良きデザインとは 変化が容易なデザイン

少し、ご無沙汰をしておりました。本厄の中台です。今年もよろしくお願いします。昨年は、本当にいろいろなことがあった年でした。良い事も悪い事も。悪い事を断ち切って、気持ちも新たに、本厄に負けず頑張っていきます。

去る11月28日、岐阜のIAMASの小林教授に呼ばれて、f.Labo大垣ミーティングの第8回に出させていただきました。そのときの模様はこちら。「捨て方のデザイン」ということで、マテリアルを持ち込み、いろいろな方と話をしました。そのときに、「中台さんは何にいちばん反応(感動)しますか?」という質問をいただきました。私たちが感動することの1つに“変化率”があります。

去年は、多くの皆さんにわれわれのことを知っていただき、工場への見学者も1,000人を超えました。ディズニーランドよりは少ないですが、ナカダイとしてはうれしい数字です。いろいろな方がいろいろなマテリアルに歓喜し、購入していきます。きれいなかわいいモノだけではなく、設備や部品など、私たちが想像できないものに萌える方も数多くいました。

私たちは廃棄物としてある企業の廃棄物置き場に置かれているマテリアルを知っています。それらが、トラックに乗せられてナカダイに運ばれてきます。私はよく料理にたとえますが、自分たちが育てた食材の魅力を維持、またはより引き出す料理を提供された感覚です。ということで、今回ご紹介したいのは、昨年末にミッドタウン・デザインハブで行われた「もちかえる展覧会」です。第一線で活躍している18名のクリエイターによる展覧会です。

ディレクターの福島 治さんがこの展覧会の展示台をナカダイのマテリアルでつくりたいとのこと。用意する台は18種類。ナカダイの工場を徘徊して、20種類以上をピックアップ、量や加工方法を指示していただきました。

まずは自転車。まだまだ乗れそうな自転車があれば、皆さん中古自転車として販売すると思われるでしょうが、実はひじょうに難しいんです。というのも、盗難防止の番号を削除しなくてはいけません。しかし、私たち業者が警察に電話して削除要請しても、当たり前ですが受け付けてもらえません。それができたら盗難防止ではないですよね。つまり、自転車を廃棄するときは、警察に電話して盗難防止番号を削除要請していただいてから捨てないと、リユースするのは難しいということです。でも、ほとんどの方がそんなことしません。つまりリサイクルしか手がないのが現状です。ということで、プレス機に入れ、鉄としてリサイクルします。本来であれば、このまま鉄のスクラップになるものですが、とんでもなくシュールな展示台になっています。

次に発泡スチロール。通常はテレビの外枠の黒い部分にリサイクルされていくものです。PS、PPと書いてありますが、ポリスチレンとポリプロピレン。皆さんが、普段、発泡スチロールと言っているのはポリスチレンのほうです。曲げるとパキッと割れるのがポリスチレン、割れなくて、ぐにゃっと曲がってしまうのがポリプロピレンです。似てますが樹脂が違うので、混ざったらリサイクルできません。溶かして、ブロック状にしてリサイクルします。

展覧台はこのような感じに。

解説するのもおこがましいほどの変化率です。マテリアルの魅力を、思いっきり閉じ込めた展示台になっています。皆さんもご存じの、フレンチの神様ジョエル・ロブション氏曰く、厨房に美味しい匂いが漂っている店はダメ。お客さんに届ける前に食材の魅力である香りを逃がしているからだそうです。

この展覧会で紹介された18名のクリエイターの魅力を最大限に引き出すために、適切なマテリアルを選び、その魅力を凝縮させ、お互いの特徴を最大限に引き出している何とも言えないバランスに驚きました。同時に、“捨て方”だけではなく、“変化”のデザインも勉強しなくてはならないと痛感した展覧会でした。(文/中台澄之)

この連載は株式会社ナカダイ前橋支店支店長・中台澄之さんに産業廃棄物に関するさまざまな話題を提供していただきます。