国立新美術館
「カリフォルニア・デザイン1930-1965 モダン・リヴィングの起源」レポート

第二次世界大戦前後、大勢の移民が流入し大衆文化の中心地となったカリフォルニア。温暖な気候と開放的な風土のなかで、色彩豊かでカジュアルなデザインが花開いた。本展では、これまで日本であまり取り上げられる機会のなかった「カリフォルニア・デザイン」について、約250点の家具や建築、ファッションなどを通じて紹介する。

1930年から65年のいわゆるミッドセンチュリーと呼ばれる時代に、米国・西海岸を中心に展開されたカリフォルニア・デザイン。その特徴について、本展企画者であるウェンディ・カプラン氏(ロサンゼルス・カウンティ美術館キュレーター)はこう表現する。

「開放的でのびやか、カラフルで楽観的」。

▲ 本展企画者のウェンディ・カプラン氏

会場に入ると真っ先に目に飛び込んでくるキャンピング・トレイラー「エアストリーム」(61年)は、カリフォルニア・デザインの象徴的な存在。銀色に輝くアルミのボディは軽量で、自動車の後ろに取り付けて移動し、どこにでも泊まれる新しいモビリティのスタイルを広く浸透させた。

▲ カリフォルニア・デザインの象徴として、エントランスで来場者を出迎えるキャンピング・トレイラー「エアストリーム《バンビ》」(1961年)

カプラン氏が「エアストリームは航空機産業の素材と技術が、日常のデザインに落とし込まれた代表的な事例」と説明するように、カリフォルニア・デザインは軍事あるいは工業デザインとの密接な関係のなかで発展した。

イームズ夫妻が、海軍のために開発された成型合板やグラスファイバーを用いて、中流階級のための家具をデザインした話は有名だが、大戦中からの物資不足と爆発的な人口増加のなかで、多くのメーカーは軍事用の材料や技術を生活用品の製造に採り入れていったのである。

例えば、大戦におけるゴムの使用制限に伴い、空軍のパラシュートと同じ素材を使った女性用水着は、脇の編み上げを調整して身体にフィットさせるという仕組み。機能的なだけでなく、女性の曲線美を際立たせて「魅惑のスーツ」と名付け、さらに自社の愛国的な取り組みとして宣伝するなど、「やむを得なく代用している」というよりは楽観主義に満ちている。

▲ コール・オブ・カリフォルニア社「魅惑のスーツ」(1942年)

ほかにもリーバイス社が、作業用パンツであったデニムをお洒落なレジャーファッションとして発信するなど、用途や価値をダイナミックに転換させていく手法は、伝統や既成概念にとらわれない西海岸の文化といえるかもしれない。

▲ 中央は、作業用ズボンをお洒落なレジャーウェアへと変化させたリーバイ・ストラウス&カンパニーによる50年代のデニムとシャツ

一方、住まいでは、温暖な気候と開放的な環境を生かしたカリフォルニアならではの生活スタイルが提唱された。『アーツ&アーキテクチャー』誌が45年にスタートさせた連載企画「ケース・スタディ・ハウス」もその一例。戦後の住宅不足に対応するため鉄骨といった工業素材などを採り入れるとともに、第一線のデザイナーや建築家によるプロトタイプが精力的に発表された。

結局それらの住宅モデルは普及はしなかったものの、プール付きの庭や、景色を見渡せる大きなガラス窓、屋内と屋外を一体化させたような開放的なワンルーム、会話を楽しめるように低い位置でゆったりと過ごせるインテリアなど、カジュアルでリラックスした「カリフォルニア・モダン」のコンセプトは、雑誌や映画などさまざまなメディアを通じて多くの人々に影響を与えたという。

▲ 中村竜治氏による会場構成は、カリフォルニアの開放性を表現しているようだ

▲ 低い座面とL字型に配置したソファは、会話を楽しめるカジュアルな生活スタイルを提案

▲(左)屋内外で使用できるプランター(アーキテクチュラル・ポタリー社、1957年頃)
 (中央)綿紐とエナメル塗装のスチールでできた椅子(ヴァン・ケッペル=グリーン社、1939年頃デザイン)
 (右)藤の椅子(トロピ=カル社、1968年)
 カリフォルニア特有のスタイルだった「屋外リビング」のために考えられたプロダクト

▲ カリフォルニアデザインを牽引したメディア。建築誌『アーツ&アーキテクチャー』の表紙。レイ・イームズも表紙デザインを手がけている(左上とその下)

本展では、1965年頃を「カリフォルニア・デザイン」の終焉と位置づける。その理由をカプラン氏は、「この頃から、ベトナム戦争、反戦運動、人種差別などさまざまな問題や言論、運動が起こり、楽観的なデザインに対する批判が強まっていきました。そのなかでカリフォルニアのデザイナーたちは自問し、大量生産ではなく個人的な方法で作品をつくるほうへとシフトしていったのです」。

陶芸家のピーター・ヴォーカスが、「私はクラフツマンではくアーティストだ」と宣言し、器から彫刻へと転向したように、機能主義から脱却し自分らしく表現することを選び始めたデザイナーたち。その選択もまた、自由な風土のカリフォルニアならではといえるのかもしれない。(文・写真/今村玲子)


「カリフォルニア・デザイン1930-1965 モダン・リヴィングの起源」

会 期:2013年3月20日(水)〜6月3日(月)
休 館:毎週火曜日(4月30日は開館)
時 間:午前10時〜午後6時、金曜日は午後8時まで
    (入場は閉館時間の30分前まで)
会 場:国立新美術館 企画展示室1E




今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。