目黒区美術館
「シャルロット・ペリアンと日本」展、レポート

シャルロット・ペリアン(1903ー1999)というと、ル・コルビュジエとの共同作業や、金属とガラスを用いた家具、20世紀モダニズムデザインの牽引者のひとりといったイメージが強い。しかし本展では、日本で開催されたペリアンの展覧会を軸に、このフランス人女性デザイナーと日本との密接なつながりに焦点を当てている。

▲ 展示風景。第一章ではル・コルビュジエとの共同作業や来日までの経緯を振り返る

▲ ペリアンによる写真。火打ち石や流木などの自然物に興味を持ち、積極的に撮影した。ペリアンの娘ペルネットによると「目を扇のように見開いて、ものをよく見なさい」と母に教えられたという

日本で開催されたペリアンの最初の展覧会は、1941年の「ペリアン女史 日本創作品展覧会 2601年住宅内部装備への一示唆」(通称「選擇 傳統 創造」展)。(注:2601年とは皇紀のこと)

ペリアンは、ル・コルビュジエ事務所で同僚だった坂倉準三の推薦で、商工省の輸出工芸指導顧問として1940年に初来日。輸出用工芸品の指導をしながら、柳 宗理らとともに東北地方をはじめとする日本各地を視察して回った。各地で風土や暮らしに根付いた伝統的なものづくりに出会い感銘を受けたペリアンは、来日から7カ月後にその成果を「選擇 傳統 創造」展として発表したのである。

▲ 第二章では1941年の「選擇 傳統 創造」展で発表されたものを展示する

▲ 折りたたみ式の寝台と、竹編みの大きなざるを天板代わりに載せたテーブル

山形地方の「背当」をシェーズ・ロングの敷物に応用したり、布団にインスピレーションを受けたと思われる藁のクッションを用いた折りたたみ式の寝台など、どれもが斬新なアイデアに満ちている。戦中で物資が乏しいなか、ペリアンは竹をはじめとする日本の素材に注目し、慎ましくも快適な生活を実現するためのデザインを提唱したのだった。「選擇 傳統 創造」展ではペリアンの作品のほか、日本民藝館の所蔵品や各地の物産品なども展示された。

2回目の展覧会は、1955年に開催された「芸術の綜合への提案―ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展」である。53年にペリアンは航空会社の日本支社長に就任した夫とともに再来日。同展では建築、デザイン、絵画という要素を1つの空間に統合するというコンセプトのもと、ペリアンが日本で暮らすなかで文化や建築などから着想を得てデザインした家具などを発表した。

例えばスタッキングチェア「オンブル(影)」は文楽の黒子をイメージ。テーブル「ターブル・エール・フランス」は漆塗りのお膳、書架「ニュアージュ(雲)」は床の間などの違い棚から発想されたものだ。ペリアンはこうしたモチーフをそのままカタチとして引用するだけでなく、日本独自の建築モジュールも学びながら「カンカイユリー」と名付けた組み立て式家具の体系を考案するなど、戦後の大量生産や生活スタイルに向けたデザインコンセプトをいち早く提唱していた。

▲ 第三章。1955年「芸術の綜合への提案―ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展」の出展作品より。壁面に展示されているのが「ビブリオテック・ニュアージュ(書架「雲」)」1953年、右がスタッキングチェア「オンブル(影)」

▲ 左は「ムーブル・エクラン(間仕切り家具)」1953年、右は「ビブリオテック・メキシック(書架「メキシコ」)」1952年。いずれも金物の製作はアトリエ・ジャン・プルーヴェが担当した

フランスへ帰国後も、ペリアンは日本文化をこよなく愛し、理解するデザイナーとして、在仏日本大使公邸の内装など日本に関わるさまざまなプロジェクトを担当した。また経済成長とともに多くの日本企業が海外進出を果たした時代でもある。ペリアンは、こうした企業のフランス支店やショールームといったインテリアデザインを手がけながら、日本文化を広く西欧へ知らしめる役割を担ったとも言える。

戦中戦後の特殊な状況が影響していたと思われるが、当時ペリアンの提唱したコンセプトが日本国内で量産品として具体化したり、日本デザイン史において深く考察されることがあまりなかったように感じられる点が残念に思える。本展を通じて今こそ、ペリアンが日本の工芸やものづくり、そして暮らし方にどのような可能性を見ていたのか、日本人に何を伝えたかったのかを振り返ることは、とても意義深いことではないだろうか。ちなみに、神奈川、広島と巡回してきた本展は、目黒区美術館で最後となる。(文・写真/今村玲子)


「シャルロット・ペリアンと日本」展

会 期:2012年4月14日(土)~6月10日(日)
会 場:目黒区美術館
時 間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般900円、大高生・65歳以上700円、小中生無料



今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらへ