築家や家具・照明デザイナーには馴染みのあるデンマークだが、残念ながら多くの日本人には遠い北欧の国であり一言で表すと以下のようになると思う。

「デンマークは、北欧の国であり酪農、畜産業などの農業が中心、文化はアンデルセン、伝統工芸品ではロイヤルコペンハーゲンやジョージ・ジェンセン有名」。

マスメディアの型にはまった報道も影響しているが、日本で紹介されているデンマークと言えば、高福祉国家、酪農、椅子などの北欧デザインばかりで、産業や技術に関する説明は殆どないといってよい。しかし、北欧を中心に起きつつある新しいデザイントレンドは、社会システムや環境そしてテクノロジーの理解なしで本質を掴むことはできない。そして、筆者なりに現在のデンマークをまとめると「 租税負担率(約70%)が高いにも拘わらず、国民の幸福度が高く、エネルギーと食料で自立している。また、先端技術を中心に国際競争力があり、国民が明るい未来を語る国 」であり(下表参照)、欧米のビジネスマンがデンマークを説明すると、「 デンマークは、ICT、バイオテクノロジー、エネルギー、環境分野において、新技術やソリューションを確立するためのの戦略拠点であり、自社における世界R&D(研究開発)センターである 」となる。

いかがだろうか? 年に数回、雑誌で北欧特集が組まれるが、こうした内容を掲載しているものは稀である。多くの欧米企業はデンマークにR&Dセンターを設けているが、残念なことに日本企業は殆どない。また最近はアジアの企業も研究開発拠点としてデンマークを評価しつつあり、R&Dセンターの設置が徐々に進展している。そして、筆者が危惧の念を抱くのは中国、台湾、韓国のデザイン戦略の動向である。R&Dセンターと同様、デンマークにデザインセンターを設けている日本企業は皆無であるが、サムソンはスマートフォンのデザインをデンマークで行っているし、今年は中国や台湾企業がデザインセンターを開設しようとする動きが加速しているのである。(文/中島健祐、デンマーク大使館 投資部門 部門長)

中島健祐/通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館インベスト・イン・デンマークに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによるコンサルティング支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開している。デンマーク大使館のホームページはこちら